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働く女性は知っておきたい「配偶者控除見直しの件」

現在、政府は「配偶者控除」の見直しを進めています。8月17日には、加藤勝信官房副長官が「配偶者控除の見直しに積極的」という報道がありました。配偶者控除について、皆さんもぜひ知っておきましょう。

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「配偶者控除」の問題点って!?

現在、配偶者控除の見直しが進められています。この配偶者控除について、税理士・備順子(そなえ じゅんこ)先生にお話を伺いました。

――そもそも、配偶者控除とはどんなものですか。

備先生 「配偶者控除」は、「所得の少ない配偶者を扶養している分、税金を軽くしてあげようというシステム」です。例えば、専業主婦で収入のない妻を養っている夫の家庭では、その分夫の税金が安くなります。

奥さんが働いている家庭でも、その所得金額が少ない場合には、この軽減措置が受けられますし、ある程度多くの所得になればこの優遇措置はなしですよ、というふうになっています。

具体的には、旦那さんの所得から「配偶者控除の38万円分」を引いて税金を計算します。日本は累進課税制(所得金額が上がるほど税率が高くなる制度)なので、所得金額が少なくなればその分税金は安くなりますよね。

ですので、配偶者控除が受けられれば税金が安くなってお得なわけです。

「控除」って何ですか?

「控除」は普段あまり使う言葉ではありませんので、ここで説明をしておきましょう。理解している人は、この段をすっ飛ばして先にお進みください。

控除とは、ある金額から一定の金額を差し引くことです。

これだけでは漠然として分からないと思いますので、例を出して説明しましょう。
例えば、あなたに「200万円」の所得があったとします。これに所得税が課されるとすると、税率は10%です。

そのまま税金を計算すると、

200万円 × 10% = 20万円

になりますが、ここに「控除額」というのが入ってきます。
国税庁のホームページを見ていただくと分かりますが、
所得金額が「195万円を超え、330万円以下」の場合、「控除額は9万7,500円」と書いてあります。この金額分を税金から引いていいのです。

つまり、所得税の金額は、

200万円 × 10% = 20万円
20万円 - 9万7,500円 = 10万2,500円

と計算して、10万2,500円でいいというわけです。
簡単にいえば、税の計算で「控除」という言葉が出てきたら、「この金額を引いて計算してもいいよん!」ということなのです。

配偶者控除がなぜ問題になるのか?

――その配偶者控除がなぜ今問題になっているのでしょうか。

備先生 現在の配偶者控除は、高所得者に有利な制度と考えられているからです。

仮に、妻の年収が103万円、最高税率の夫と、所得の少ない夫で比較してみましょう。

現在、日本の所得税は「所得金額が大きければ大きいほど、税金も重く」なっています。最高税率は所得税40%+住民税10%の50%です。

この税率を適用しますと、

最高税率の高所得者の人

・所得税:38万円×40% = 15万2,000円
・住民税:33万円×10% = 3万3,000円
小計:18万5000円の節税

●……住民税の場合、控除額は33万円が上限です。

一方、所得の少ない場合はどうなるでしょう。所得税の最低税率は5%、住民税の税率は10%ですので、この税率を適用しますと、

最低税率の低所得者の人

・所得税:38万円 × 5% = 1万9,000円
・住民税:33万円 × 10% = 3万3,000円
小計:5万2,000円の節税

このようになりますので、高所得者の方が節税金額が多いという結果になるのです。この節税額の不公平は、先に配偶者控除を適用し、その後税率を掛けているから起こることです。この点が問題だといわれています。

年収を抑えているのは高所得者の妻が多い

――なるほど。他にも問題点はあるのでしょうか。

備先生 はい。「配偶者控除の恩恵を受けられるのは、その年の所得が38万円以下」となっているのですが、これも問題視されています。所得が38万円になるのは、年収が103万円以下である必要があるのですが、給与が103万円を超えないようにする人がいらっしゃるからです。

――配偶者控除を受けるために、働かないようにして給与を調節するわけですね。

備先生 はい。実際、配偶者控除を受けられるように、給与を103万円以下に抑えているのは、夫が高給取りの家庭の妻が多いのです。

夫の給与が少ないという妻は、税金よりも生活費を稼ぐのが第一ですから、目いっぱい働かなければなりませんし、そうなると配偶者控除を受けられないのです。

――なんだかちぐはぐなんですね。

配偶者控除見直しのあれこれ

――配偶者控除の見直し案にはどのようなものがありますか。

備先生 誰でも基本的生活費(年間所得が38万円)には税金が掛からないようになっています。その基本的生活費を「基礎控除」といいます。

先日の発表では夫婦がどのような働き方をしようと、それぞれの基本的生活費の合計額(38万円+38万円の76万円)を差し引いて計算しようというものです。

現在は、パート収入が103万円のとき、給与の必要経費の65万円を差し引いてから、基本的生活費の38万円を差し引くことで、妻自身の税金は0円です。さらに、夫の方で「夫自身の基本的生活費」と「妻の分の配偶者控除」の合計76万円を差し引くことができ、夫婦合わせて114万円も差し引けています。

これでは、夫婦で3人分の基本的生活費が差し引けていることになって不公平です。ですから、夫婦の働き方がどうであれ、夫婦で76万円を差し引けるようにする案です。

――見直し案でもまだ、高給取りの人に有利になるような気もしますが……

備先生 税率を掛ける前に「配偶者控除を差し引く」のではなく、税率を掛けた後に「配偶者控除としてその分の金額を差し引く」という案もあります。これなら、税率と関係ありませんので、高所得者も低所得者も同じ額の税金が少なくなります。

上記の「最高税率の高所得者の人」と「最低税率の低所得者の人」で、節税できる金額に差が出るということが起こらなくなるというわけです。

海外の配偶者控除はどうなっているか!?

――外国ではどのようになっているのでしょうか。

備先生 アメリカでは、「夫婦の所得を合計し、2で割って税額を計算する方法」と「夫婦で別々に計算する方法」で、どちらか有利な方を選択できます。

――いかにもアメリカっぽいですね。

備先生 フランスでは「世帯課税」になっています。世帯全員の所得を合算して、それを家族の人数で割って税額を計算します。このフランス方式は子だくさんの家庭の税金負担が激減します。

――なるほど! 子供が多いほど、課税所得が少なくなるわけですね。それは「少子化対策」に効くかもしれませんね。

備先生 そうなるかもしれません。しかし、税金が少なくなるからどんどん子供を産む人が多くなるかというと……。

それよりも、女性が安心して働けるよう、保育所や介護施設を十分に用意し、無料か低価格で利用できるようにする方が効果があるはずです。

「保育所・ベビーシッター・介護サービスに掛かった経費」を所得から差し引けるようにしようという案もあるのです。

また、いったん全員に公平に税金を払ってもらって、その代わりに育児中や介護中で大変な家庭にはお金を給付するという案もあります。

安心して働ける環境こそ大事!

――他に配偶者控除に問題点はありますか?

備先生 現在、配偶者控除の対象となるのは、「戸籍上」の配偶者だけです。実態は夫婦同然なのに事実婚(内縁関係)の場合は、全く配偶者控除はありません。

また、同性カップルの同性婚は現在日本では認められていません。こちらもやはり配偶者控除はありません。

今は家族の在り方や働き方がさまざまなのですから、公平で中立的な税制のために、根本的に見直すべきでしょう。国民が納得し、合意できる「落としどころ」をどこに持っていくのか、今年の税制改正は注目されています。

――先生のご意見はいかがでしょうか。

備先生 税金とは「あるところ」から集めて、「ないところ」へ配分する(ばらまく?)システムです。現在、年金、介護、教育などの財源不足は、「待ったなし」の状態です。私たちが安心して働けるように、集めた税金で「より良い環境」を整えてもらいたいものです。

――ありがとうございました。

今回取材した要点をまとめてみます。

●「現在の配偶者控除は高所得者に有利」という声があって、そこが問題視されている。
●配偶者控除の改正プランには以下の2案が出ている。
(1)夫婦合わせて控除を76万円にする。
⇒夫婦二人分の基礎控除を、不公平なく世帯に適用する効果がある。
(2)所得税などの税率を適用した後に、控除の分の金額を引く。
⇒所得の格差に関係なく控除を公平にする効果がある。
●現在の配偶者控除には、事実婚の夫婦、同性カップルには適用されない。
●より公平な税制にするため、政府の改正プランには注目する必要がある。

政府が配偶者控除の見直しを進めていますが、より公平な税制になるようにしてもらいたいですね。

⇒備順子先生のサイト
http://yarerunda.jp/

●……記事内で紹介した配偶者控除の改正案は、税理士会や有識者より挙がったものをまとめています。政府案はまだ公開されていませんのでご注意ください。

(高橋モータース@dcp)

※この記事は2014年09月20日に公開されたものです

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