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生活保護の基準より安い月給……差額分はもらえないの?「受給できるケースもあるが厳しい条件つき」

アベノミクスに沸き立つ日本経済、と言いたいところですが、なかなか庶民の懐が温まった実感までは伴っていないのが現状といったところでしょうか。そんな中、生活保護の不正受給が取りざたされたこともあり、現在、事実上支給額が減額という流れにあります。

それでも「あれ? 自分の給料は10万円もなくて、生活保護費よりも低いらしいけど……何で働いている人の方が収入が少ないの?」なんて声もチラホラ。制度は有名であっても案外、実際の支給要件などについては知らないことだらけなのが生活保護。その内容について一段深く、関東圏内で働く現役ケースワーカーM.Sさんに聞いてみました。

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受給条件をクリアすれば差額分が支給されることも

――生活保護の基準より月給が低い人が、その差額分が支給される可能性はあるのでしょうか?

「可能性はあります。生活保護法第2条に、『すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護を、無差別平等に受けることができる』となっており、法第7条『申請保護の原則』により、本人の申請意志をむやみに止めることはできません」

――申請にかかる要件はどんなものになるのでしょうか?

「まず、どうして安い月給の場所で働いているのか。例えば『体の具合が悪く、周りから見たら安月給であっても、自分にとっては限界である』という理由ならわかります。

しかし、ほかのところを探す気がないとか、好きな仕事がないとか、休む時間がほしいとか、そういった自分都合の理由であるならば、ハローワークに行く、仕事の情報誌を利用する等の最大限の努力は必要です。

そして資産調査を経て、本人に家や土地等、お金になる資産があれば、生活維持のために保護より優先して活用していただくのが原則です。資産調査後、保護の必要性があると判断された場合のみ、生活保護決定となります。

また、民法による扶養義務者の援助が優先されますので、援助が受けられるときはそちらが優先されます。本人の生活維持のためにありとあらゆる施策を優先することから、生活保護制度は最後のセーフティーネットといわれています」

受給すると行動が制限される!?

――資産の調査や、扶養義務者の援助、ほかの施策の優先などとなると、申請をするにはやはり相当な覚悟が必要な気がしますね。受給要件を満たしているかなどの審査は、どれほど厳格でプライバシーにかかわる内容になるのでしょうか?

「本人の資産調査はもちろんですが、扶養義務者の援助が優先と説明しました通り、3親等内の親族のことを戸籍で調査することになります。扶養義務者の現住所が判明した時点で、申請者へ金銭的な援助、精神的な援助等が可能か回答を求めることになります。

その際、申請者の現住所はプライバシーのため伏せますが、どの市町村で生活保護を申請しているかは親族に対し周知することになります。ただし申請者より話を聞いた上で、扶養調査依頼を送ることによって申請者に危険が及んでしまう場合(DVのケース等)には、送ることを控える等、臨機応変に対応しています」

――本人の調査だけではなく、親族たちにも援助を依頼することになるのですね。たしかに親や子供に心配かけたくない……とは言っていられない事態ですものね。生活保護を受給した場合、その後の追跡調査や、いわゆる贅沢の禁止、行動や自由の制限はどんなものがあるのでしょうか?

「まず追跡調査については、訪問調査を定期的に実施。扶養義務者への調査も1年に1回はします。

仕事をしている方には、毎月収入申告書(給与明細)を出していただきます。毎月求職活動報告書も書いていただき、月にどれだけ求職活動をしているかなども確認させていただきます。

資産調査では、生命保険や預貯金、車、バイク、その他資産になるもの(ピアノ等)の所持がないかどうかを確認。友達の車、家族のバイク等も運転することは認められません。

場合によって仕事のためという理由での運転が認められることもありますが、仕事以外での運転は原則認められません。

各種保険の解約返戻金も生活維持のために活用していただきます。行動の自由を奪う権限はありませんが、旅行等、生活状況が変化したときは必ず報告するなどの義務はあります」

不正受給が発覚したら……

――国民の税金でまかなわれているわけですから、厳しいようですが当然の義務のようにも思いますね。もし仮に何らかの虚偽による不正受給が発覚した場合、どのようなペナルティが課されるのでしょうか?

「もちろん、今まで支給していた生活保護費を全額返還していただきます。就労していたのに無申告だった場合なども収入分全額を返還していただきます。場合によっては警察に協力していただく場合もあります。

不正受給は犯罪です。虚偽の申告は絶対にしないでください」

――現実的には、月給が安いから生活保護を……ではなく、よりよい条件の職場を探したほうがメリットが多そうですね。

「もちろんです。まず、忘れないでいただきたいことは、生活保護は自立するための制度です。

国の税金で賄われた経済的支援によって、自立を目指していただきます。自立には、経済的自立だけでなく、精神的な自立も含まれます。

仕事ができる方には経済的自立を早期に進めていただきます。生活保護受給者でなければ、毎月の収入申告もいりませんし、求職活動の報告もいりません。親族への調査もありません。ケースワーカーが突然訪問することも電話をすることもありません。医療機関の中には、生活保護の方は受け入れられないというところもあります。

自分の働いたお金で生活することは、とても大事なことです。働きたくても働けない人の中には、皆様の税金を使って申し訳ないとおっしゃる方もいます。生活保護を申請する前に、よく自問自答してみてください」

――生活保護の現場からのメッセージをお願いします。

「生活保護制度については、テレビで取り上げられることも多いので、『何もしなくてもあれだけもらえるのか』と思ってしまった方もいるかもしれません。

国で定めた最低生活費ですから、多い・少ない、感じ方は人それぞれです。受給しているのが申し訳ないと思う人もいれば、少ないと文句を言う人もいます。少ないという方の中には、自分に合った仕事がないから働けないと理由を付ける人も多いです。

仕事を見つけ、生活保護を廃止になった方から、『何もしないでもお金が入ってしまう。多少少ないと感じても生活はしていける。生きる目的を忘れてしまいそうなときもある。慣れは恐ろしい。だからこそ早く生活保護から抜け出したかった』と言われました。

目的がある生活を送るのはすばらしいことです。常に目標・目的をもってこれからの生活を過ごしていただきたいと思います」

『生きる目的を忘れてしまいそうなときもある』という言葉が胸に突きささります。本当に困っていて、その状況から抜け出すことができないのなら支援を受けてほしいと思いますが、やはり親族や国民全員に負担を強いる制度でもあります。

安易な気持ちでの申請、虚偽の申請だけは絶対にしてはほしくないと、改めて強く感じる取材となりました。

(OFFICE-SANGA hiroshi funada)

※この記事は2013年11月19日に公開されたものです

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