理想と現実のギャップに苦しんだら。女優・奈緒に聞く「イメージ通りにいかない人生」の楽しみ方
あこがれの人、がんばってる人、共感できる人。それと、ただ単純に好きだなって思える人。そんな誰かの決断が、自分の決断をあと押ししてくれることってある。20~30代のマイナビウーマン読者と同世代の編集部・ライターが「今話を聞いてみたい!」と思う人物に会って、その人の生き方を切り取るインタビュー連載。
取材・文:ミクニシオリ
撮影:大嶋千尋
編集:杉田穂南/マイナビウーマン編集部
ヘアメイク:masaki
スタイリスト:岡本純子
人生は、思い通りに進むとは限らない。幼い頃に考えていたシンプルな将来像も、時代が変わればかなえるのが困難になる。自分が思い描いた理想、周囲が自分に対して抱く理想……そのギャップに苦しみもがく人も、きっと少なくはない。
「傲慢と善良」という小説は、期待と不安に押しつぶされそうになった一人の女性の半生を描き、その共感性の高さが話題となった。そして映画『傲慢と善良』で主人公の真実を演じることになったのが、今をときめく女優・奈緒さんだ。
「結婚するか、しないか」は二者択一ではない
奈緒さんは、オファー前から辻村深月さんの小説のファンだったという。中でも『傲慢と善良』という小説は、アラサー女性の婚活というセンシティブなテーマを扱い、スペック社会に立ち向かう女性の苦悩、未婚女性と家族との間に生まれる軋轢、恋愛の需供などのシビアな問題をリアルに描き、圧倒的な共感を得て、書店の売上ランキングでも1位を席巻した作品だ。
これまでドラマや映画を舞台に、チャレンジングな役柄にも臆さず立ち向かってきた奈緒さんは現在29歳。主人公の真実には共感する部分も多かったという。
「私が演じた真実という女性は、人から見られる自分と、自分だけが分かっている本当の自分とのギャップに悩んでいたんだと思います。私自身、自分が知っている自分と、人が感じる自分にギャップを感じた経験がありますし、そのズレに戸惑っていた時期がありました」
多かれ少なかれ、誰もがこういったギャップを抱えたことがあるのではないだろうか。上司や両親から期待される自分と、その期待に応えようともがく自分。恋人から求められる自分と、好きだからこそ仮面を被って振る舞う自分。真面目な人ほど周囲から期待される役割に応えようとしてしまうものだが、本当の自分を無視し続けることも容易くはない。
では奈緒さんはどのようにして、そのギャップと向き合ってきたのだろうか。
「真実は群馬出身なのですが、私自身も出身が福岡で、育った環境から自然と受け取った価値観があると思います。小さい頃は“結婚は20代後半になったら自然とするもの”と思っていましたね。だけど、地元の友人たちが結婚に向かって色々と行動を起こしている中で、私は仕事で精一杯でした。今はこれが自分なのだと受け入れています」
地方出身ではなくても、小さい頃からなんとなく「自分はいつか結婚する」と考えてきた人は少なくないだろう。両親が結婚して自分を産んでいる以上、自身もその道をイメージするのは当たり前のことだ。
しかし実際大人になってみると、時代は両親が結婚した時代とは様相が変わった。女性の社会進出、景気の傾きなどのさまざまな要因から、現代は結婚しても共働きが求められやすい。結婚すれば子育てと家事、仕事の両立が求められるし、そもそも結婚適齢期とされる時期は、キャリア構築にも重要な時期だ。だからこそ私たちはなんとなく、20代後半を見据える時期から「キャリアか、結婚か」の二者択一を迫られているように感じてしまう。
「今回の役を演じるにあたって、クランクインの前に結婚についてさらに深く掘り下げてみたんです。20代後半になると周囲からも結婚について聞かれるし、自分でも意識はしていましたが、今の時点で決める必要はないと割り切りました。義務感を手放してみるとむしろ身軽に感じて、今は逆に結婚と仕事を両立できるのではないか、とポジティブに考えられるようになりました」
主演級の女優として、映画やドラマに引っ張りだこの奈緒さんが、キャリアを大切にしたいと考えるのは自然なこと。頭の中に2つの選択肢を用意しておくのが苦手な人もいるかもしれないが、奈緒さんは「結婚するか、しないか」を選ぶのを辞めたことで、キャリアを積み上げる自分も、結婚した時の自分も、どちらも大切にできる気がすると話してくれた。
周囲からのイメージを受け入れながら、自分らしくあり続けるには
女優として活躍する人々は、一般人である我々以上に、パブリックイメージと本当の自分にギャップを感じることも多いだろう。『傲慢と善良』の主人公は、自身の中で思い描いてきた将来像と現実とのギャップだけでなく「本当の自分を誰にも理解してもらえない」という孤独にも溺れていた。奈緒さんにもそんな思いがあるのだろうか。
「仕事柄もあると思いますが、私は自然と慣れていきましたね。ギャップがあることは苦しいことなのではなく、ギャップがあるという状態でしかないと考えています。例えば、女優という肩書に“天然”という一言がつけられたら、なんとなくそのイメージでその人を見ますよね。生きていると、そういうことが無限にある。持たれるイメージに対しては“へえ〜そうなんだ〜”って思うし、だけど自分は自分らしく振る舞えばいいだけだと思っています。人からどう思われたいという理想もないですね」
儚げで女性らしい印象の奈緒さんだけど、彼女の考え方には柔軟な芯があるように感じた。人にイメージを持つ他人も、ギャップのあるイメージを持たれる自分も、どちらも否定することなく、自然と受け入れているのだ。野に咲く路傍の花が、周囲の草花など気にせず勝手に陽の光に向かって茎を伸ばしていくような、根の力強さを感じた。
「結局のところ、自分を一番理解してあげられるのは自分じゃないですか。自分っていう味方がいてくれるのって、すごく心強いです。自分らしさを受け入れた今、より強くそう思います。たぶんどんな人とも、深く関われば自分とは違う価値観とか、考え方も見えてくると思います。だけど、それさえ愛しいと思えるような出会いがあるといいなと思っています」
人と関わることが「楽しく、愛おしく」なるために
女優として多様な価値観に触れ、表現していく過程でさまざまな成長があったと振り返る奈緒さん。最後に、奈緒さん自身がたどり着いた、人間関係における一つの答えもシェアしてくれた。
「人と関わって生きる以上、人間関係における悩みは付き物だと思いますが、自分はどう思われているんだろうという不安は、本当は他人でなく自分に対して抱えていることではないでしょうか。あなたは大丈夫だし、他人は怖くない。そう思えたら、イメージを持たれることも、人と関わることも、もっと楽しく愛しいものになっていくはずです」
20歳の頃、福岡から一念発起して上京してきた奈緒さんにも、想像通りにはいかなかった経験がたくさんあったという。それでも彼女は立ち止まらず、現実やイメージのギャップに立ち向かい、今こうしてキャリアの花道を歩んでいる。
人生は迷路だ。だけど自分を信じることさえできれば、どんな選択にも自信が持てるし、他人が怖くないことを知れば、人生は今よりもっと豊かになるのだろう。
『傲慢と善良』
婚約者・坂庭真実が突然姿を消した。過去もうそもすべて隠したまま――。
仕事も恋愛も順調だった架だったが長年付き合った彼女にフラれてしまい、マッチングアプリで婚活を始める。そこで出会った控えめで気の利く真実と付き合い始めるも1年たっても結婚まで踏み切れずにいたある日、彼女からストーカーの存在を告白される。
そんな矢先「架くん、助けて!」と恐怖に怯えた真実からの着信が。彼女を守らなければとようやく婚約した直後、真実が突然消えた――。居場所を探すうち明らかになっていく<知りたくなかった過去と嘘>、すべてをさらけ出した2人の“一生に一度の選択”とは?
2024年9月27日(金)全国ロードショー
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