モラルハラスメントとは? 職場・彼氏・夫婦間の事例と対処法
職場の上司や同僚、彼氏など、身近な存在から受けるモラルハラスメントに悩んではいませんか? 今回は、モラハラを見極めるための定義を、アディーレ法律事務所の正木裕美弁護士が解説。被害に遭ったときの対処法や、未然に防ぐための対策を紹介します。
昨今さまざまな「ハラスメント」と呼ばれる嫌がらせが話題になっていますね。
今は30種類以上のハラスメントがあるという見解もあり、年々その数は増えているようにも感じられます。
今回は、みなさんの仕事、恋愛、家族など身近な場面で起こる可能性があるにもかかわらず、加害者も被害者も自覚がないことがある「モラルハラスメント」について解説していきます。
弁護士が解説「モラルハラスメント」とは?
「モラルハラスメント」(通称モラハラ)は、直接定めた法律がなく、一般的には「モラルに反するハラスメント、倫理や道徳に反する嫌がらせ」という意味で使われることが多いです。
これは、殴る蹴るという身体的な暴力とは異なり、精神的な嫌がらせであり、わたしたちの生活のあらゆる場面で遭遇する可能性があります。
パワハラやセクハラとの違い
といっても、あいまいな概念で少々分かりにくいかもしれませんね。違法なハラスメントの代表格「パワハラ」や「セクハラ」とは何が違うのでしょうか。
上司から部下に対してされることが多い「パワハラ」
職場で問題になることの多い「パワーハラスメント」(通称パワハラ)は、上司から部下に対してするものが典型的です。
そして、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、就業環境を害することを、“職場内の地位などの優位性を利用”して行うのがポイントです(労働施策総合推進法、いわゆるパワハラ防止法より)。
どんな人間関係においても発生する「モラハラ」
一方、モラハラでは、加害者と被害者の間の優位性は無関係です。
会社の部下や上司、同僚間で、家庭内の親子や夫婦の間で、彼氏と彼女の間で、習い事の教室で……など、人間同士のかかわりがあるさまざまな場面で起こりえるものです。
「セクハラ」との違いは性的ニュアンス
また「セクシャルハラスメント」(通称セクハラ)は、一般的に相手の意思に反した性的嫌がらせの意味で使われていますが、モラハラの言動は性的なものに限りません。
では、具体的にどんな言動がモラハラになるのでしょうか。まずは、モラハラの特徴からお話しましょう。
これってもしかして? モラルハラスメントの特徴
そもそもモラハラ加害者は、表向きの顔は優しく好かれていたりします。
しかし、裏の顔は、
・自己中心的
・嫉妬深い
・支配欲が強い
・自己肯定感が低く承認欲求が強い
・プライドが高い
・自分の常識が絶対的
・話のすり替えがうまい
などの性質があり、言葉によって相手を精神的に支配し、服従させようとします。
モラハラの代表的な言動
・気に入らないとキレたり無視する
・平気でうそをつく
・正当化や責任転嫁が激しい
・暴言を吐く
など、上から目線の言動が典型的ですが、意図的に嫌がらせをしようとしているわけではないので、モラハラという自覚がないこともよくあります。
被害者になってしまいやすい人とは?
一方、被害者は、
・自己評価が低く素直で謙虚
・他者への配慮ができ責任感が強い
などの傾向があるため、モラハラ加害者が悪いと考える前に「自分に問題があるのではないか」と考えてしまう真面目な性格といった傾向があります。
そのため、被害者もモラハラと気づかなかったり、共依存の関係に陥り自分では抜け出せなくなったりしてしまうことも。
モラハラ被害から抜け出すための第一歩は、「モラハラされている」と気づくことです。
モラルハラスメントの例とは?
では、我々の生活の中に、どのようなモラハラがあるのでしょうか。
ここでご紹介するのはあくまで一例にすぎませんが、みなさんも、自分がモラハラされていないか、知らず知らずの間にモラハラをしていないか、今一度振り返ってみましょう。
職場で発生するケース
前述のとおり、加害者と被害者の関係に優劣はないので、職場のモラハラは、上司から部下、部下から上司、同僚間など職場内の誰にでも起こる可能性があります。
例えば、
・業務連絡や資料回覧等から外して必要な情報を与えず仕事の邪魔をする
・ランチや飲み会に誘わず仲間外れにし、孤立させる
・無視、暴言を吐く
・悪口・侮辱
・誹謗中傷
・噂を流す
・プライベートへの過度な干渉(プライベートを根堀り葉堀り聞き出そうとする、ケチをつける等)
などが職場でよく見られるモラハラ例になります。
彼氏・彼女間で発生するケース
近年注目されるようになった恋人間の身体的、精神的暴力であるデートDVやモラハラに多くのカップルが直面しているといわれています。
・「お前、バカだな」など見下す言動
・「なんで俺の言うこと聞けないの?」とマイルールの押しつけ
・気に入らないとすぐ怒り「お前が悪い」と責任転嫁をして責める
・怒ると無視する
・異常に嫉妬深くて束縛が激しく所有物扱いする
など、あなたをひとりの人間として尊重しない言動は、立派なモラハラです。
夫婦間で発生するケース
夫婦の場合、結婚後モラハラ夫に豹変したというケースもありますし、客観的にはモラハラでも「こんなものだろう」と問題視していない、自分のほうに問題があると思い込み、モラハラと気づいていないこともままあります。
例えば、
・気に入らないことをすると暴言を吐いてなじる
・失敗すると「考えればわかるだろ、だからお前はダメなんだ」とバカにする
・自分の間違いを認めないで「お前がちゃんとしていないせいでこうなった」と責任転嫁
・異常な束縛をする
・けんかをすると無視をする
などもモラハラです。
近年、夫が妻の「精神的な虐待」(モラハラ)を理由に離婚請求するケースが増加しています。親しき仲にも礼儀あり、家族になっても相手を尊重する気持ちを忘れてはいけませんね。
モラハラに気づいたら? 今すぐできる対処法
モラハラから抜け出すために、まずは「彼には自分がいないとダメ」「わたしも悪いから」「そんなにひどくないし」という気持ちは捨てましょう。
モラハラは、言葉の暴力です。
民事事件としては、人格を踏みにじり精神的苦痛を与えるものですから、不法行為として慰謝料等の損害賠償請求や離婚原因として認められるケースもあります。刑事事件としても、侮辱罪や名誉毀損罪等の犯罪になりうる悪質な行為です。
あらゆる相談窓口を活用しよう
そして、職場のモラハラの場合、会社は従業員に対する職場環境配慮義務を負っており、ハラスメント防止措置を講じる義務があるため、会社のハラスメント相談窓口、労働組合や信頼できる上司・同僚に相談する方法もあります。
会社関係者はちょっと……という方は、都道府県労働局などの社外相談窓口や弁護士などの専門家に相談するとよいでしょう。
証拠の保存も重要
また、相談先に状況を正確に把握してもらうためにも、録音、メールやSNSの保存、出来事や気持ちを都度メモにまとめるなど、モラハラの証拠を集めておきましょう。最終的に法的措置(モラハラ行為をやめるよう請求、損害賠償請求など)をとるためにも必要になります。
被害に遭わないための対策とは?
モラハラ度合いにもよりますが、モラハラ気質は長い時間培われた心の病気ともいわれ、簡単に治るものではないとされています。
ひとりで全部解決しようとしないこと
仮に、相手がとても軽度のモラハラ気質だとしたら「それはモラハラだ」と直接指摘するのも打開策としてありえます。が、そのような指摘で相手の正当化・責任転嫁スイッチがONされ、事態が悪化しかねませんし、被害者は精神的に追い込まれる危険性もあります。
したがって、まずは誰かに相談することが大切です。加害者も被害者もひとりで全部解決しようと抱え込むのはNGです。
そして、モラハラによって自身の心が潰されてしまわないよう、相手と距離を取って被害を受けにくくすることです。また、萎縮した言動はモラハラをエスカレートさせるので毅然とした態度をとることや受け流す術を持つことも大切です。
日常に潜む「モラハラ」との向き合い方
モラハラは、あらゆる場所で起こりやすいハラスメントです。
自分は冗談やいじりのつもりでも、実は相手に深い心の傷を与える違法なモラハラを、自身が相手にしてしまっている可能性だってゼロではありません。
ハラスメントと呼ぶと軽く聞こえがちですが、最悪相手の生命をも脅かす深刻な問題で、損害賠償請求に発展したり、刑事事件として立件に至ったりする可能性もあります。
被害者にも加害者にもならないよう、自分の言動を冷静に振り返ってみましょう。モラハラ被害で苦しんでいる方も、自身がモラハラ気質だと思った方も、自分や周りの人を幸せにするため、カウンセリングなどを受けてみるのもよいのではないでしょうか。
(正木裕美)
※画像はイメージです