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「ふつつか者」の意味は? 類語や使い方を解説(例文つき)

前田めぐる(ライティングコーチ・文章術講師)

「ふつつか者ですが……」は結婚やビジネスのあいさつでよく聞く言葉ですが、正しい使い方を知っていますか? 今回はライティングコーチの前田めぐるさんに「ふつつか者」の意味や類義語、対義語について、例文とともに使い方を解説してもらいます。

「ふつつか者ですが……」は結婚やビジネスのあいさつでよく聞く言葉ですが、正しい使い方を知っていますか? 今回はライティングコーチの前田めぐるさんに「ふつつか者」の意味や類義語、対義語について、例文とともに使い方を解説してもらいます。


「ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします」

この言葉の意味は知らなくても、謙遜する言葉だろうと何となく想像のつく人がほとんどでしょう。

正確にはどういう意味なのでしょうか? どんな場面でも使える万能の決まり文句なのでしょうか?

この機会に、意味や用法を詳しく知っておくと、自信を持って使うことができるでしょう。

「ふつつか者」の意味と語源

「ふつつか者」の意味と語源について解説します。

まずは、意味から調べましょう。

意味は「配慮が行き届かない人」

「ふつつか者」の「ふつつか」は、漢字では「不束」と書きますが、ひらがなで表す方が一般的です。

「ふつつか者」を辞書で引くと、次のような意味があります。

ふつつかもの【不束者】
無骨な者。ゆきとどかない者。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)

「ふつつか者」とは、配慮が行き届かない人、気が利かない人のことを意味する言葉です。

実際には、その通りの意味であるかどうかは問わず、自分や身内を謙遜していう決まり文句として、「ふつつか者ですが……」と使われることがほとんどです。

語源は「太束(ふとつか)」

次に、「ふつつか者」の語源について解説します。

最初は「太くてしっかりしている」という意味だった

「ふつつか者」の「ふつつか」とは、現在の漢字では「不束」と書きます。

しかし、『俚言集覧(りげんしゅうらん)』という書物に『太(ふと)つか也(ふとつかなり)』とあり、もともとの漢字表記は「太束」であったと推測されます。

「太くてしっかりしている」ということは、当時、あまり洗練されていないように受け止められていました。

そのため、「頑丈でやぼったい。不器用。頑固で洗練されていない。ぶしつけ。たしなみや教養がない」など、良くない意味で使われることがほとんどでした。

次第に「才能やしつけが不十分な人」という意味に

そこから転じて、ふつつか者という言葉は、「風情のない人、才能やしつけ、たしなみなどが不十分な人」という意味を持つようになりました。

『源氏物語・夕顔』にも下記のようなくだりがあります。

「少し黒みやつれたる旅姿、いとふつつかに心づきなし」

これは「少し黒ずんでやつれている旅の姿は、たいそう不格好で興味が持てない」という意味です。当時はか細い人の方が、上品で好まれたようです。

「ふつつか者」はどんな時に使えるのか?(例文つき)

「ふつつか者」という言葉は、以下のような場面で使えます。

結婚式のあいさつをする時

結婚を前に、親同士があいさつをする時や、結婚式で、新郎や新婦の親・身内が列席者にあいさつをする時などに、男女を問わず使えます。

自慢のわが子であっても周囲の人たちに対して謙遜する言葉には、新郎新婦を温かく見守ってほしいという親の愛情がこもっています。

例文

ふつつか者の娘でございますが、どうぞよろしくお願いします。

ビジネスで初対面の相手にあいさつする時

ビジネスやプライベートで、初めて会う相手に対して、自分を謙遜して使います。

例文

ふつつか者でございますが、精一杯頑張りますので、どうぞご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。

ビジネスやプライベートで謝罪をする時

配慮が行き届かずに迷惑をかけた場合に使えます。

ただし、「ふつつか者」という言葉の意味を正確に知っている人は意外と少ないかもしれません。

意味をよく知らない相手に使ってしまうと、なぜそのような事態が起きたかの理由としては弱くなってしまいます。

そこで、「ふつつか者」という言葉を使う場合、下記のように「配慮が足りず」「行き届かず」など他の言葉を加え、文脈を工夫して使うと良いでしょう。

例文

・今回は誠に私の配慮が至らずにふつつか者でございました。幾重にもお詫び申し上げます。

「ふつつか者」を使う上での注意点

「ふつつか者」を使う上では、いくつか注意した方が良いことがあります。

「ふつつか者」の使いすぎは逆効果

何でもかんでも「ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いします」というあいさつで済ませてしまうことは、お勧めできません。

事前にハードルを下げるような作為に見えてしまう可能性もあり、「失敗した時のための免罪府か?」と疑う人も出てくるかもしれません。

あまり使いすぎると「あの人は誰に紹介しても、自分のことを『ふつつか者ですが』と言い訳しているが、大丈夫だろうか? 自分に自信がないのだろうか?」と思われてしまいます。

万能のフレーズとまでは言えないので、「ふつつか者ですが」と言うのはあくまで使うべきタイミングの時だけにとどめましょう。

上司が部下を紹介する時には使わない方が良い

自分や身内を謙遜する言葉なので、部下を取引先に紹介する時に「ふつつか者ですが、鍛えてやってください」と使う上司もいるかもしれません。

他部署への配属などで使う場合には、まだ良いでしょう。しかし、取引先に対しては「気の利かない者ですが」と言うことになるため、注意が必要です。

もし相手が額面通りに受け取れば、「気の利かない者」を担当にされたということになるため、がっかりさせてしまうでしょう。

むしろ「うちのホープです」「期待の新星ですので、安心してご依頼ください」などと言われるほうが、取引先も「仕事のできる人を担当にしてくれた」とうれしいでしょうし、部下本人のやる気もアップするでしょう。

他人については使わない

「ふつつか者」はあくまで自分や身内を謙遜していう言葉です。

「あなたは気が利かなくて、ふつつか者だ」「あの人はふつつか者です」とは使いません。

相手や第三者について配慮の足りなさなどを言及せざるをえない時には、次の類語や言い換え表現のなかから適切なものを選んで使うと良いでしょう。

「ふつつか者」の類語と言い換え(例文つき)

「ふつつか者」が使いにくい場合には、言い換え表現を検討しましょう。以下に似たような場面で使える類語を例示します。

「未熟者(みじゅくもの)」

文字通り、まだ成熟していないことから、欠けることが多いという意味です。

ふつつか者と同じように、思慮が足りないという意味もありますが、さらに広い意味で使うことができます。

自分を謙遜するだけでなく、他人についても使えます。

例文

・諸先輩から見れば、まだまだ未熟者だと映るかもしれませんが、彼なりに頑張っていると思います。

「不調法者(ぶちょうほうもの)」

「配慮やたしなみが足りない人」という意味です。「ふつつか者」とほぼ同じ。

ビジネスシーンでも使われ、自分を謙遜する時、他人を戒める時に使えます。また、お酒を断る時には、例文のように使えます。

例文

・お酒については不調法者で、全然飲めないのです。

「不肖(ふしょう)」

「(親に似ないで)愚かなこと」とへりくだっていう意味があります。「ふつつか者」と似ていますが、親が子のことを謙遜する際は使いません。

「親に似ないで」というニュアンスがあり、自身を持ち上げることにつながるからです。あくまで自分自身についてのみ使います。

例文

不肖私、当たって砕けるつもりで頑張ります。

「不行き届きの点が多々あると存じますが」

「ふつつか者ですが」の言い換え表現です。

ビジネスでは、「ふつつか者ですが」よりも、こちらの方がオーソドックスで使いやすいフレーズです。

イベントや会合の最初で述べる口頭のあいさつとして、またお客さまへの来場お礼はがきなどでのあいさつとして使えます。

来場お礼の場合には「不行き届きの点が多々あったかと存じますが」と過去形で書きます。

例文

不行き届きの点が多々あるかと存じますが、何卒よろしくお願いいたします。

「ふつつか者」の対義語(例文つき)

次は「ふつつか者」と反対の意味を持つ言葉を紹介します。

「気の利く人」

「ふつつか者」が「配慮の行き届かない人」を意味するのに対し、「配慮の行き届いた人」を意味する言葉です。

例文

・○○さんは、実に気の利く人だ。

「器量人(きりょうじん)」

「ふつつか者」が「才能がない人」を意味するのに対し、「器量人」は「才智に優れ、地位や職場にふさわしい力を発揮できる人」を意味する褒め言葉です。

例文

・ああ見えて、○○さんはなかなかの器量人です。

「通人(つうじん)」

通である人。「ふつつか者」が「風情やたしなみがない人」を意味するのに対し、「たしなみのある人」を意味する言葉です。

例文

・ワインにかけて、誰かその道の通人と言えるような人をご存じありませんか?

謙遜がいつも美徳とはならない時代

「ふつつか者ですが」と言って自己紹介を済ませられた時代は、ある意味謙遜が美徳だった時代です。

国際化が進み、何でも謙遜して済ませられる傾向は弱まっています。

言葉の効用を知り、臨機応変にコミュニケーションに活かすようにしたいですね。

(前田めぐる)

※画像はイメージです

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