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「#軽率にCHICCA」から生まれた絆。菊過納言さんの場合 #コスメ垢の履歴書

#コスメアカの履歴書

ひらりさ

コスメを偏愛する「コスメオタク」が増えている。中でもTwitterの「コスメ垢」は、よりディープな情報発信の場として話題。この連載では、ライターひらりささんがいま気になるTwitterコスメ垢にインタビュー。彼女たちのおすすめアイテムや美容愛、さらには人生までをも覗き見ます。

同人サークル「劇団雌猫」所属の美容オタクライターひらりささんが、いま気になるTwitterコスメ垢の実態を探る連載「コスメ垢の履歴書」

2019年7月1日、コスメブランド「CHICCA」が今後の販売終了を発表。2019年後半のSNSでは「CHICCA愛」を表明するトレンドが盛り上がりましたが、その中でも目を引く名前のアカウントが「菊過納言」さん(@sac_flsw05)でした。

今回は、CHICCAを愛してやまない菊過納言さんにインタビュー。CHICCAへの愛や、ブランド終了に伴う今の正直な気持ちを聞きました。

CHICCAブランドクリエイターに届いた愛

――菊過納言さんのSNSアカウントはいつはじまったのでしょうか?

このアカウントをはじめたのは、ブランド終了のお知らせのずっと前、2018年5月です。その頃はIDと同じ「sac_flsw05」という名前でやっていました。その時点でもコスメのことは呟いていましたけど、まだ、ごく日常的なつぶやき目的でした。

――今のアカウント名にしてCHICCAに関する話をしはじめたのは、最近ということでしょうか。

そうですね。ブランド終了に先駆けて、CHICCAのブランドクリエイターを務めていたメイクアップアーティストの吉川康雄さんの退任が発表されてからです。みなさんがCHICCAとの思い出やおすすめコスメを呟いている中で、私もやりたいなと思うようになって。

ちょうど上半期のベストコスメを発表する人の多かった6月に、私も思い切ってCHICCA縛りのベストコスメをツイートしました。写真の加工とかもわからないレベルだったので、パワーポイントで画像を作ったんですよ(笑)。

――シルバニアとコスメの組み合わせ、めちゃくちゃかわいい!

これをたくさんの方にいいねしていただいたり、RTしていただいたりして、フォロワーさんが増えたんですが、ツイートを見ていると「私もほしいけど長年のファンの方優先で」「学生なのにデパコスは……」と、CHICCA購入に躊躇している人も多かったんですね。

だけど「ぜひできるだけ多くの人にCHICCAのコスメの良さを一度試してもらいたい!」という気持ちから、「#軽率にキッカ」というハッシュタグをつくって、不定期にRT祭りをするようになりました。

最初はブランド名をカタカナにして正式なアルファベットの名称を控えるなど、公式に遠慮していたのですが、次第にこのタグを使う人が増えていって、なんと吉川さんご本人も呟くようになったんです。

――すごい! CHICCAを生み出した本人に届いた!

それでタグは「#軽率にCHICCA」も使用することになり、私も、CHICCAを買いすぎている女、「菊過納言」を名乗るようになりました(笑)。

自分を変えてくれたのが、CHICCAだった

――そもそも、菊過納言さんはいつからコスメがお好きなんでしょうか。

初めて化粧をしたのは、大学デビューのタイミングですね。首都圏育ちで安室ちゃん世代だったんですが、全然ああいう感じになれない、地味な女子高生でした。

最初のコスメを買ったときも、母から「身綺麗にしたほうがいいから買いに行きましょう」と言われて、デパートに行ったんです。池袋の西武百貨店でした。

カウンターで手当たり次第、母が「娘が一重なんだけど、一重のメイクが得意な人いる?」と聞いてまわった結果、クリニークのBAさんが「ぜひ私にお任せください」と反応してくれて、クリニークで買い物をしたのを覚えてます。

――パワフルなお母さんですね!

BAさんたちも困ったと思います(笑)。母はぱっちり二重で、私にアイメイクを教えられなかったし、雑誌でも一重のモデルさんで活躍してるのって、私は『non-no』モデルだったりょうさんしか知らなかったんですよ。

そうやってタッチアップしてもらって、アイテムも揃えましたけど、その時点では「メイクが心から好き」という気持ちはありませんでした。家の掃除をしなければならないように、メイクもしなければならない、と思ってたんですね。

――それを変えてくれたのが、CHICCAだったと。

2015年の秋、35歳のときのことでした。実はその年の夏に離婚して、シングルマザーになったんですよ。小さい子どもを連れて実家に帰ったんですが、宗教の勧誘や訪問販売の営業が多くて。シングルマザーという境遇に対して、「かわいそう」「弱そう」という目で見られてしまっているのか……と落ち込んでいました。

仕事も続けていたんですが、ちょうどそのとき、どうしてもやりたいプロジェクトにかかわっていて、一緒に働いている方にも安心してほしいという思いがありました。「シングルマザーになっても、大丈夫です」と伝えたかったんです。

そこで、「職業人としても母親としても問題のないような、社会的に成熟した見た目を手に入れるのはどうだろう?」と思いついた結果手をのばしたのが、吉川さんの『生まれつき美人に見せる』という本でした。帯に「30メートル級の美女オーラが出る方法」とあって……。

――本から入ったんですね。

この本を読んで、「私もそんなオーラを放つ強い女になりたい!」と思って、CHICCAのカウンターに向かいました。それで、BAさんと話したら、その年の冬コレクションのテーマが「Arctic Glow(北極の光)」だったんです。

「お客様のお顔、今期のイメージにぴったりなんです。お顔をキャンバスにして、オーロラの光や家にともる灯りを肌に映えさせるコレクションなんですが、ぜひメイクさせてもらえませんか」と言われました。

「強いオーラを手に入れたい!」と意気込んで向かった先で、そのような言葉をいただいてとても衝撃を受けましたが、仕上がりも、それまで自分でやっていたメイクとは全然違っていて。

お化粧って、顔を変化させてコンプレックスを改善するものだと思っていたのだけど、季節を楽しむ芸術であり、物語をまとって「主人公」になるためのものでもあるんだ、とそのとき初めて理解しました。

それからCHICCAの女になって、自分でも「金星がのぼる空」をメイクで再現したり、「朝帰りの女」を演じてみたりとか、そんなメイクを楽しむようになりました。

――CHICCAのコスメで一番リピートしているアイテムは?

フローレスグロウ ソリッドファンデーションですね。私は粉っぽいメイクをするとすぐ老けた印象になって元気がなくなってしまうんですが、このファンデは仕上がりが軽くて、お仕事にもカジュアルな服にも似合うんです。365日使ってます!

あまり揮発しない成分のようなので、お直しには、朝使ったスポンジだけをそのまま持ち歩いて、ちょんちょんと直せるようにしています。

あとスムージングプロテクト リップベース。リップの発色が良くなります。日焼け止めの効果もある優れもので、これがなくなると本当に困るんです。

――ここで、メイクポーチの中身を見せていただいていいでしょうか。

ポーチの下から時計回りに、
・CHICCA ラディアントヌード プレストパウダー 01
・CHICCAフローレスグロウ リッドテクスチャー アイシャドウ EX11
・CHICCAメスメリック リップスティック 13、47
・CHICCAメスメリック ウェットリップオイル 01
・CHICCAメスメリック グラスリップオイル 10
・CHICCAスムージングプロテクト リップベース
・CHICCAフローレスグロウ ソリッドファンデーションのスポンジ
・CHICCAフローレスグロウ フラッシュブラッシュのスポンジ
・スポンジを持ち歩くためのジップケース
・コーム(LOVE CHROME F TSUKI SLV)
・CHICCA エンスローリング アイブロウペンシル W 02
・綿棒
・爪切り

ポーチは「ARTISAN&ARTIST*」です。あとは、CHICCA ビューティグロウ ボディクリーム ロゼを私物の容器に詰め替えて持ち歩いています。

——たくさん入れてらっしゃいますね!

崩れるから直したい、というより気分を変えたくて、いろいろ持ち歩いていますね。リップは2色、グロスも2色。荷物が重い日はもっと少なくしています。

——2019年はどれくらいコスメを買ったんですか?

例年だとスキンケア込みで毎月2万円くらいですが、CHICCAがなくなってしまうということで、向こう3年分くらいを買いためたので、その3倍ですかね……。毎月6万円くらい?

——すごい! どうやって保管してるんですか?

ひとまず、保管のための冷蔵庫を買いました。化粧品の保管方法として推奨されているわけではないですが、自宅の空調があまりきかないので、とにかく夏に劣化しないように……。

もちろんどのアイテムもほしい方がたくさんいる状態ですから、自分にとって最低限のものを買いためて、大切にとっておいてあります。

CHICCAがくれた美しさと喜びは、永遠に

——CHICCAにハマり、コスメを買い集めたことに後悔はないですか?

ないですね。もともとひとつのことにハマるとそれに突進するタイプなので、CHICCAに関しても「燃え尽きた」という思いがあります。

CHICCAのストックがなくなったあとも暮らせるように、先日はイメージコンサルを受けて、ほかに合うブランドもおすすめしてもらいました。こんなことがなければ、受けなかったかもしれません。とても楽しかったです。

何より、終了を機に、たくさんのCHICCA美女のみなさんの「こういうメイクが好きだった」とか「わたしのベストコスメ」とか「CHICCAとの出会い」といった物語を知ることができたのが、本当に幸せでした。

——コスメアカウントの中でも、CHICCA好きさん同士の絆は、とても深いものに感じられました。

以前、私が自虐的な呟きをしてしまったことがあるんですね。そうしたらフォロワーさんから「菊過納言様はよくCHICCAファンの方々を“CHICCA美女”と称されていますが、私にとっては、貴女様が一番のCHICCA美女です。美しい言葉を見せてくださってありがとうございます」といった趣旨のメッセージをいただいて。

まだまだ自分の中に「女らしくなることから逃げたい」「幸せになっちゃいけない」という縛りがあるのに気づきました。シングルマザーであることに一番とらわれていたのは、自分だったのかもしれません。

実際、CHICCAのアイテムの中でも、BAさんに何度かおすすめいただいたのに「自分には似合わないんじゃないかな」と避けていたものがいくつかあったんですね。それを最近買ってみたら、もしかしたら一番似合うんじゃないかというくらいしっくりきたんですよ。

——そんな出会いが。

メスメリック ウェットリップオイルの「04 スウィートメロディ」でした。フォロワーさんにいただいた言葉を思い出しながら暮らすようにしたら、周囲からも「変わったね」と言われるようになりました。

——CHICCAに出会って、そしてCHICCAを好きな人たちとつながって、さらに人生が変わったんですね。

CHICCAがなくなっちゃうことは悲しいしつらいし、なかったことにはできないんですが、今までもらった楽しさはずっと残ってますし、いろいろな自分を発見できた喜びもかけがえのないものです。

一度、吉川さんとCHICCAが提案してくれた美しさを脳にインストールしちゃったので、この先も大丈夫だと思います。

コスメ垢「菊過納言」さんの履歴書

(取材・文:ひらりさ、編集:高橋千里/マイナビウーマン編集部)

※写真のコスメはすべて本人私物です

『だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査』劇団雌猫

劇団雌猫の大人気同人誌『悪友DX 美意識』のグレードアップバージョン。化粧、ダイエット、エステ、整形、ロリータ、パーソナルカラー診断、育乳……。さまざまなジャンルのおしゃれに心を奪われた女性たちが、ファッション・コスメへの思い入れや、自身の美意識をつまびらかに綴り、それぞれが「おしゃれする理由」を解き明かす匿名エッセイ集。

※この記事は2020年01月18日に公開されたものです

ひらりさ

1989年生まれ、東京都出身。ライター・編集者。女性・お金・BLなどに関わるインタビュー記事やコラムを手掛けるほか、オタク女性4人によるサークル「劇団雌猫」のメンバーとしても活動。主な編著書に『浪費図鑑』(小学館)、『だから私はメイクする』(柏書房)など。

ブログ:It all depends on the liver.
Twitter:@sarirahira

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