電子レンジに入れても冷凍食品が解凍されにくい理由

簡単レシピや時短料理に欠かせない電子レンジ。火を使わないので火事の心配も少なく、油不要で加熱できるヘルシーさも魅力だ。
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なんでも料理できそうなイメージの電子レンジにも、オーブン機能付きがあるのはなぜか? ローストチキンなどの肉のかたまりは、中まで火が通らずに表面だけが焦げてしまう。解凍機能を使っても氷が溶かせないほど、じつか電子レンジは料理が苦手なのだ。
電子レンジは肉が苦手?
電子レンジはマイクロ波と呼ばれる電磁波を使い、水の分子を振動させて加熱する。日本では2,450GHz(ギガ・ヘルツ)前後を使用した製品が主流で、これは水にとって最適だからと言われているものの、実際は法律上の問題だ。
確かに水に作用するのだが、最適と呼べる周波数は100倍ほど高く、それよりも法的な制約なく使えるように2.4GHz帯になったのが実際だ。くわえて水分子は幅広い周波数に作用されるので、最適な周波数でなくても十分な効果が得られる。
万能の調理器具に思われる電子レンジにも、「オーブン機能付き」製品があるのはなぜか? オーブン機能の正体は昔ながらのヒーターだから、今さら必要なのかと思える機能だが、ここには電子レンジの意外な弱点が隠されている。
マイクロ波の効果は、料理の素材によって雲泥の差が生じるからだ。
日本調理科学会の資料から、温める素材と、どれくらい作用するかの目安となる比誘電率をあげると、
・水(5℃) … 77.0
・冷凍生牛肉 … 3.2
・ロースト牛肉 … 28.0
・ジャガイモ … 49.0
・陶製食器 … 6.4
で、水にとっては効果的だが、ローストされた牛肉には3分の1程度の効果しかない。冷凍された生肉に至っては、陶器よりも効果が薄いのだ。
さらにマイクロ波が到達する深さも関係し、パワーが半分になる深さ(電力半減深度)を比較すると、水中はおよそ1cmごとに半減するのに対し、ロースト牛肉は1.2mm、ジャガイモはわずか7mm進むごとに半減する。
つまり、表面の温度は高くなるものの、中まで火が通らずに生焼けになってしまう。レンジで温めた料理が冷めやすいと言われるのもこれが原因だ。
氷が解けない解凍モード?

さらに興味深いのが解凍で、ほとんどの製品に解凍モードが用意されているのに、効果が得られにくい。液体にはよく作用するものの、氷の中の水分子にはほとんど影響を与えないのだ。
マイナス12℃の氷の場合、比誘電率は3.2と小さく、電力半減深度は8mほどとケタ違いに大きい。つまり、ほとんど作用せずに素通りしてしまうため、8mもの氷の壁を用意しないと、マイクロ波のパワーは半分にならないのだ。
家庭でも簡単にできる実験をしてみよう。ガラス製のコップを3つ用意し、
a.水だけ
b.氷だけ
c.水と氷
をチンするだけだ。レンジのパワーによって程度は異なるものの、数分間チンするとa.は当然ながら熱湯に、c.は氷が溶けて水かぬるま湯になる。だが、b.の氷だけのコップは解凍機能を使ってもわずかに溶ける程度で、ほとんどの氷が残っているはずだ。
a.とc.の共通点は水、つまり液体が入っていることで、b.は凍って固体となっているため、水分子が振動しにくいのだ。
この現象は冷凍食品を解凍する時にも見られ、典型的なのはミックス・ベジタブルで、チンしたらニンジンに火花が飛んだ、解凍モードなのに焦げてしまったなどの話をよく耳にする。これは凍っているのに加えて細かく刻まれているのが原因で、マイクロ波を強く受けた野菜から、弱い野菜に放電し火花が発生してしまうのだ。
量を増やすか水をかけると収まるのだが、解凍するのも一苦労である。
まとめると、
・肉の深さ1cmまで届くマイクロ波は256分の1程度
・水はよく温まるが、氷にはほとんど効果なし
・細かく刻んだ冷凍食品は火花が飛ぶ
と、およそ料理上手には縁遠い。
がっかりだよ電子レンジ。
まとめ
電子レンジで餅(もち)を温めると、つきたてのような状態となる。焼き餅も香ばしく美味だが「つきたて感覚」も大変魅力的だ。
ただし加熱し過ぎると、得体の知れない物体が庫内いっぱいに膨れてしまう。ちょっとでも目を離すと、電子レンジの大掃除をすることになるのでご注意を。
(関口 寿/ガリレオワークス)
※この記事は2013年11月24日に公開されたものです