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もしも小惑星を捕まえたら?「月に200万年分の核燃料」「レアメタル原鉱石7万5千トン」

米国時間4月10日、NASAは小惑星捕獲計画を発表した。無人機で小惑星を捕まえ、月軌道に運んでレアメタルを採掘するという、予算も1億500万ドルのビッグ・プロジェクトだ。

小惑星は資源になるのだろうか?採掘量の少ない貴金属が手に入るのと同時に宇宙の謎が解明できるのはありがたいが、月軌道に小惑星が増えれば、地球の自転に影響を及ぼすことになりかねない。

自動車2,600万台分のパワー

小惑星捕獲計画は早くもイメージ動画が公開され、その様子が描かれている。手順は投網(とあみ)と同様で、開いた網で小惑星を取り囲み、網を絞って固定する方法だ。網となる部分は浮輪を重ねた子供用プールのような筒状で、パラシュートや傘(かさ)をすぼめるように作動する。まるで巨大なクラゲが獲物を飲み込むような光景だ。

捕捉できる小惑星は、現時点では直径5~10m、500トンが限界とされている。ロシア・チェリャビンスク州に落下した隕石(いんせき)が17m、1万トンと推測されているので、これに比べるとはるかに小さいが、運動エネルギーは質量×速度の2乗×2分の1となるので、重く速い物体ほど受け止めるのは困難だからだ。

2110年に地球に衝突の可能性がある小惑星「2012 DA14」を例にすると、直径45m、13万トン、時速2万8千kmの速さで移動している。この運動エネルギーを1.5トン、時速100kmの自動車に置き換えると、およそ68億台分に匹敵する。

質量もさることながら、宇宙空間では速度がケタ違いに速い。時速ではとんでもない数値に見えるが、国際宇宙ステーション(ISS)とほぼ同じ秒速7.8kmなので格別速い訳ではない。しかし、先の式のように運動エネルギーは速さの2乗に比例するので、膨大なエネルギー源となるのだ。

捕獲する小惑星も秒速7.8kmと仮定すると、500トンなら2012 DA14の260分の1、自動車の例なら2,632万台に相当する。2012年・日本の普通乗用車の販売台数がおよそ140万台なので、19年分の新車を相手にするに等しい。小惑星と衝突すれば宇宙のかなたにはじき飛ばされることになるので、いくら無人とはいえ危険きわまりない作業だ。

宇宙の黄金狂時代

近傍の小惑星を捕獲すれば、地球への落下率が下がるので安全性も向上する。しかしこの計画のおもな目的は鉱石の採掘というから、人間の欲望は計り知れない。1,500の小惑星の1割には、白金(プラチナ)などのレアメタルが含まれていると予測され、資源としての期待が高まっているのだ。

経済産業省の資料によると、レアメタルは「地球上の存在量が稀(まれ)であるか、技術的・経済的な理由で抽出困難な金属」と定義され、携帯のバッテリーに使われるリチウムや白熱灯のフィラメントの材料となるタングステンなど、聞き覚えのある元素が多い。

もし試算通りに採掘できたらどうなるのか?極端な話、捕まえた小惑星すべてが白金を含んでいた場合、500トン×1,500個×10%なら7万5千トンの原鉱石が手に入ることになる。新・黄金狂時代の舞台が宇宙と知ったら、チャップリンもさぞかし驚くだろう。

ただしプラチナは含有量が少なく、原鉱石1トンから作れる装飾品はわずか3g程度と言われている。つまり1,500個の小惑星をすべて使っても、純度の高いプラチナはわずか225kgしか作れない。1g=5,000円で計算すると11億2千5百万円なので、100億円超のプロジェクトでは大赤字となる。

作業場所には月軌道が予定されているのも心配のタネだ。月の引力は地球の自転にブレーキを掛ける役割を果たし、軌道上に物体が増えればその働きも強まるので、小惑星の数が増えれば無視できないレベルとなるからだ。

月の質量はおよそ7.349×10の22乗kg、トンに直すと7,349京トンもあるので500tの小惑星が増えたところで14.6京分の1の、誤差の範囲にすぎない。

しかし小惑星で軌道が混雑し始めると潮汐(ちょうせき)力、つまり潮の満ち引きを起こす引力を、わずかながらも月以外の小惑星から受けることになる。もし月の軌道が土星の輪のように小惑星で埋め尽くされたら、月がいない場所でも潮汐力が起きることになり、小さな力が連続的に働き、今とは違う潮の満ち引きを生み出すことになるだろう。

まとめ

核融合科学研究所のwebでは、25トンのヘリウム3を月から持ち帰ると、世界の5分の1の電力がまかなえるという。100万トンと言われている埋蔵量が本当なら、200万年分の核融合燃料が月から採掘できることになる。

ただし、月がなくなると自転速度は4倍になるとシミュレーションされているので、削り過ぎには注意が必要だ。いびつな月も見たくないし、1日6時間生活で睡眠不足に悩まされるのも遠慮したい。

(関口 寿/ガリレオワークス)

※この記事は2013年05月12日に公開されたものです

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