「油を売る」の意味とは? 由来や使い方・例文を解説
日々の会話において「油を売る」という慣用句を耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。その言葉の由来は、江戸時代までさかのぼります。今回は、国語講師の吉田裕子さんに、「油を売る」の意味や語源、例文などを解説してもらいました。
「油を売る」という慣用句の意味を知っていますか?
日々の会話で何となく使っていても、どうしてこんな言い方をするのかなど、正確には理解していない人も多いのではないでしょうか。
この記事では「油を売る」の辞書的な意味や、語源・例文を紹介します。
「油を売る」の意味・使い方(例文)
ここでは「油を売る」の意味や使い方を紹介していきます。
「油を売る」とは「仕事を怠ける」という意味
「油を売る」はどのような意味の慣用句でしょうか? 国語辞典の語義を見てみましょう。
おしゃべりをして時間をつぶす。(『三省堂国語辞典』三省堂)
仕事を怠けてむだ話をする。また、仕事の途中で時間をつぶして怠ける。(『日本国語大辞典』小学館)
このように、無駄なおしゃべりをして仕事をやらないこと、仕事を怠けることをいう表現なのです。
「油を売る」の使い方(例文)
「油を売る」は、以下のように使われます。
・こんなところで、いつまでも油を売っていてはいけないよ。
・彼女はいつも、食器下げや掃除をやらずに、常連さん相手に油を売っている。
・外回りにかこつけて、ファミレスやカフェで油を売っているようだ。
・病院に行っても、油を売ってはいけないと釘を差したのだ。(松本清張『事故 別冊黒い画集1』)
「油を売る」の由来・語源
「油を売る」はなぜ怠けるという意味になったのでしょうか。ここではその語源を紹介していきます。
この「油を売る」という慣用句、由来は江戸時代にさかのぼります。
ここでいう「油」は「髪油」のこと。主として女性が、艶出しや髪の保護のために髪に付けていた液状の油(水油)のことをいいます。
今でも「椿油」がヘアケア用品として有名ですよね。
当時は、桶を担いだ行商人が町を回って髪油を売っていました。桶からひしゃくで量って、客の家にある器に移します。
その滴が途切れるまでの間に、商人と女性客はたわいもない会話をしたわけです。
油売りは商売に励んでいるだけなのですが、はたから見れば、女性客相手に長々と世間話をしているわけで、楽しくサボっているように見えたわけです。
そこで、無駄話で時間をつぶすことを「油を売る」と言うようになりました。
現在では、おしゃべりに限らず、仕事を怠けること全般に対しても使われています。
「油を売る」の類義語
ここでは、「油を売る」の類義語を紹介していきます。
やるべき仕事や勉強を離れ、他のことをすること
「やるべきことではなく、他のことをするさま」を表す場合、以下の言葉が挙げられます。
・道草を食う
・横道にそれる
やるべきことを面倒くさがり、いい加減にやること
「やるべきことを面倒くさがっていい加減にやるさま」を表す言葉は、以下の通りです。
・サボる
・おろそかにする
・無精(不精)をする
・横着する
「油を売る」以外の「油」を用いた慣用句
「油を売る」以外にも、油を用いた慣用表現があります。
混同しないためにも、それぞれの慣用句の意味を知っておきましょう。
「油を絞る」
人の失敗や欠点を長時間厳しく叱ること。
「先生にこってりと油を絞られた」というように使います。
「火に油を注ぐ」
油を注ぐと火の勢いが強くなるように、人の感情や行動をいっそう煽り立てること。
「油が乗る(脂が乗る、と書くことも多い)」
魚や鳥などが、旬の季節になり、脂肪が増えて味が良くなる様子。
また、人に関し、調子が出てきて仕事や勉強がうまくはかどる様子もいう。
「水に油(水と油)」
性質が反対で、融和しないことのたとえ。
粋な慣用句を使いこなしてみては?
「油を売る」は江戸時代の髪油商人に由来する言葉で、客と長話をする様子から、無駄話をするさま、仕事を怠けるさまを言うようになりました。
このように「サボる」ことを意味する類義語には、「道草を食う」などがあります。
同じことを言うのでも、古い由来を持つ慣用句を使いこなせるとすてきですね。
(吉田裕子)
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