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「いとおしい(愛おしい)」の意味は? 漢字や類語、使い方を解説

前田めぐる(ライティングコーチ・文章術講師)

「いとおしい」と「いとしい」、両方よく聞く言葉ですが、意味に違いはあるのでしょうか? 今回はライティングコーチの前田めぐるさんに、「いとおしい」の意味や類語、使い方について、例文とともに紹介してもらいます。

「いとおしい」という言葉は「可愛い。慕わしい」という意味です。

しかし、もともとは「見ていてつらい。気の毒」という「いとほし」という古語からきているとされ、その意味も今に残っています。

どんな場面で使えるのか、具体的な使い方や言い換え表現などを考えてみましょう。

「いとおしい」の意味と語源

まずは「いとおしい」の意味と語源を確認しましょう。

「いとおしい」の意味

「いとおしい」とは、辞書によれば次のような意味です。

いとおしい
(1)見ていられないほどかわいそうである。気の毒である。いたわしい。
(2)困ったことである。
(3)かわいい。かれんである。いとしい。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)

辞書によっては漢字で「愛おしい」という表記もあります。ただし、「いと(おしい)」は常用漢字外の読みです。

「いとおしい」という言葉は、「かわいい。かれんである。慕わしい」という意味で使います。

また、「見ていられないほど気の毒でふびんだ。困ったことである」という意味もあります。

なお「愛おしい」の他に「いとしい」という表記もあります。「いとしい」は「いとおしい」を短くした言葉で、意味に大きな違いはありません。

「いとおしい」の語源は「いとほし」

冒頭でも触れた通り、「いとおしい」は、もともと古語で「いとほし」という語に由来しています。

本来の意味は「かわいそう」

「いとほし」は、本来「見ていてつらい。気の毒だ。かわいそうだ」という意味があります。

例えば、『枕草子』には下記の記載があります。

「思はむ子を法師になしたらむこそ、心苦しけれ。ただ木の端などのやうに思ひたるこそ、いとほしけれ」(『枕草子』より)

これは、「かわいく思っている子を法師にするようなことは、実に心苦しいものだ。世の人が法師をほんの木の切れ端などのように(非情のものと)思っているのは、大変かわいそうだ」という意味です。

次第に「かわいい」の意味が加わった

前段のように、もともと弱い者や幼い者に対して「かわいそう」という意味で使われていた「いとほし」は、いつしか「いじらしい。かわいい。いとしい」という意味でも使われるようになったとされています。

『源氏物語』の例で見てみましょう。

「宮は、いとほしと思すなかにも、男君の御かなしさはすぐれたまふにやあらん」(『源氏物語』より)

これは、「大宮は(孫たちを)本当にかわいいとお思いになる中でも、男君のおかわいさは他に勝っていらっしゃるのであろうか」という意味です。

このように、「いとおしい」が「かわいい」の意味で使われていることが分かります。

「いとおしい」はどんな時に使えるのか?(例文つき)

「いとおしい」という言葉は、どんな相手に、どのように使えるのでしょうか。例文とともに見ていきましょう。

「慕わしい」「愛情を感じる」相手に気持ちを直接伝える時

子どもや家族、恋人など、愛情を感じる相手に直接使います。特に愛情が深い時、「いとおしくてたまらない」という言い方もします。

例文

・ママは、〇〇ちゃんがいとおしくてたまらないよ。

・あなたのことが、いとおしい。ずっとそう思ってきました。

「慕わしい」「愛情を感じる」存在について誰かに話す時

子どもや家族、恋人など、愛情を感じる相手について、「いとおしい」「いとおしく思う」などと使うことができます。

または、いとおしい存在を持っている相手や第三者に対して「いとおしいよね」「いとおしいことでしょうね」と客観的な言い方もできます。

例文

・彼は妻のことを心からいとおしく思った。

・上司から家族写真を見せられ、私は「お子さん、とてもかわいいですね。いとおしいことでしょうね」と言った。

「かれんで愛くるしい」という意味で使う時

「かれんで愛くるしい」という意味の「いとおしい」は、子どもやペット、あるいは年齢の離れたきょうだいなど、自分がかわいく思っている存在に対して使います。

また、他人の子どもであっても、自分の子どものようにかわいく思う時などにも使えます。

例文

・愛犬は、家族の一員であり、とてもいとおしい存在だ。

・〇〇ちゃんは、うちの娘とも双子のように仲が良く、私から見てもいとおしい。

「いとおしい」を使う時の注意点

冒頭で、「いとおしい」には「見ていられないほど気の毒でふびんだ」という意味もあると解説しました。

しかし、「いとおしい」は、「可愛い。愛くるしい。慕わしい」という意味で使うことが主流です。

そのため、「気の毒でふびんだ」という意味で使った場合、誤解なく受け取ってもらえない可能性があります。

そんな時は「気の毒です」「ふびんに感じます」など、ストレートに意味が伝わる言葉を選ぶ方が無難です。

「いとおしい」の類語(例文つき)

最後に、「いとおしい」と似たような意味を持つ言葉を紹介します。

「愛くるしい」

子どもなどがあどけなくて、とてもかわいらしい様子。「可愛い。かれん」という意味の「いとおしい」に近いニュアンスです。

自分の子どもだけでなく、他人の子どもについても使えます。例えば、上司のスマートフォンで家族の写真を見せてもらった時などに例文のように使えます。

例文

愛くるしいお嬢さまですね。課長も、かわいくてしかたがないことでしょう。

「いじらしい」

哀れで、思わず心を打たれるようなさま。漢字表記は「可憐しい」。「気の毒でふびん」という意味の「いとおしい」に近いニュアンスです。

子どもや、か弱い存在について使えます。

例文

・朝早くから懸命に働くいじらしい少年は、やがてたくましく成長した。

「いたいけ」

弱くて小さくて、痛々しい様子。また、「いじらしくて、かれん」という意味もあります。

「気の毒でふびん」という意味の「いとおしい」に近いニュアンスです。

例文

・その少女のいたいけな様子が心に刺さった。

「いとおしい」という言葉を生み出した心のありか

「いとおしい」を調べると、もともとは「かわいそう」という意味の「いとほし」から由来する言葉であると分かりました。

一見意外な気がしますが、そもそも、その対象に愛情があるからこそ、つらい様子や嫌な思いをしている様子を余計ふびんに感じる、ということかもしれませんね。

日本人には古くから判官びいきという言葉もあり、弱い立場の人に同情するところがあります。「いとおしい」もそんな日本人の心根から生まれた美しい言葉だと思います。

言葉だけでなく、そんな言葉を生み出した心も大切にしていけると良いですね。

(前田めぐる)

※画像はイメージです

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