エビデンスとは。どんな意味&使い方を業界別に簡単に解説
「エビデンスの意味は?」と聞かれ答えられますか? 何となく「このような意味だろう」と思っていても、いざ聞かれるとどういうことか説明できないカタカナ語は多くあります。本記事ではエビデンスの意味や使い方、類義語などを語彙に詳しいライターの小坂井さんに簡単に説明してもらいました。
エビデンスという言葉は、「意味をよく知って毎日使っている」という人と、「聞いたこともない。もちろん意味も知らない」という人に分かれる言葉です。しかも毎日使っている人でも、就いている職業によっては指している内容が異なる場合もあります。
本記事では「エビデンス」という言葉について意味を改めて整理し、日本に入ってきたきっかけや定着した理由、実際の使い方などを詳しく説明します。
エビデンスの意味がはっきりしない人はもちろん、意味はよく知っているという人にも、新しい発見があるかもしれません。
エビデンスの本来の意味を知ろう
エビデンスは「証拠」や「根拠」の意味の言葉です。辞書には以下のように記載されています。
エビデンス
証拠。特に、治療法の効果などについての根拠。
(『広辞苑 第7版』)
元々エビデンスは「evidence」という英単語に由来しています。
evidence
(1)(……の)証拠、根拠、(……という)証明、事実
(2)(……を)明白に示すもの、(……の)印、徴候、形跡
(3)【法律】(法廷に提出された)証拠、証言、証拠物件
(4)【神学】証(あかし)、明証、直証(『ランダムハウス英和大辞典 第2版』)
これを見ると日本語も元の言葉と同じ意味で使われていることが分かりますね。
しかし、なぜ証拠や根拠と言わずに、わざわざエビデンスというのでしょうか。エビデンスという言葉が出てきた背景も確認しておきましょう。
「エビデンス」が普及したきっかけ
エビデンスという言葉が広く日本で使われるようになったのは、1990年代の医療現場が始まりです。
当時、医療現場で「EBM」=evidence-based medicine (根拠に基づく医療) という考え方が注目されるようになりました。
病院で「この治療法は、〇〇の標準治療として、科学根拠に基づいて大勢の人に行われています」という説明を受けたり、薬局で「この薬は〇〇の症状の人によく処方されていて、効果を上げています」という説明を受けたことのある人もいるのではないでしょうか。
このように「ある治療法がなぜ採用されたか、ある薬が処方されるのはなぜなのかを明らかにする医療」がEBMです。「根拠に基づく医療」という言葉が長いので、英語の略語であるEBMがそのまま使われるようになりました。
EBMの普及と同時に「エビデンス」も単独で用いられるようになり、「エビデンスは?」「エビデンスがある」という使い方をするようになったのです。
「エビデンス」の意味と使い方
エビデンスという言葉は、日常会話で使われるほどには、まだ日本語として定着していないように思います。日常会話で「その話のエビデンスは?」と尋ねられても、違和感を抱く人の方が多いでしょう。
エビデンスが使われるのは、主に仕事関連や社会生活の公的な場面です。ここでは「エビデンス」を使用することが多い「医療」「ビジネス」「法律」「IT」「金融」「コールセンター」に分けて、意味と使い方を説明します。
医療現場での意味と使い方
前述した通り、医療現場では、治療法や薬が「ふさわしいと判断できる証拠」という意味で、「エビデンス」が使われます。
例文
・新薬の開発過程では、エビデンスを積み重ねていくことが重要である。
・新しいワクチンの有効期間に関するエビデンスはまだ存在しない。
ビジネスシーンでの意味と使い方
ビジネス分野ではプレゼンテーションや商談の場で、「自分(自社)の主張の裏付けとなる客観的な証拠や統計」などを指して、エビデンスが使われます。
例文
・エビデンスに基づく報告書の作成を行います。
・「その提案に関してはもう少しエビデンスが欲しいな」
法律分野での意味と使い方
法律分野ではEBPM(エビデンスに基づく政策立案)という言葉が2010年代後半に登場し、エビデンスが使われる機会が増えています。
「これまで~だったから」「こんなことがあったから」という理由で政策を決めるのではなく、「明確な証拠や根拠」に基づいて政策を立案しましょう、という考え方がEBPMです。
例文
・法整備に必要なエビデンスを収集する必要がある。
・エビデンスを重視して法律の立案に当たる。
IT分野での意味と使い方
システム開発などのIT分野でもエビデンスは使われています。IT分野では、ソフトウェアやシステムを開発するプロセスで、「正しく動作している証明や不具合が起こった証拠としてのデータや報告書、画像」などをエビデンスと呼びます。
例文
・テスト報告書にエビデンスとして画像を添付した。
・エビデンスとしてテストデータとソースコードを残してください。
金融での意味と使い方
銀行などの金融機関でエビデンスという場合、証拠や根拠から意味を転じて「金融資産情報、具体的には預貯金や株式などの資産」という意味になります。
例文
・金融機関がエビデンスの提示を求めた。
・資金計画を組む場合には、一定額以上のエビデンスの保有が必要である。
コールセンターで意味と使い方
電話対応業務を担当するコールセンターでもエビデンスという言葉を使います。コールセンターではトラブル防止のために電話を録音しますが、この「音声データ」をエビデンスと呼びます。
例文
・お客様とのトラブルをエビデンスとして残しておくことで回避する。
・今回のクレームに対してエビデンスを開示する。
「エビデンス」の同義語
エビデンスの同義語として、以下の言葉があります。いずれの言葉もエビデンスに置き換えることができます。例文と共に紹介しますので、チェックしてください。
証拠
置き換え例文
・報告書には証拠となるデータがない。→報告書にはエビデンスとなるデータがない。
根拠
置き換え例文
・この問題の原因がAだと判断するための根拠はありますか?→この問題の原因がAだと判断するためのエビデンスはありますか?
裏付け
置き換え例文
・そう主張するなら、裏付けを出してください。→そう主張するなら、エビデンスを出してください。
エビデンスと「ファクト」「ソース」「プルーフ」の違い
エビデンスに関連したカタカナ語として、「ファクト」「ソース」「プルーフ」という言葉があります。各々、エビデンスはどのように異なるのか、意味と使い方を見ていきます。
エビデンスとファクトの違い
ファクトはfactのことで、「事実」という意味です。日本では「ファクトチェック」など、複合語として使われる場合もあります。ファクトチェックとは、事実かどうかを判定するという意味です。
エビデンスはそれ自体が目的ではなく、何かを証明するために用いられるものです。例えば、エビデンスはファクトの判定に用いることができます。
ファクトは結果であり、エビデンスは結果を導き出すための手段と考えると分かりやすいでしょう。
ファクトを使った例文
・ファクトかどうかを判定するために、エビデンスが必要だ。
エビデンスとソースの違い
ソースは英単語のsourceのことで、「情報源や出所」を指します。「ニュースソース」など複合語としても使われます。
ソース自体は「どこから来た情報か」「誰が言ったことか」を示すものでしかありません。しかし、エビデンスと結びつくことで、エビデンスがどこから来たかを明らかにします。
エビデンスが十分な裏付けとなるか、弱い証拠でしかないかは、ソースによって判定されます。
ソースを使った例文
・この報告書に記載されたエビデンスは、A教授の論文がソースとなっているので間違いないだろう。
エビデンスとプルーフの違い
プルーフとは英単語のproofが由来となっている言葉です。日本語としては印刷関連で「校正刷り」の意味で使われるほか、心理学用語として「ソーシャルプルーフ(社会的証明=周囲の人の判断が自分より正しいと思う心理的傾向)」などと使われることがあります。
エビデンスもプルーフも、どちらも証拠や根拠を意味しますが、英語での使われ方は少し異なります。
エビデンスは治療や提案などが正しいことを証明するデータや統計、症例や実例、資料というニュアンスがあり、いくつも集めて補強するものです。
それに対してプルーフは、それ1つで真偽を確定するような、決定的な証拠を指します。
プルーフを使った例文
・確かにエビデンスはいくつか挙げられてはいるけれども、決定的なプルーフではないな。
エビデンスの基本的な意味が分かれば大丈夫
外来語がカタカナ表記で広まる背景には、さまざまな事情があります。
「インターネット」のように、その言葉に当てはまる日本語がなかった場合だけでなく、「カフェ」のように、従来からある「喫茶店」とは違うイメージを表現するために使われるようになった場合もあります。
エビデンスも後者の言葉の1つで、医療の世界での新しい考え方であることを示すために、あえて「根拠に基づく医療」や「証拠」ではなく、「EBM」や「エビデンス」といった言葉として受け入れられ、日本語として少しずつ定着して来ました。
「証拠」や「根拠」という明確な意味を持っているだけに頭に残りやすく、一度きちんと整理すれば迷うことも少ない言葉です。
気を付けなければならないのは、業界によって独特の意味があることです。言葉の元は同じでも、金融関係でいう「エビデンス」と、コールセンターでいう「エビデンス」はまったく異なるものなので、気を付けてください。
2021年現在では、エビデンスは、日本語としての定着度はそこまで高くなく、日常会話に出てくる言葉ではありません。しかし、これから先、仕事やニュースなどで目に触れる機会が増えれば、日常会話でも使われるようになるかもしれません。
(小坂井さと子)
※画像はイメージです