ニュースやバラエティ番組で「まちがえやすい日本語」が取り上げられるたびに、自分の認識ちがいに気づかされるという人も多いのでは? とりわけ、過半数の人が誤った使い方をしている言葉の場合、それが正しくないということに気づく機会が少ないためなおさらです。
たとえば、「同い年なんですね。じゃあ同級生じゃないですか」という表現が誤ったものであるといわれても、どこが間違っているのか説明できる人はごく少ないのではないでしょうか。
じつはこれ、正しくは「同級生」ではなくて「同学年」なんです。
「『同級生』は『同じ学級の生徒・クラスメート』という意味なので、同じ学年であってもクラスがちがえば同級生ではないのです。ちなみに、同じ学校の卒業生が集まる場合、クラスが同じであれば『クラス会』、学年が同じであれば『同期会』、学年がちがう場合は『同窓会』と表現します」
こう説明するのは、『知らずに使っている実は非常識な日本語』(アスコム刊)の著者で、NHK元エグゼクティブアナウンサー、現在、獨協大学非常勤講師を務める梅津正樹さん。
40年以上にわたるアナウンサー時代には、用語委員も兼任。日本語にまつわる番組への出演も多く、当時から「ことばおじさん」の愛称で親しまれていた、日本語のプロフェッショナルです。
■あやふやな言葉の意味は、しっかりと理解する習慣をつけよう!
梅津さんによると、日本語を使って正しく伝え合うためには、お互いに言葉の正しい共通認識を持っておくことが必要とのこと。
「そうあることが、社会人としての最低限の常識です」(梅津さん)
しかし、自分がまったく知らない言葉なら、使う前にその意味や用法をしっかり調べるものなので、使い方をまちがえて失敗する確率は低いはず。つまり、誤った使い方をしても気が付かないのは、普段、あいまいな認識のまま使っている言葉ということになります。
「だから、正しい日本語を習得する一番の近道は、『知っているつもりで使っている、実は非常識な日本語』から優先的に理解することなんです」(梅津さん)
しかし、この、『知っているつもりで使っている、非常識な日本語』はちまたにあふれているので厄介。たとえば、「昨日、入籍しました」というよく聞く表現も実はまちがいで、正しくは「結婚しました」なのだというから驚きです。
「『入籍』は『既存の籍に入る』という法律用語です。現在の結婚は、夫婦だけの独立した戸籍が新たにつくられるため、入籍とは言いません」(梅津さん)
■まちがった表現はほかにもこんなに!
1.漫才番組を見て、一人で爆笑した正しくは:×爆笑した → ○大笑いした解説:「爆笑」は「大勢でどっといっせいに笑うこと」を意味するため、「一人で」の後ろには使えません。
2.状況は圧倒的に不利である正しくは:×圧倒的 → ○たいへん、とても解説:「圧倒的」とは「他とはかけ離れて優れている」という意味なので、「圧倒的に優勢だ」など、勝っているものに対して使います。
3.閑話休題で、ちょっと小話でもしましょう正しくは:×閑話休題で → ○さて、ところで解説:「閑話休題」は「無駄話はさておき~」という意味で、話題を本筋に戻すときに使う表現です。例文の場合、「さて」「ところで」などが適切です。
4.あの映画は珠玉の大作だ正しくは:×珠玉の → ○見事な解説:「珠玉」は「小さくキラッと光る」という意味があり、小さなものに限って使用するため、例文のように、規模が大きなものを褒めるときには適切ではありません。たとえば、小説であれば、長編小説には使えませんが、短編小説であれば使って問題ありません。
5.敷居が高いから、あのレストランは入ったことがない正しくは:×敷居 → ○格式解説:「敷居が高い」は、「不義理や面目ないことがわかり、その人の家に行きにくい」という意味です。つまり、自分になんらかの非がある場合に使う表現。なのに最近では、「自分には分不相応で手が届かない」という意味に誤解している人がほとんどです。
大勢の人が誤解したまま使っている表現だと、まちがっていても誰も気付かないことも多いので、まちがいを正す機会が少なそうですね。自分があいまいな認識のまま使っていることに気付いた時点で、きちんと意味を確認する習慣をつけるといいかもしれません。
梅津正樹NHK元エグゼクティブアナウンサー/獨協大学非常勤講師。1972年NHK入局以降、『お元気ですか日本列島』や『つながるラジオ』内の「ことばおじさんの気になることば」など、言葉にまつわる数々の番組に出演。著書に『似たもの言葉のウソ!ホント?』(東京書籍)、『敬語のレッスン』『プロアナウンサーに学ぶ話す技術』(以上、創元社)など。
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