【第3話】あまりにも悲しい恋愛成就。うそと秘密の板挟み
恋愛・婚活コラムニストのやまとなでし子さんが、月9ドラマ『君が心をくれたから』(フジテレビ系)を毎週考察&展開予想するコラムです。主人公・逢原雨が、愛する男性のために自分の“心”を差し出す宿命を背負うことから始まる、“過酷な奇跡”が引き起こすファンタジーラブストーリー。“奇跡”と引き替えに雨が奪われる“心”とは……? 2人の未来は果たして……?
※このコラムは『君が心をくれたから』3話までのネタバレを含んでいます。
雨だけでなく祖母も秘密を抱えていた
心をくれた恩人であり最愛の人・太陽(山田裕貴)の命を救うため、謎の案内人・日下(斎藤工)と取引をし、五感を失うことになった雨(永野芽郁)。
五感は余命宣告のように失くすタイミングを事前に伝えられ、一つずつ順番に失っていきます。それも徐々に味を感じなくなる、といったように、少しずつ失われるのではなく、スイッチを切るかのように、ある日ぷつりとなくなるのです。そして何も感じることができなくなり、最終的には心を失います。
その辛さを誰にも共有せず、一人で抱えようとする雨。もちろんそんなことを知らない祖母は、「健康な心と体があるのだから働きなさい。時間を無駄にしたらもったいない!」と、側から見たらたただのニートである雨に、至極真っ当な言葉をかけます。しかし今はその全てが雨には残酷な言葉として刺さります。
一方で祖母も秘密を抱えていました。実はがんを患っており、余命半年と宣告されていたのです。だからこそ、自分の生きている間に雨を立ち直らせたかったのでしょう。
この状況で五感どころか、雨の絶対的な心の拠り所である祖母を失うことはさらなる悲劇を極めます……。
太陽の父(遠藤憲一)はうんこ出てよかったな。快便第一!
千秋、太陽の母説
案内人である千秋(松本若菜)が太陽の母なのではないか、という仮説。
2話では、雨を心配する千秋に対し、日下が「彼女もじきに全てを諦めますよ」と、伝えていました。彼女「も」とは、千秋もこの苦しみの経験者なのでは? と思わせるような口ぶりです。
前回の考察にも書いた、千秋が、案内人と取引をし、自分の命と引き換えに火災から太陽を救った説が事実だとした場合、その時に経験した苦しみや葛藤が、この「も」にかかっているのではないでしょうか。
そして、千秋が妙に雨に肩入れし、感情移入しながら寄り添うのも、自分の経験から少しでも力になりたいと考えているのでは?
海辺で太陽と案内人達がばったり出会ってしまった時も、日下は動じずにあの調子のままでしたが、千秋は気まずそうに、少し顔を背けていました。
「太陽に姿を見せるな」という雨との約束からなのか、太陽が記憶を失ってはいるものの、自分が母であるということを隠したいからなのか。
この状況に絶望し、全てを諦めようとする雨に対しても「思い出を作ることができる! あなた『には』まだ時間もある! 忘れられない思い出は人生には必ずある」という言葉をかけていました。
これもまるで実体験を踏まえたかのよう。「火事で命を失うことになった自分には、その時間がなかった」かのようにもとれます。果たしてその真相は……。
世界一幸せな二人を見て絶望する雨
嗅覚にはにおいを感じるだけでなく、特定のにおいをかぐと過去の思い出が蘇る「プルースト効果」というものがあります。つまり嗅覚を失うということは、においに関する思い出を失うということ。
結婚式場で日雇いバイトをした雨は、この瞬間世界で一番幸せなカップルを目の当たりにします。本来であれば、自分の将来を重ねてしまいたくなる幸せな絵面なのですが、新郎新婦のエピソードを聞き、五感を失う自分がどれだけ大切なものを失くすのかを実感させられます。
クレープの香りをきっかけに、太陽との学園祭の記憶を思い出すことも、おいしいご飯を作ってあげることも、声を聞くことも、同じ景色を見ることもできなくなってしまうのです。
自分は幸せになることができないのだと、まさか幸せな二人を見て絶望することになるとは……。そこで雨は自分は太陽を幸せにはできないと、身を引くことを決意します。
願いがかなったのに絶望の淵に立たされる雨
高校生の頃、学祭の準備で疲れて寝ている太陽に、「夕陽が今までで一番きれいだって思えたのは太陽くんがいたからなんだね。ありがとう」と、こっそり本音を漏らし、手をつなぐ勇気がない代わりに小指同士をそっとくっつけた雨。
2話では、寝てしまった雨に電話越しで、「好きだよ」と漏らした太陽。相手が寝ている時だけ本音が言える、奥手すぎる二人。こんなにも両思いなのに、奥手が恋路を阻みつつ、それがエモくもあります。
そんな長い二人の恋物語に終止符を打つべく、太陽はとうとう雨に告白します。色覚障害である分、雨の好きな匂いや味、曲を知って、視覚以外の五感で気持ちを分かち合おうとしていたこと、世界で一番、君のことが好きだということを伝えます。
人生で一番うれしい瞬間のはずなのに、五感を失う今の雨にとっては残酷な言葉になってしまいました……。
しかもここは、寝ている太陽に雨がこっそり小指をくっつけた思い出の場所。そこで告白され、とうとう手もつないだというのに。
昔、雨がお願いした恋ランタンの2つの絵馬。「好きな人の最愛の人になれますように」「初恋の人といつか手を繋げますように」どちらも確かにかなったのですが、まさかその先に未来がないなんて誰が予想したでしょうか。
願いってその先に未来があるから、かなうとうれしいものなのだと、当たり前に未来がある前提で生きている私たちに気づかせてくれた瞬間でした。
雨は太陽に「好きな人がいる」とうそをつき、これを一生の思い出として生きていこうと決意します。
身を引くことは本当に太陽のためになるのか
いろんな感情に追い込まれてしまった雨は、同級生の望田(白州迅)に五感を失うことを漏らしてしまいます。
太陽にはもちろん、祖母にも言えなかった五感のことを言えるのは、近すぎない距離で、何も思い入れがない相手だからなのでしょうか。
「こんな自分と一緒にいても太陽くんは幸せじゃない」と考える雨ですが、本当は太陽が決めるべきことのように思います。責任を感じさせ、面倒を見る義務を負わせてしまうのは本意ではないので、太陽の命と引き換えに五感を失った事実は伏せるとしても、全てを背負ってでも雨といたいかどうかは太陽が判断すべきです。
ましてや今回の場合、太陽のために五感を失ったわけですから、それを込みで雨と一緒にいるか彼に選択してもらうことは不自然ではありません。
でも雨にとっては彼の命を救ったことは、大好きな人と一緒に過ごせる時間を延長したかったのではなく、ただ、太陽に元気に生きていてほしかっただけなのですね。
太陽にうそをついたことで、太陽との思い出を作れる、残された短い時間すら放棄してしまった雨。
これから二人の関係はどうなってしまうのでしょうか。
(やまとなでし子)
※この記事は2024年01月29日に公開されたものです