ピルやデリケートゾーンケアの「弊害」知ってる? 『膣の女子力』書評
仕事、結婚、からだのこと、趣味、お金……アラサーの女性には悩みがつきもの。人生の岐路に立つ今、全部をひとりじゃ決め切れない。誰かアドバイスをちょうだい! そんな時にそっと寄り添ってくれる「人生の参考書」を紹介。今回は、本当は気になるけど、なかなか手に取りづらい「性の本」を、恋愛や性の話題に精通するライターのミクニシオリさんが書評します。
婦人科検診になんとなく苦手意識があるのは、きっと私だけではないはずだ。勝手に足が広がっていく椅子にも、検診のために使われる冷たい棒にも、いつまで経っても慣れない。だから時折、膣がかゆくなったり、おりものが変化してしまったりすることがあっても、2,3日と様子を見て「治ってきたかも」と、受診を先送りにしてしまう。
それでも、私の場合30歳を超えてから膣の不調が増えてきた。仕方なく婦人科に行くと「慢性的に荒れているし、乾燥しているし、冷えていると思う」と注意された。薬を出すから、と言われたけど、なぜ自分の膣が慢性的不調状態なのかは聞けなかった。臨床に立つお医者さんはいつも忙しそうで、長々と話しかけることをためらってしまう自分もいる。
だから、自分でも自分の身体のことを、そして膣のことを勉強してみようと思った。本屋では立ち読みしにくいテーマでもあるから、今日もこうして書評にまとめてみる。
【この本を読んで分かること】
・自分がやっていた「間違いデリケートゾーンケア」に気づける
・自分の生理やPMSが「なぜ重いのか」が分かる
・健康な身体と膣のために「何をすべきか」が分かる
よかれと使っているデリケートゾーンソープで、膣環境が悪化?
本屋で膣に関する本を探してみると、意外にも「セックスレス解消」や「ダイエット」を切り口にした、膣トレの本がけっこうあった。トレーニングにも興味はあるけれど、やっぱり病院で聞けなかった「なぜ膣の不調が起こるのか」が知りたくて選んだのが『膣の女子力 女医が教える「人には聞けない不調」の治し方(駒形依子著/KADOKAWA)』。
著者の駒形先生は、山形県で今も臨床の現場に立つ婦人科医師。私は、診察に行った病院では他の予約客や先生に気を遣ってしまって、聞きたいことが聞けなかった。けれどやっぱり、身体のことはお医者さんに聞くのが一番いい。
『膣の女子力』にはもちろん膣のセルフトレーニング方法も載っているのだけれど、それだけでなく現代の女性における膣の現状や、どんなトラブルが多いのか、そしてそのトラブルがなぜ起こるのかもしっかりと書かれている。婦人科で日々多くの女性の膣を見る駒形先生ならではの視点だ。
特に驚いたのが、自分が何気なくしていることが、膣環境に悪影響を与えているかもしれないということ。たとえば、かわいい下着で自己肯定感をあげようと、つるつるのパンツを履くこと。ムレが気になるからと、デリケートゾーンを脱毛すること。それに、デリケートゾーン用のソープで洗うこと。
「え!? デリケートゾーン用のソープならいいんじゃないの?」って、私も思った。デリケートゾーン用のソープは最近かなり流行していて、むしろ使った方がいいものと思っていたけど、そこまでしなくてもいいらしい。デリケートゾーン専用の保湿液も、別になくてもいいんだって。
私がよかれと選んだパンツや医療脱毛、ソープで、私は膣を冷やし、乾燥させていたらしい。フェムケアがこれだけ世の中に取り上げられるようになっても、自分はその知識が足りないと気づいた。デリケートゾーンケアも、思い込みでなんとなくやっていることも多いと知って、その状況にすごく不安を感じた。
「生理の悩み」も放置すると不妊の原因に……
第2章では、生理についても自身に思い込みがあり、そして知識を持とうとしていなかったということを知る。たとえば、私は数カ月に1度は、重い生理がやってくる。しかも、ピルを服用していてもだ。生理とはそういうものなのだろうと思っていたけれど、どうやらそうではないらしい。
そもそも、自分の生理が通常と比べてどんな状態なのかを考えるきっかけが今までなかった。生理に関する章では、正常な生理の状態がどんなものか、逆に異常状態がどんなものかも教えてくれる。生理にしろ膣にしろ、日本では未だに他人と状況を共有する機会もないし、自分が正常か異常かの自己診断が難しかったことを痛感する。
それにPMSについても「全女子に起こり得る仕方のないこと」だと思っていた。私も毎月生理前はイライラするし、食欲旺盛になって食べすぎて「また食べ過ぎた」と自己肯定感を下げている。でも、PMSにもきちんと原因があって、問題を放置していると不妊症にもつながるんだとか……。
私たちにとって膣が大切な理由は、自身のライフステージの変化に関わる問題だからでもある。自分が知らずしらず選択したことが、いつかの自分にとって大きな妨げになることがあるかもしれない。
私はこれまで、生理やPMSがひどいのは仕事や人間関係のストレスのせいなのだと思っていた。もちろんそれも要因なのかもしれないけれど、生理不順や月経過多、PMSにはもっと直接的な要因もあった。こんな大切なことを、どうして今まで誰も教えてくれなかったのかとすら疑問に感じる。
生理が重いからではなく、自分の人生のために膣と向き合う
『膣の女子力』は、本来的には全女性が読むべきだと思う。だって、何回婦人科に行っても教えてもらったことがない、自分の身体や人生に関わる情報が詰まっているから。
この本のスゴいところは、今私たちが何気なく選択していることが「なぜ膣に悪いのか」と「正常な膣のために何ができるか」をどちらも教えてくれていること。ただなんとなく、セックスレス改善になるからとか、骨盤が整うらしいからと言われるより、もっと必然的に膣トレをするべきなのだと思ったし、ピルを今後飲み続けるかも、もっときちんと考えなくてはいけないと思った。
膣が健康になればピルがいらないから、ピル代が浮く。不調がなくなれば日々が快適だし、生理のしんどさもなくなる。フェムケアは私たち女性が、もっと健康的に輝く毎日を過ごすために発展した分野だけど、正しい知識がないと逆効果を生んでしまう。
この本は、自分をもっと大切にしたい、毎日もう少し元気になりたいという人に勧めたい。生理が重いから読んで欲しいというわけではない。『膣の女子力』を読めば、膣ケアは女性にとって、もっと本質的な健康と関わりがあるということが分かるはずだ。
(ミクニシオリ)
※この記事は2023年04月16日に公開されたものです