永久になくならないパンの食べ方―数学のパラドックス
食料は食べれば減るのが世の常。金のなる木ではないが、毎日勝手に増えてくれる食料があったらどんなに楽だろうか。
【【クイズ】狼とヤギと野菜を川の向こうに無事に運ぶ方法を求めよ】
減らないごはんも増える味噌汁も存在するはずはないのだが、食べ方を工夫すれば永久になくなることはない。たった1枚のパンでも、毎日半分だけ食べれば、永久に食べ続けることができるのだ。
食べてもなくならないパン
【問題】
1枚の食パンがある。最初に半分を食べ、次の日以降は毎日残りの半分を食べた場合、パンは何日でなくなるか?
【答え】
永久になくならない。
食べられるパンの量は、初日が2分の1、2日目は残りの半分=(1-2分の1)の2分の1とだんだん少なくなってしまうが、確実に減っているのだから、いつかなくなるのが道理に思える。
食べる量を整理すると、
・初日 … 0.5(2分の1)
・2日目 … 0.25(4分の1)
・3日目 … 0.125(8分の1)
で、スタートからわずか3日間で87.5%(=8分の7)も減ってしまい、明らかに飛ばし過ぎだ。4日目の16分の1、5日目の32分の1も合計すると、5日間で食べる量は32分の31にも及び、ほとんど残らない。
それでも永久に食べられるのはなぜか? ポイントは食べる量が「残りの半分」と決めている点だ。例えば100グラムのパンを1グラムずつ食べれば100日、半分の0.5グラムに抑えても200日でなくなってしまう。
対して「残りの半分」のルールでは、毎日食べる量が減ってしまうものの、単純な割り算で残り日数が計算できない。
このような問題はパラドックスとも呼ばれ、食べれば減る、減れば無くなる、と誰もが持つ先入観を利用したトリックだ。「半分食べる」=「半分残す」と言い換えれば、永久になくならないことに気づくだろう。月日を重ねるうちに、量は限りなくゼロに近づくが、毎日半分残すのだから永久にゼロにはならない。
最後までカビることなく、おいしく食べられるパンが手に入ったら、ぜひとも試してみたい食べ方だ。
カメに追いつけないうさぎ
【問題】
うさぎがカメを追いかける。先行しているカメとの距離は100kmで、足の速いうさぎは1時間ごとに距離を半分に縮める。うさぎがカメに追いつくのは何時間後か?
【答え】
永久に追いつかない。
これはゼノンのパラドックスとも呼ばれる代表的な問題だ。もしうさぎとカメの速さが分かっていれば、距離の差÷速度の差=追いつくまでの時間、で計算することができる。かりに、
・うさぎ … 時速20km
・カメ … 時速10km
なら、100÷(20-10)=10時間後に追いつく計算となる。
本当に追いつくのか確認してみよう。うさぎとカメが10時間で移動する距離を求めると、
・うさぎ … 時速20km×10時間=200km
・カメ … 時速10km×10時間=100km
カメのスタート地点はうさぎの100km先なので、10時間後にいる位置は100+100=200km先となり、うさぎと一致する。
ゼノンのパラドックスの場合、経過時間と両者の距離をあげると、
・1時間後 … 50km
・2時間後 … 25km
・3時間後 … 12.5km
と、どんどん近づいているようにみえる。5時間後なら100km×(2分の1の5乗)で、3km強まで追い詰めることになる。このまま続けていくと、24時間後にはわずか6ミリまで近づくのだ。
ただし永久に追いつかない。それ以降も1時間ごとに半分に近づき、3ミリ、1.5ミリ、0.75ミリと間を詰めるものの、いつまで経っても距離はゼロにはならない。これも落ち着いて考えればすぐに分かるように、「÷2」を繰り返しているだけだから、答えは限りなく小さくなってもゼロになることはない。
逆にゼロになってしまうと新たな問題が生じる。0×2×2×2…と2をかけ続けたら、いつか1や2になるのと同じだから、ゼロの定義が根本的に崩れてしまう。つまり半分ずつ食べるパンも、うさぎとカメの話も、パラドックスやトリックなどと呼ぶ以前に、当たり前の話なのだ。
まとめ
もし毎日おこづかいをねだられたら、初日は1万円、2日目以降は前日の半額を渡す約束にしてみよう。
一日1万円から始まるので相手は得した気分になるだろうが、何年経っても総額2万円を超えることはない。ただし5日目以降は1円未満が発生するので、どうやって支払うかが問題だが。
(関口 寿/ガリレオワークス)
※この記事は2013年11月24日に公開されたものです