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支払われるお金は「線香代」!? 舞妓さん=会いに行ける10代美少女アイドルだった時代

堀江 宏樹

お香今でも10代後半くらいの特に若い世代の芸者さんを特別に「舞妓」といいますが、これは江戸時代の「踊子」が転じたものです。そして、江戸時代の踊子といえば、現代のローティーンのアイドル少女みたいな存在だったわけです。

吉原でもその年代の少女がお客を取ることは、倫理的な観点から禁止されていました。江戸時代も重度のロリコン趣味は性犯罪として見なされていたわけですね。
一方、現代もローティーンの少女アイドルにハマる日本人の男性が少なくないように、江戸時代の男性も、少女特有の「かわいさ」とか「愛嬌」を必要としていたのは、ある意味、同じなのです。ところが江戸時代、女性が舞台の上に立って、芸能活動することは風紀上の問題で幕府から禁止されていました。だから踊子のステージも、色街などのお座敷にならざるをえません。そして吉原など色街でも「かわいさ」とか、「愛嬌」だけで勝負せねばなかったのです。

一方、「かわいさ」だけでは勝負できない、「セクシーさ」が必須の吉原の遊女にとって、踊子はお客を布団の中に導く前の時間を盛り上げてくれる、いわば「前座」がわりの、よきビジネスパートナーだったわけですよ。このように吉原のお座敷も、さまざまなキャラやタイプの女の分業で華麗に成り立っていたわけです。

踊子は、身体を売る存在では(いちおう)ないので、遊女が客を取れるようになる14、5歳といった年齢になる前からも吉原で働き始められました。だから現代でいえば小学生低学年くらいの年齢の踊子も、吉原にはたくさんいたはず……。

江戸時代の庶民は、かわいい娘がうまれると、彼女を踊子にしようと熱心に歌や踊りの稽古をさせました。成人女性の芸者でも、吉原では本当に最下層の遊女と同じ位(一回・数万円程度)くらいしかお座敷で稼げないので、踊子のギャラはそれよりも少ないはずです。しかし、一日にいくつかお座敷をハシゴすれば、相当稼げたことは事実ですよね。

踊子という美少女にしかできないアルバイトを、一躍有名にしたのが、江戸時代中期に吉原で働いていた、扇屋(おうぎや)の歌扇(かせん)という少女でした。彼女の名前は、今でも線香と結びつけて語られます。

なぜ線香なのか……というと、現代でも舞子(そして芸者)に払われるギャラを、線香代というんですが、自分が歌や踊りを見せる時に線香を炊き、その燃焼時間=パフォーマンスの時間に定めたというのが、この歌扇という少女だったのですね。

江戸時代の線香は、現代の線香よりも若干、長めでした。現代の線香の燃焼時間は1本あたり30分程度なのに対し、江戸時代の線香は……というと1本あたりがおよそ45分。これが、お座敷での仕事時間の基準になったのでした。さらに、線香の香りの主成分は伽羅(きゃら)という香木で、こちらは人間の汗に含まれるフェロモンの成分と似ているそうですよ。まだ子どもなのに、歌扇のアイデアには脱帽です……。

現代でもキャバクラ嬢などは20歳を少し過ぎるともうベテラン扱いになったり、年齢的な「若さ」をものすごく重要視されますが、この手の年齢問題は、踊子にもつきものでした。

当時の成人年齢である、14~15歳になると、踊子であっても、こまった経験をすることが増えたそうです。井原西鶴も『好色一代女』で「お客が、ただでは(踊子を)帰してくれない」と言及していますが、遊女と遊びに来ているハズのお客の男性から、いわゆる「アフター」を誘われてしまうわけですね。特別に「線香代」をはずむから、オレに枕営業をしてみないか、という露骨なお誘いを受けてしまうわけです。

踊子として活動をつづけ、芸者になるか、素人に戻ってフツーに結婚するかも思案のしどころでした。まぁ、現代もティーンアイドルとしてチヤホヤされた少女はふつうの女子の感覚を取り戻すのは大変ですから、江戸時代の踊子たちも「卒業」は大問題だったでしょうね。

ちなみに、いくら身分が踊子であっても、14~15歳を過ぎた少女が、お客の男性と寝ていることがバレれば、彼女たちは強制的に、吉原でも最下層の遊女として売り飛ばされ、三年ほど無償労働させられてしまうという罰が与えられたのでした。

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著者:堀江宏樹
角川文庫版「乙女の日本史」を発売中
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※写真と本文は関係ありません

※この記事は2015年04月25日に公開されたものです

堀江 宏樹

プロフィール歴史エッセイスト。古今東西の恋愛史や、貴族文化などに関心が高い。

公式ブログ「橙通信」
http://hirokky.exblog.jp/


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