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「釈然としない」の意味とは? 使い方や例文・類語

前田めぐる(ライティングコーチ・文章術講師)

「釈然としない」という言葉。何となく意味は分かったつもりでいるけど、この言葉はビジネスでも使えるの? そんな疑問を抱く人もいるのではないでしょうか。今回は「釈然としない」の意味や使い方、類語について、ライティングコーチの前田めぐるさんに解説してもらいました。

何気なく聞いて分かったつもりでいるけれど、いざ「どういう意味?」と聞かれると正確に答えるのが難しい言葉がたくさんあります。

「釈然としない」も、そんな言葉の一つではないでしょうか。

果たして、ビジネスシーンで堂々と使える言葉なのかどうか気になりますね。一緒に考えてみましょう。

「釈然としない」の意味

「解釈」の「釈」という字が含まれているので、「釈然としない」を「分からない」という程度の意味で使っている人も多いのではないでしょうか?

「釈然」を辞書で引くと、次のように記載されています。

しゃくぜん【釈然】
(1)心のうちとけるさま。
(2)恨みや疑いがとけるさま。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)

「まだ釈然としない」という例文が(2)の欄に記載されています。

つまり「釈然としない」は、恨みや疑いがとけないという意味です。

辞書によっては、「釈然=疑いや迷いがとけてさっぱりしたさま」(『現代国語例解辞典』小学館)の記載もあります。

総合的に判断すると「釈然としない」は「恨み・疑い・迷いがとけず、さっぱりしない状態」だといえます。

ビジネスシーンで「釈然としない」を相手に使うのはNG

前述のように「恨み・疑い・迷いがとけずに、さっぱりしない」という、どちらかというとネガティブな要素を含むため、ビジネスシーンでの積極的な使用はおすすめできません。

では、「釈然としない」を「釈然としません」と丁寧語の語尾にしたらどうでしょうか?

丁寧語にしたところで、自分の気持ちや心理的なわだかまりをぶつける言葉であることに変わりないため、相手が目上でも目下でもビジネスには不向きな言葉です。

ビジネスシーンで「釈然としない」はどう使う?(例文付き)

それでも「釈然としない」をあえて使うのは、一体どのような場面でしょう?

例えば、次のようによほど理不尽さを感じている場面だと考えられます。

・誠心誠意尽くしてきたのに、突然の契約打ち切りには釈然としない。

・一体誰のどういう指示によるものか、理由も分からないまま、ただ引き下がれと言われても釈然としない。

・いくら話し合っても妥協点を見つけようがなく、相手方の事故後の対応には釈然としない。

以上のように、かなりねじれた状態に対して使われる言葉ですから、ビジネスシーンで相手に対して直接伝える言葉としては不適切だといえるでしょう。

「釈然としない」と「腑に落ちない」はどう違う?

同じようなニュアンスで、「腑(ふ)に落ちない」という言葉があります。

「腑」は「はらわた。心や命の宿る所。思慮分別」の意。「腑に落ちない」は「納得がいかない、合点がいかない」という意味です。

納得がいかない点では似ているところもありますが、はっきりした違いがあります。

「釈然としない」では相手との心理的距離や関係性にまで意味が及ぶのに対し、「腑に落ちない」ではそこまで意味は及びません。

「腑に落ちない」は単に、納得がいかないという状態を示すのみです。心理的わだかまりはないので、分かるように説明を受けたり、不明点が明らかになったりすれば、納得がいくようになることもありえます。

例えば、次のように使うことができます。

・まだ腑に落ちない点があるので、もう少し詳しく教えていただきたいのです。

・実は、その点が少々腑に落ちないところではあります。

ビジネスシーンでも、このように使うことができます。

ただし、「腑に落ちない」についても、「釈然としない」と同様に、ビジネスシーンで使う場合には、次の項目で紹介するような言い換えを工夫した方がいいでしょう。

「釈然としない」の類語・言い換え表現

「釈然としない」はビジネスシーンにおいては不向きな言葉ですが、納得のいかない気持ちを表したい場合、どのような言葉に言い換えると良いのでしょうか?

ポイントとしては、困ることは困る、分からないことは分からないとしっかり伝えながらも、わだかまりを残さないこと。そして、少しでも望ましい結果に導こうとすることです。

そうした観点から、意見や主張を伝えるにふさわしい言い換えの表現を以下に掲げます。

(1)「この品質では納得いたしかねます」

例えば、思っていた品質と全く違うものが届いた。そんな場面での言い方です。

親しい取引先であっても、仕入れ先から納品されたものが期待通りでは全くなかった時には、毅然とした態度で伝える必要があります。

ゴールはあくまで期待していた品質を届けてもらうこと。「非常に期待していたところですが」「御社らしくありませんね」など、相手を高く評価していたからこその表現を加えても良いでしょう。

(2)「こちらとしても、非常に困惑しております」

予定していた納期に間に合わないと言われた時に使う言い方です。

納期を守れない相手は信用がおけません。こんな時「いや〜、なんとかしてくださいよ。困りますよ」と馴れ合うような態度は禁物。

仕事における立場をわきまえた丁寧な物言いで、相手に対して自覚と改善を促しましょう。

(3)「状況が判然としませんが、もう一度調べていただけますか」

とりあえずの報告として相手が断片的な情報だけしか伝えてくれない時に使う言い方です。

「それでは分からない」、つまり答えになっていないということを相手に理解してもらいましょう。そして、「再調査してほしい」「再検討してほしい」「努力してほしい」など、相手に要請したい内容をその後に続けましょう。

(4)「いくら部長のお言葉でも、そればかりは承服しかねます」

目上の相手であっても、折れることができない時があります。

上司や目上の人だからとイエスマンで忖度ばかりしていては都合のいい部下と見られてしまいますね。

「承服」の「承(る)」は「聞く」の謙譲語、「服」は「従う」の意。目上の人に対して、敬意を込めて使う言葉です。

(5)「それにも確かに一理あると思います。ただ、私の見解は異なります」

自分の意見が違うことを示したい時の言い方です。

会議や打ち合わせで、先に発言した人とは別の見解を述べたい……そんな時、「私はそうは思いません」「私は、それは違うと思います」と「私」を主語にすると、人との対立が生まれがちです。

そこで「私の見解は」「私の意見は」と、見解や意見を主語にします。お互いに客観的な見方ができるでしょう。

空気を読む時代でも、必要なときには毅然とした態度で

今回は、ビジネスで意見を述べる時の表現を紹介しました。

仕事で気持ちをぶつけることの全てがいけないわけではありません。真摯に取り組むひたむきさや情熱であれば、全面的に出す方がむしろ好ましいでしょう。

ただし、否定的な気持ちは、そのままぶつけても周囲をギクシャクさせるばかりか、自分にとってもマイナスになります。

そんな時は、感情と理性を分けて言葉を選ぶことが大切です。前述したような言い換え表現を、ぜひ参考にしてみてください。

ビジネスの場面では、いろんな立場の人のさまざまな思いが交錯します。互いの意見をよく聞き、尊重し、その上で自分の意見を主張することは、働く人として当然の姿勢です。

そうすることで、互いの信頼が深まっていくでしょう。

(前田めぐる)

※画像はイメージです

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