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恋愛と相性の悪い「SNS」の世界 #平成恋歴史

鈴木涼美

「SNSは便利で楽しくていいんだけど、これほど恋愛と相性の悪いメディアツールはないね」とは私の友人で同い年の男性の弁だが、なかなか言い得て妙だと思った。

実際、具体的にSNSによって起こる恋愛へのマイナス効果を数えるときりがない。どこで何をしている、昨年のクリスマスは何をしていた、というような、相手に伝えるつもりではなかった情報が、伝わってしまう可能性がある。

うっかり無視してしまった電話を「寝てた」なんて言い訳しても、インスタのストーリーズを見たら「飲んでた」であることがバレてしまう。世間に訴えたい恋の愚痴をツイートしたら、本来の恋のお相手である彼氏にも伝わってしまう。うっかり知ってしまった相手の元カノや浮気相手の名前を検索してヤキモキしてしまう。過去を辿られて、自分のそれほど積極的に知られたくなかった過去が知られてしまう。

最近の知人の別れ話や男女間の揉めごとを思い出しても、半分以上がSNSに何かしら関係したものである。

それはおそらく、私たちが世界に見せたい自分の姿と、自分のことを恋愛対象としている相手に見せたい自分の姿を、意識的にも無意識的にも使い分けているからだ。

恋愛というのが、ある種の幻想をお互い持ち合って、また「相手のことを知りたいという欲求」を「近づきたいという欲求」につなげて距離を詰めていくものだと考えれば、会話や手紙などの直接的な言葉の交換を通じて、あるいは身体的な接触を通じて、少しずつ知り合い、よりいっそう好きになったり、信用していいものかどうか見定めたり、というのが、一般的に考える恋の形である。

その中で、相手に見せたい姿を自分なりにコントロールしたり、コントロールしきれず漏れ出てしまうものがあったり、コントロールしているうちに自分の本来の姿まで変化したりする。

そういう、まさに恋愛の過程を、間接的な発信や閲覧によって省略してしまうSNSは、恋の楽しみの多くを奪うということになる。もちろん、手紙やせいぜいメールの時代だって、不都合な情報が漏れたり嘘がバレたりすることはあったけれども、その情報量やアクセスの簡単さは比べものにならないし、むしろほとんど会話やスキンシップなしに相手のことを知った気になってしまえる材料がそこにある。

では、SNSによって恋愛が豊かになる側面なんてあるだろうか、と考えるとけっこう難しい。相手の嘘を見抜けるとか、過去を知ることができるというのはむしろ恋愛の過程においてはマイナス面なのだとしたら、結局プラスになってはいないのだろうか。

3年前に離婚してから独身の友人がいる。彼女自身にもしっかりした収入があるし、子どももおらず、離婚もお互い納得の上だったので、周囲はそれほど心配していなかった。

彼女のSNSを見ても、特段混乱したり落ちこんだりしているようにも見えなかった。日本酒バーの写真や会社のプロジェクトの報告が連なるFacebook、趣味のゴルフ関係の投稿が多いInstagram、読書に関する投稿がメインのTwitter、どれも総じて通常運転だった。

最近、久しぶりに彼女と飲みに行った。むしろちょっと若返って綺麗になったかな? というくらい生活は順調なようで、最近、離婚して2人目の彼との結婚を考えているようだった。彼女がちょうどこんなことを言っていた。

「実はね、離婚のきっかけとは別だけど、結婚していたときInstagramのアカウントに夫の浮気をほのめかす、みたいなメッセージが来たことがあって、それ以来、離婚するまではほとんど使ってなかったの。で、別れて、彼にも自分にも新しい恋がはじまる可能性はたくさんあって、そうすると、やっぱりいつまでも前の夫に連絡とったり、こちらからあえて近況報告したりするのは、お互いの未来にプラスじゃないからやめようっていうのはすでに約束してたのね。そのかわり、それまでよりちょっとインスタとかFacebookの投稿は多めにするようになった。そうすると、私は元気だよ、ってどっかで見て安心してくれてもいいし、あなたと結婚したことも別れたことも人生のマイナスじゃなかったよっていうメッセージにもなるし、彼の生活も順調だなって思えるし。逆に、投稿しないと変に心配されちゃう気がして、自分も投稿して恥ずかしくない生活を送ろうとも思うしね。別れたあとのお互いの人生、関係はないけど、順調だなくらいは知り合っとくのって悪くないよ」

恋の途中には何かとトラブルの多いSNSは、たしかに恋愛との相性が悪い。恋の醍醐味であるふれあいや会話の邪魔になることもある。

ただ、SNSがきっかけで久しぶりに連絡をとった同級生と付き合った知人もいれば、連絡先を聞きそびれた仕事相手とInstagramのメッセージで連絡をとり合い、恋の予感を感じている友人もいる。

恋の最中の邪魔をしても、恋がはじまる前や終わったあとに少しだけ気持ちを助けてくれるSNSは、登場から少しずつ私たちとの相性を模索しているのかもしれない。

(鈴木涼美)

※この記事は2019年07月03日に公開されたものです

鈴木涼美

社会学者、タレント、作家、元AV女優。書籍『AV女優の社会学』『身体を売ったらサヨウナラ』『愛と子宮に花束を』『おじさんメモリアル』『オンナの値段』など。

・Twitter:@Suzumixxx

・Instagram:@suzumisuzuki

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