名古屋大学附属病院の「再生歯科外来」―再生歯科ってどんなもの?
「再生医療」の分野に注目が集まっています。「髪の毛」「歯」「臓器」などを新しく再生できたらどんなにいいことでしょうか。まだそこまで実現はできていませんが、それでも最先端の再生医療を受けられる病院はすでにあるのです。
名古屋大学附属病院には、日本で唯一の「再生歯科外来」があります。この再生歯科外来では、再生医療研究の臨床応用を行っているのです。
名古屋大学 医学部附属病院 歯科口腔外科 助教の片桐 渉さんにお話を伺いました。
再生歯科外来は「臨床応用」の場
――再生歯科外来とはどのようなものですか?
片桐先生 私たちは人間のいろいろな組織の再生医療研究を行っています。例えば、
・骨の再生医療
・歯周病に関する再生医療
・しわの再生医療
などです。
これらの臨床研究として、再生医療を行う外来を設けているのです。
――すでに再生医療を行ってくれる所があるというのは一般にはあまり知られていないようですが。
片桐先生 一般の方はあまりご存じないかもしれませんが、組織レベルの再生医療の進歩は著しいものがあります。臨床応用が可能なものもあるわけです。
●……組織レベルの再生医療では「皮膚」がとても有名です。日本でも5年前より保険収載されています。
現在受けられる治療は主に二つ!
――再生歯科外来では、現在どのような治療が受けられるのでしょうか?
片桐先生 私たちが行っている治療は主に次の二つです。
●歯茎が痩せてしまった人向けに、骨造成
●歯周組織の再生
歯が抜ける、入れ歯を使っているなどの場合には、歯茎が痩せてくることがあります。歯茎が痩せると骨も弱り、インプラントなどを行うための堅牢な支持基盤となりません。
そこで、幹細胞から骨細胞を作り、それを移植して骨造成を行うのです。
また、歯周病などに感染して骨が溶けてしまうと、やはりインプラント治療などを行うことができません。「骨」は「歯」と密接に結び付いているのです。
そこで、細胞のエキスを移植するなどして骨の周りの組織を再生させることを図ります。
――歯の治療には骨が大事なのでしょうか。
片桐先生 はい。例えば歯槽膿漏(のうろう)に罹患(りかん)して歯が抜けてしまうということになりますと、人工歯根を作って入れ歯を植立しないといけません。
しかし、人工歯根を支持できる骨がないとできないのです。ですから骨を再生することは極めて重要なことなのです。
再生歯科外来で治療を受ける条件は?
――再生歯科外来で治療を受けるのに何か制限のようなものはありますか?
片桐先生 歯の領域ですので、それほど厳しい条件はありません。ただし、「感染症にかかっていない」「極度の貧血ではない」などの条件はあります。
治療の前提となる条件に合致していない場合は施術することはできません。
――どんな治療を受けられるかを理解することも大事でしょうね。
片桐先生 はい。私たちの治療で何ができるかをしっかりご理解いただくことですね。
――再生医療と聞くと「歯が生えてくるんだ」といった想像をされる人が多いかもしれませんね。
片桐先生 私たちに相談される患者さんの中には、そういったイメージを持っている方もいらっしゃいますが、現実問題として、まだそこまでは実現できていません。
「歯」は、皮膚などと違って、エナメル質、象牙質、歯髄など複数の組織から成っています。これらを作るのはとても難しいことなのです。
動物を使って歯の再生に成功した実験例はありますが、人間への応用が可能になるにはまだまだ時間が必要なのです。
治療を受けるといくらかかる?
――下世話な話で恐縮ですが、治療を受けるのにいくらくらいかかるのでしょうか。
片桐先生 そうですね、その患者さんの状態によっても異なるのですが、骨造成といった部分だけですと、5万-20万円ぐらいではないでしょうか。
同様の治療を一般の歯科医院で受けたときのコストとあまり変わらないと思いますよ。
――思っていたよりも高価ではありませんね。
片桐先生 細胞培養の部分が技術的にも難しく、手間が掛かるのですが、現在は、その部分は「研究費」ということで賄っていまして、その部分は患者さんにご請求していません。ですからその分お安くなっているのです。
将来的にその部分も患者さんにご負担いただくことになれば、コストは大きくなるかとは思いますが。
でも誤解しないでください。一般の歯科でも行っている、インプラントを行って、きれいな人工歯を植えるといった作業になると、そのコストは別ですし、その場合は、普通の歯科と同様、歯1本につき40万円といったコストになってしまいますので。
薬で歯を再生する時代が来る!?
――これから先、どのようなことに取り組まれますか。
片桐先生 二つのことを考えています。
●歯の再生医療ができる「薬」の開発
●「細胞バンク」の設立
細胞のエキスを薬にして、歯の再生治療に活かすことができないかと考えています。この「薬」ができると、より簡単に効果的な治療が受けられることになります。
また「細胞バンク」は治療を簡便に行う一助になります。先ほど申し上げたとおり、「細胞の培養」は難しい作業です。技術が必要で、日本国内でそのような技術を持った研究機関、また病院は数カ所しかないでしょう。
そこで「細胞バンク」を全国に作り、治療機関にそこから培養細胞を送るようにするのです。培養細胞の利用が簡単になり、利便性が高まることで、より多くの患者さんが治療を受けられることになるでしょう。
――なるほど。国の助成も必要ではないでしょうか。
片桐先生 そうですね。例えば「再生医療特区」といった構想も必要なのではないでしょうか。最先端の再生医療技術を臨床応用できる特別区があれば、さらに発展していくと思います。
――ありがとうございました。
「再生医療」といっても、「人間の歯を再生すること」はまだ現実にはなっていません。しかし、少しずつ、そして確実に再生医療技術は前進しているのです!
⇒『名古屋大学附属病院 歯科口腔外科』の紹介ページ
http://www.med.nagoya-u.ac.jp/hospital/1388/1391/s_shikakoukuugeka.html
(取材協力:片桐渉、文:高橋モータース@dcp)
※画像はイメージです
※この記事は 総合医学情報誌「MMJ(The Mainichi Medical Journal)」編集部による内容チェックに基づき、マイナビウーマン編集部が加筆・修正などのうえ、掲載しました(2018.08.02)
※本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください
※この記事は2014年04月22日に公開されたものです