※このコラムは『わたしの宝物』最終話までのネタバレを含んでいます。
■騙し討ち動物園は空回りで終了
宏樹(田中圭)による騙し討ちとも言える配慮により、美羽(松本若菜)と栞、冬月(深澤辰哉)の3人で1日動物園を楽しむことに。
「栞の実の父親である冬月と、栞を育てていく未来」という、美羽が考えても見なかった選択肢を宏樹から提案された美羽と、一方で「栞は自分の子どもなのではないか」という疑念を巡らせながら、距離感を誤らないように配慮する冬月。しかし、外野から見れば動物園を楽しむ彼らは、普通の幸せそうな家族なのでしょう。
別れ際、初めて栞を抱いた冬月は想像以上の栞の重さに驚きます。「もっと軽かったんだよ」という美羽の言葉に「自分の知らない栞の時間と歴史」を、重さ以上にずっしりと感じるのです。
会話をしつつも栞を抱く冬月を直視できていなかった美羽ですが、「この子は、俺の子?」と冬月に問われた時だけは、しっかりと目を見て「違うよ。栞は私の子」と返答します。
「そんなわけないよな」と冬月は言うものの、美羽の返答で全ての真実と、美羽の確固たる意思を読み取ったのでしょう。
あの日の過ちは自分の責任として、1人で全てを背負い、他の誰も干渉させずに生きていく、という美羽の強い決意。
そしてこれが血のつながった家族としての、最初で最後の家族の団欒となりました。
■お互いの思いやりがすれ違いから回る二人
冬月は宏樹にどうしてもこの経緯を伝えたくて、喫茶店に訪れます。
「俺はあの子の父親じゃありません。美羽さんがそう言いました」
血の繋がりや美羽の気持ちを第一に考えた宏樹なりの配慮のはずだった、動物園での1日。宏樹の考えた精一杯の美羽への思いやりが、美羽の望みではなかったことをこの一言で知ることになります。
わざわざこれを伝えにくる冬月。なんていいやつなのか。
真琴(恒松祐里)の言葉「宏樹さんも美羽さんも同じに見えます」と言う言葉の通り、美羽も宏樹も、栞や自分を第一にせず、お互いが相手方の宏樹、美羽のことを一番に考え、自分の希望は全て飲み込み、相手にとっての幸せを自分なりに考えて動いているのです。それがことごとく外れているから、お互いのやっていることにどんどんズレが出てしまう。
二人が本音とわがままをぶつけ合えば、二人の希望は同じなので全て丸く収まるのに。真琴もカフェ店主・浅岡(沢村一樹)もそれに気づいているので、遠回しに伝えるのですが気づいていないのは当人達だけというもどかしさ。
■ある意味グロすぎる実の父からの引導
冬月は改めて宏樹を呼び出します。宏樹が一瞬私情をはさみまくり、却下した冬月への融資が再度承認され、冬月は夢に向かって一歩を踏み出すことができました。それに対してのお礼と、宏樹の背中を押しにきたのです。
栞の重さに、宏樹と美羽がかけてきた愛情と時間をずっしりと感じ、「あの子があんなにかわいくて元気で育っているのはあなたと美羽さんが愛情を注いてきたから。あなたが栞ちゃんのお父さんです」と、宏樹の行ってきたことが血の繋がりを超えて立派に父親であったのだと、血が繋がった実の父である冬月が証明するのです。
ただこれ、登場人物全員が善意で行動できているから、全てが成り立つのですよね。でなければ、実の父から育ての父へ子どもの父役の引導を渡す、というめちゃくちゃグロい絵面では?
この中に一人でも悪意があれば、「血の繋がった自分の子どもを他人に押し付けようとしている」「托卵を知った育ての父が逃げようとしている」と言う見え方になってしまうので……。
■やっと自分の気持ちに素直になった二人
職場の後輩の「守る家庭があってこそ仕事が一層頑張れる」という言葉や、冬月の後押し、そして美羽から借りパクしていたハンカチを見て、宏樹は自分の気持ちに素直になります。
離婚届を提出する予定日に、美羽を止めに行くため、宏樹は役所に向かって走り出すのです。めちゃくちゃ奇跡的に時間も経路も歩幅も合い、美羽と遭遇することができた宏樹はずっと我慢してきた本音を美羽に伝えます。
「離婚届、待ってほしい。俺が美羽を苦しめたこと、美羽がしたこと、それは消えないし、だからこの先苦しむこともあるかもしれない。だけど俺は美羽と一緒にいたいんだ。俺は栞が大きくなっていくのが見たい。美羽と一緒に栞の成長を見守っていきたい」
以前、浅岡も言っていた、血の繋がりを超えた親子の絆と愛情に素直になった宏樹。
それに応えるように、美羽も「私も宏樹と一緒にいたい。一緒に栞を幸せにしたい」と、本音を伝え、その結果、二人は復縁することとなりました。
■冬月の聖人君主さありきで成り立つ大円団
宏樹の心の移り変わりがスマホの待ち受けで表現されているのも印象的でした。
栞溺愛期は栞単独の待ち受け、自分が身を引くと決めた時には普通の待ち受けに変わり、ラストには家族3人の待ち受けに。
「栞に父親のことを伝える時は、(美羽だけじゃなく)俺も一緒に……」と宏樹は言っていましたが、戸籍上は宏樹の子どもになっているはずなので、そこまで馬鹿正直にならず、この秘密は栞のために墓場まで持っていってあげてほしい気もします。
子どもが生まれたことにより、宏樹のモラハラが奇跡的に好転し、「托卵」という本来であれば許されない事案も、全てが大円団でまとまるという。
ハッピーエンドなのか、実の父である冬月にとってはバッドエンドなのか、今までにない着地点となったこのドラマ。
美羽へ職権濫用でカチコミに行った水木(さとうほなみ)のことも冬月は許し、再度仕事に誘っていたようですし、冬月の聖人君主さと、宏樹の懐のでかさありきでこのラストが迎えられたような気もしますし、栞が生まれていなければ、宏樹と離婚して美羽は冬月と一緒になっていた未来もあったかと思うと、幸せについていろいろ考えてしまいますね。
でも3人が幸せそうなのでそれが結果として正解なのでしょう。托卵という新たな切り口が新鮮なドラマでした。
冬月もどうか夢をかなえて、さらに幸せになってほしいものです。
(やまとなでし子)