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【少女マンガに学ぶ不倫】第6回『ベルサイユのばら』

和久井香菜子

少女マンガ攻略・解析室室長の和久井香菜子が不倫を扱った少女(女性向け)マンガを毎週1冊ピックアップ! そこに描かれた男女の姿から、不倫の哀しさ恐ろしさを学んでいく連載です。美しく描かれることも多いけど、不倫はダメ、絶対!

こんにちは、少女マンガ攻略・解析室室長の和久井香菜子です。

六本木の森アーツセンターギャラリーで「マリー・アントワネット展」が開催中ですね(2017年2月26日まで)。
おそらく日本で一番有名な外国人王妃さまじゃないでしょうか。
美しくておしゃれで(まあ船型のカツラとかは常人には理解しがたいものがありますが)薄幸の人。池田理代子さんが「これをマンガにしたら絶対におもしろい!」と編集者の反対を押し切って『ベルサイユのばら』の連載をはじめたのも頷けます。

私もおかげさまでフランス革命についての本を読みあさり、ハプスブルク家やらの周辺についても読み始め、ヨーロッパ史にもそこそこ詳しくなりました。
『ベルサイユのばら』の原作とも言えるシュテファン・ツヴァイクの『マリー・アントワネット』を読むと、彼女が巷で言われているような愚かな女性じゃなかったことがよくわかります。
「パンがないなら、ケーキを食べればいいじゃない」とのたまったという話は、革命時にねつ造された可能性が高いのだとか。フランス人にとって外国人(オーストリア生まれ)だった彼女は、いろんなものを背負って悪者にされてしまったようです。

アントワネットといえば『チェーザレ』で本格歴史マンガ家としての地位を確立した惣領冬実さんがベルサイユ宮殿監修で『マリー・アントワネット』という作品を描きました。これを読むと、彼女とルイ16世は、すごく夫婦仲がよかったんだなあと驚かされます。

今週の教科書『ベルサイユのばら』

これを読んだことのない少女はいないくらいの化け物作品でした。最近は未読の若い女子もいるようで、時代を感じますね。
オーストリアの女帝マリア・テレジアの娘、マリー・アントワネットは両国の和平のためにフランス王太子ルイ16世と結婚することになります。
その結婚式の行列で指揮を執っていたのが、男装の麗人オスカルさま。そして、のちに知り合うフェルゼンを加えた3人は同い年で、『ベルサイユのばら』の主人公とのこと(の割にはフェルゼンだけ影が薄い気がするけど)。

オスカルの護衛の元、アントワネットは訪れた仮面舞踏会でフェルゼンと出会います。出会ったその日から美男美女の2人は恋に落ちてしまうのです。

その場でアントワネットの素性を知ったフェルゼンは、すぐさまベルサイユに彼女に会いに行きます。
一方でフェルゼンを慕うオスカルは、報われぬ恋に身を焦がします。
「くっそー、出会ったときにちゃんと女の格好をしていれば……」
揺らぐオスカル。一方フェルゼンはフェルゼンで、
「お前が女として初めから会っていたらもしかしたら俺らはいい感じだったかもよ」
とかうまいこと言っちゃって、ホント色男ですよ。

その後フランス革命が勃発、フェルゼンは命をかけて国王夫妻を助けるために奔走します。
有名なヴァレンヌの逃亡を企画したのもフェルゼン、その後も国王、王妃を救うためにさまざまな行動を起こしていたようです。

アントワネットとフェルゼンに学ぶ「不倫か否かのライン」

『ベルサイユのばら』では、フェルゼンとアントワネットはコソコソ王宮の庭で密会したりしてますが、結ばれたのはたった1回、幽閉中の王妃に会いにテュイルリー宮へ忍んでいったときだけ。
その直後にのうのうとルイ16世と面会して話しているのには「すごい厚顔だな!」と思いますけど、さんざん密会しておきながら一度しか関係しなかったのは、2人の理性に乾杯したい気分です。

と、作品中は一応不倫関係ということになってますが、実際のところ、ふたりが不倫関係にあったかどうかは不明だそうです。

ただ、間違いがないのは、フェルゼンがアントワネットの熱烈な信奉者だったこと。
危険を冒してまで彼女を救うために奔走し、一生独身を貫いたこと。

そこに「男と女だから絶対なにかあるはず」と思うのは、もしかしたら下品な発想なのかもしれないな、と思います。
性的な関係なく、信頼し合う男女がいたっていいじゃないですか。

マンガでは、ルイ16世との結婚をあまり幸福な形には描かなかったので、フェルゼンとの恋をロミオとジュリエット的に盛り上げた感があります。
でも、なにしろ両思いのオスカルとアンドレですら、最後の最後にようやくものすごいダイナミックに夜を迎えているので、不倫関係であるアントワネットとフェルゼンがさっさと堂々といたすわけにもいかなかったでしょう。
ぶっちゃけ、ベルばら解説本を読むまで、2人が関係したってことに気付かなかったですよ。たいへん美しい一枚絵で描かれておりました。

「敬愛」と「信頼」と「信奉」って、すごいギリギリラインだけど、実際の不貞行為がなければそれでいいんじゃないかな~

まとめ

不倫にたいへん寛容だった(らしい)フランス王宮。
それでも、ルイ16世は愛妾の1人も持たなかったので、不公平この上ないです。いい人なのに「かっこよくない」「趣味が合わない」だけで不倫を肯定されたら、たまったもんじゃありません。作品としてはそんなふうにも受け取れます。
でも実際は、アントワネットとフェルゼン、単なる友情関係かもしれないですよ~。

「ぜったいになんかあったはず!」と思うあなた、ちょっとおいしい空気でも吸いに行って心を清らかにしてきましょ!

※アンドレは、オスカルについた小姓のような人で、子どもの頃から一緒。彼女のために命をかけて、失明までしちゃう挺身っぷり。下僕男子の鏡的存在です。

(文・イラスト 和久井香菜子)

★次回の『少女マンガに学ぶ不倫の実態』は11月19日(土)掲載予定です、お楽しみに!

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※この記事は2016年11月12日に公開されたものです

和久井香菜子

少女マンガ攻略・解析室 室長(http://kanako-wakui.net/index/)、編集・ライター。卒業論文で『少女マンガの女性像』と題して、女性の社会進出と少女マンガの主人公の描かれ方がどうリンクしているかを研究。以後、各種少女マンガレビューの執筆を始める。著書に『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)がある。

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