敷金が全額戻ってくるようになるって本当?
賃貸住宅につきものの敷金。本来は保証金のはずなのに、退去時にさまざまな理由で減額され、苦い思いをしたひとには朗報だ。現在はグレーゾーンとも呼べる敷金が、法律として明文化されることになったのだ。
敷金には「ルール」「一般原則」しか存在せず、トラブルがあとを絶たないのが理由で、法制化された後は、明らかな過失がなければ全額戻ってくるようになる。ただし礼金は変更予定がないので、敷金ゼロ、礼金4なんて物件が登場するかもしれないのだ。
畳の日焼けは誰のせい?
賃貸物件の敷金は、本来は保証のためで、
・家賃の滞納
・入居者がつけた傷や汚れの修復
など、万が一に備えた貯金のようなものだ。だが、ハウスクリーニングやクロスの貼り替えなどを理由に、退去時に差し引かれることが多い。たとえば故意に窓を割った、フローリングに焼け焦げを作ってしまったのであれば納得できるだろうが、畳がすり減った、床が日に焼けたなど、ひとが住んでいれば当たり前の部分まで請求されることが少なくない。
東京都都市整備局の資料によると、平成23年度に寄せられた相談は19,111件にものぼり、トラブルの内訳は、
1位 … 契約時(27%)
2位 … 退去時の敷金精算(26%)
3位 … 修ぜんを含む管理(16%)
で、わずか1%の差で2位となっているものの、トラブルのおよそ3割は敷金がらみで起きている。そこで東京都の「賃貸住宅紛争(ふんそう)防止条例」のように、ガイドラインを設けている自治体が多いのだ。
東京都のガイドラインから、退去時の現状回復と、入居中の修ぜん費用を要約すると、
〇現状回復
・大家が負担 … 経年変化や通常の使用による傷や消耗
・入居者が負担 … 故意/過失を問わず、通常の使用方法に反して起きた傷など
〇入居中の修ぜん費用
・大家が負担 … 住宅自体、その住宅に住むために必要な修ぜん
・入居者が負担 … 故意/過失を問わず、通常の使用方法に反して起きた傷など
とされ、たとえば意図的に部屋を水びたしにするなど「常識外」の行動は論外だが、普通に使っていても汚れや傷は発生する。これは「善管(ぜんかん)注意義務」と呼ばれ、入居者は元の状態を維持するように注意しなければならないが、カーペットの色あせや風呂場の水アカなどは「ひとが住んでいれば当たり前」と解釈され、貸し主の負担と定められている。
しかしながら敷金から差し引かれるケースも多く、トラブルの火種となっているのだ。
条例なのに、意外と無力…
すでに条例として存在するのに、なぜ法律化しようとしているのか? さきの東京都条例を例にすると、あくまで「ガイドライン」であり、強制力を持っていないからだ。
条例の要点をあげると、
1.退去時の「通常」の復旧は、大家の負担
2.入居期間中の「必要」な修ぜんは、大家の負担
3.入居者負担になるものを、具体的に示す
4.これらを事前に説明しなければならない
で、1.2.はさきに説明した通りで、3.は部屋の電球や水道のパッキンなど、小規模な修ぜんを意味している。問題は4.で、違反すると東京都が指導や勧告をおこなうと記されているものの、罰金や罰則は規定されていない。
何度も繰り返すと「悪徳業者」として公表される以外にペナルティが存在しないのだ。
法律化されれば、違反者には厳しい処罰が下されるのだろうが、残念ながら現時点では「いつから」始まるのかはっきりしていない。それまでに納得のいかない精算を要求されたら自治体か「敷金診断士」に相談するのも良いだろう。
フリーダイヤルの「敷金相談センター」もあるので、強い味方になってくれるはずだ。
まとめ
・敷金に関するルールが法制化される予定
・自然故障や経年劣化は、貸し主負担が原則
・「普通ではない」使い方で生じた損害は、入居者が負担
・現在も条例があるが、罰則がない
・現状回復の査定をしてくれる「敷金相談士」が存在する
(関口 寿/ガリレオワークス)
※この記事は2014年09月25日に公開されたものです