大嫌いだった“くせ毛の自分”を受け入れた女性の「自分の愛し方」
すべての女性が自分らしく過ごすために、女性の健康や身体にまつわるサービスを展開するリーダーにインタビュー。女性としても、ビジネスパーソンとしても輝く彼女たちは、一体どんなことを考え、“女性のカラダ”と向き合っているのでしょうか?
取材・文:ミクニシオリ
撮影:大嶋千尋
編集:松岡紘子/マイナビウーマン編集部
自分のカラダを受け入れることは、誰でも簡単にできることではありません。身長や肌質、骨格、声質、毛質……「もっとこうだったらよかったのに」と思えば思うほど、理想どおりになれない自分を責めてしまうこともあるでしょう。
「私も、生まれ持った自分の性質をずっと愛せなかったし、大嫌いでした」
そう語ってくれたのは、天然パーマさんやくせ毛さんのためのヘアブランド「Curly Me」を立ち上げた、カーリーガールリンさん。小さな頃から、自身の天然パーマがコンプレックスだったそう。さらに、髪の毛だけでなく、体型や顔のパーツも「嫌いだった」と語る彼女ですが、現在のリンさんは自身の過去を明るく語り、ポジティブなオーラで周囲を元気にしてくれます。
そんな彼女が教えてくれたのは、自身のコンプレックスを武器に発信活動をしようと思った理由と、自分の持つ“個性”の愛し方でした。
どうして私は人と違うんだろう……世間的な「美」を追い、自分を責めた
――リンさんのカールヘア、とっても素敵ですけれど……ご自身では、コンプレックスを感じてらっしゃったんですよね。
自分の毛質や天然パーマのことについて色々学んで、今はこうして自分らしいヘアスタイルを楽しめているのですが、昔は天然パーマの自分が大嫌いでした。メディアで見る憧れの芸能人たちのような、柔らかそうで艷やかなストレートヘアに憧れて、3カ月に一度は必ず縮毛矯正をかけていました。
幼い頃から「どうして私の髪の毛はみんなと一緒じゃないんだろう」と、自身を責め続けてきました。少しでもみんなに近づけるようにと、必死でストレートヘアを取り繕ってみても、上手くいかなくて……その過程で、自分のヘアも、自分自身のことも嫌いになっていったような気がします。
――そんな中、なぜカールヘアについて発信活動をしようと思われたんですか?
実は両親の都合で、私は思春期をカナダで過ごしているんです。就職活動の時に日本に帰ってきて、今は日本企業で会社員としても働いています。発信活動することを決めたのは、日本社会で働く中で、ダイバーシティに興味を持ったからです。
就活時も、会社員として働きはじめてからも、ずっと髪の毛への偏見に苦しんできました。小さい頃はシンプルに髪をバカにされることが多かったですが、社会人になってからは、ビジネスマナーを違反しているのではないかとツッコまれることが何度もありました。髪について何か言われるたびに、社会的なプレッシャーを強く感じました。
けれど自分に自信がなかったし、当初はカールヘアについて発信するつもりはなかったんです。コロナ禍で仕事が落ち着いたことをきっかけに、アクティブな活動がしたくて発信者になる決意をし、自分に伝えられることを模索していました。その時、改めてカールヘアという自身の個性と向き合い、髪質について色々と勉強をしたんです。そこで、無理してストレートヘアを目指すのではなく、カールヘアを生かしたヘアスタイリングの方法などを知ったことで、そのメソッドを広めようと活動を始めました。
――Youtubeなどでは、カールヘアのケア方法やヘアセットの方法などを発信されていますし、ブランドではくせ毛の方向けのヘアスタイリンググッズを展開されていますよね。
色々な方がヘアケアやヘアセットについて情報を発信していると思いますが、私が活動を始めた時には、天然パーマの正しい取り扱い方について日本語で発信している人が誰もいなかったんです。というのも、やはり日本では「天パやくせ毛をどうストレートにするか」に意識が向いている人が多いのだと思います。
私自身、過去にそのような考えに取り憑かれていましたし、ドラッグストアに行っても、くせ毛を治すアイテムは売っていても、くせ毛を活かすアイテムは売っていなかった。だから、自分で作ることにしたんです。
――言われてみると、日本には「ストレートがマジョリティ」という固定概念があるのかもしれませんね。
私自身、カナダに住んでいた頃も「美=ストレートヘア」というイメージを持っていましたし、大人になってからも「美しいストレートヘアを作る方法」を調べて、ケアを実践していました。けれど、私のようなカールヘアを持っていると、ストレートヘアを作るための方法を真似しても、髪により大きなダメージを与えてしまうだけだったんです。
カールヘアを上手く扱うには保湿が大切です。アイロンで髪に熱を与えたり、縮毛矯正を何度も行ったりすることは、長い目で見れば髪にダメージを与え続ける一方です。私の場合、そこまでしても理想のストレートヘアになることはできなかったですし、髪の健康と心の健康、どちらにとっても適切ではありませんでした。
自分を理解し、人との違いを認めて、コンプレックスが個性になった
――では、リンさんはカールヘアを生かしはじめてから、髪だけでなく心もよりヘルシーになれたということでしょうか。
カールヘアの扱い方を学んで、天然パーマを「自分の個性」と受け止められるようになりました。もちろん今でも、髪に対してつらい意見をぶつけられることもありますが、自身を否定していた時よりも細かい意見を気にしなくなりました。
それに、カーリーガールリンとして活動をはじめてからは、自身と同じように髪質で悩みを持つ人とつながるようになりました。「Curly Me」を始めたのは、そんな同じ悩みを持つ友人たちも救いたい、みんなで一緒に自身を愛する気持ちを大切に生きたいと思ったからです。だから、ブランドやプロダクトを作る時には、フォロワーさんたちの意見をとても大切にしています。
――「Curly Me」のプロダクトについても、詳しく教えてください。
今は、ヘアセットとヘアケアのためのアイテムを主に取り扱っています。「Curly Me」のジェルやクリームを使うと、広がって見えるくせ毛に束感が生まれ、今の私のようなこなれ感のあるカールヘアを楽しむことができます。
それに、カールヘアを楽しむためには適切なヘアケアも大切です。適切なアイテムを使うことも大切なのですが、ドライヤーの当て方や乾かし方など、細かいコツがたくさんあるので、YouTubeや私の著書『もう天パで悩まない! あなたのクセ毛を 魅力に変える方法』の中で、カーリーガールを楽しむための髪の取り扱い方を紹介しています。
――「Curly Me」のプロダクトとリンさんの発信を見れば、誰でもカールヘアを上手く取り扱って自分の個性に変えることができるんですね!
そうはいっても十人十色の髪のクセがあるので、何度も練習することが大切です。日本はカールヘアの人口が少ないこともあり、美容室に行ってもなかなか適切なアドバイスをもらえないので、まずは自分と、自分の髪への理解を深めながら、私の発信も参考にしてもらいたいと思っています。
ただ、髪の毛を上手に取り扱うことがすべてというわけでもありません。「Curly Me」ではマンツーマンでのヘアセットトレーニングも行っていますし、フォロワーさんたちと一緒にオフ会を行うこともあります。同じ悩みを持つ人とつながることで、一人ひとりのくせにも色々な違いがあることを知ってほしいし、違いが分かってこそ、自身の個性も認められるようになるんです。
――人との違いが分かるからこそ、人と違う自分も愛せるようになるのでしょうか。
私自身、人と自分の違いを認められなかったあの頃、ずっと苦しかったです。ストレートヘアを無理して作っていた時は「ダメな自分を改善しなきゃ」と、マイナスをゼロにするために努力して、息切れしていました。違いがあるのは当たり前のことなのに、みんなと一緒を目指すから苦しかった。しがらみから開放されるために、違いを認めることは大切だと思います。
自身を受け入れてくれる場所を、それぞれ探せばいい
――ブランドを運営している中で、嬉しいこと、つらいことなどありますか。
「Curly Me」は、私にとっても大切な居場所です。本業と二足のわらじで活動しているので、時間が足りないと感じることはありますが、苦しいと思うことはないです。「Curly Me」はプロダクト開発からサイトデザイン、コミュニティ運営まですべて一人でやっているので、やることはとても多いですが、むしろ活動における喜びが、日常の疲れを癒やしてくれています。フォロワーさんから寄せられる私の活動への思いや「ありがとう」の言葉が、人生を楽しむ大きなモチベーションとなっています。
――「Curly Me」やリンさんの今後の展望を教えてください。
「Curly Me」としての一つの大きな夢は、美容学校との関わりを持つことです。実は、美容専門学校でも、くせ毛について学ぶ時間はとても短いのだそうです。今はマンツーマンでのカーリーガールメソッドを共有する機会に参加してくれている現役の美容師さんたちとのつながりもありますが、日本全国のくせ毛に悩む人たちに適切なアドバイスをしてくれる髪のプロを、教育機関と関わることでさらに増やしていきたいです。
私個人としては、今年度にはサラリーマンを辞めて、アメリカに一年だけ渡ろうと思っています。「Curly Me」での活動をもっと本格化させていきながら、私自身もダイバーシティやセルフラブについて、さらに知見を深めて、日本に帰ってきたいと思っています。
――最後に、自身のカラダを愛したいという女性に、伝えたいメッセージはありますか。
私が言えるのは、人と比べない方が人生を幸せに過ごせるということ。私自身が、自分を殺して傷ついてきたからこそ、そう思います。自分が嫌いだった頃の私は、髪の毛どころか自分の高い身長も、人より重い体重も、目の形だって大嫌いでした。けれど、自分の髪を受け入れて、前よりも明るい自分になってから、人から「かわいいね」と褒めてもらえる機会が増えました。
最初は「こんな私が?」と思ったけれど、今はその意見をまっすぐ受け止められるので、褒められると嬉しい気持ちになります。だって、こんなにたくさんの価値観が世の中にあるんですから、私を好きだという意見があるのも、おかしくないでしょう?
私のことを嫌いな人もたくさんいるかもしれないけれど、全員に好かれる必要なんてない。あなたを否定するものからは離れて、自分を受け入れてくれる場所、受け入れてくれる人を探してみてほしいです。
――リンさんにとっての「Curly Me」のような居場所を、みんなが見つけられたらいいですね。
SNSや、リアルのオープンな場所だけだと、色々と気を使ってしまったり、美しさの基準にプレッシャーを感じてしまったりすることもあると思います。すぐに目の届くところにはないかもしれないけれど、諦めずに居場所を探し続けてみてほしいです。きっと、誰しもにあるはずです。あなたらしくいられる、あなただけの居場所が。
※この記事は2024年03月29日に公開されたものです