飛行機は接着剤で組み立てるって本当?
国産初のジェット機や大型旅客機と、話題の多い航空機。強度と軽量化を両立させるために、組み立てには接着剤が使われているのをご存じだろうか。
「分解しないの?」と不安になるかもしれないが、航空機用接着剤は-55℃から260℃の幅広い環境に耐え、1平方cmあたり約400kgもの力を加えてもはがれることがない。ジェット戦闘機にも採用されている接着剤は、自動車やバイクの省エネの切り札として注目されているのだ。
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たたみ1畳で6千トン分の強度!
航空機や自動車など、重量があり強度が求められる構造には、
1.ネジやボルト
2.リベット
3.溶接
が用いられるのが主流だが、それぞれに長所と短所がある。おもな要素をあげると、
1.(長所)脱着可能 (短所)部品数が多く、重い
2.(長所)軽量で安価 (短所)強い力に耐えられない
3.(長所)強度が高い (短所)素材によっては加工できない
で、どれも痛しかゆしだ。めったにメインテナンスしない部分や、分解しては困る部品には2.リベットと3.溶接が主流だが、高い強度が必要な部分にリベットを使うと、数が増えて重くなってしまう。溶接なら重量はさほど増えないが、たとえばアルミと鉄など、溶ける温度が異なる素材では溶接できない組み合わせもある。
これらをクリアしたのが接着剤だ。プラモデルからタイルまで、さまざまな素材用が存在し、木と金属などの異なる組み合わせにも利用できる。ただし温度や湿度などが許容範囲を超えり、強い力が加わったときにはがれてしまう恐れがある。
そこでアメリカ連邦規格MMM-A-132Aでは、航空機用の接着剤に厳しい規格が定められ、これをクリアしないと「航空機用」として販売できないのだ。特徴的な要素を抜粋すると、
・タイプI・クラス1 … -55℃~82℃で、1平方cmあたり387kgの力に耐えられる
・タイプII … 149℃で、1平方cmあたり158kgの力に192時間耐えられる
・タイプIV … 260℃で、1平方cmあたり70kgの力に192時間耐えられる
などの6種類に細分化され、使用する場所やシーンに合わせて選択できる仕組みだ。タイプI・クラス1なら江戸間1畳(88x176cm)で5,993トンにも耐えられるので、標準的な乗用車4千台をつるすことができる。
すでにジェット戦闘機にも利用され、今後は自動車の組み立て用に着目されているのだ。
「面」は「点」より強し
自動車に接着剤が適している理由は、軽量化と安全性だ。
燃費の良いクルマ作りには軽量化が必須で、レーシングカーには強度と軽さを両立できるアルミやカーボンファイバーが使われている。ただし非常に高価なため、市販車では、基本構造は鉄鋼+部分的にアルミニウムが用いられる車種もある。
この場合、金属によって溶ける温度が異なるため、溶接は不可、または非常に困難だ。
対して接着剤なら、融点を気にする必要もないし、カーボンファイバーのような樹脂とも貼り合わせることができる。屋根やボンネットなど、分解する必要のないパーツには接着剤が最適なのだ。
もうひとつのメリットは強度で、溶接よりも強く結合できるため、事故時の安全性を向上できる。
クルマには「点」で留めるスポット溶接が主流で、広い面積では間隔をあけて留めるため、「面」同士が完全につながっているわけではない。そのため長時間の振動や強い衝撃が加わるとちぎれてしまう場合もある。対して接着剤なら「面」でつなげられるため剛性が増し、安全性も耐久性も高めることができるのだ。
強い衝撃でもはがれない「耐衝撃性接着剤」も開発されつつあるので、溶接もリベットも使わないクルマが登場する日も、そう遠くないだろう。
まとめ
・航空機の組み立てには、接着剤も使われている
・1平方cmあたり約400kgの力に耐えられる
・-55~260℃と、過酷な環境でもはがれない
・ジェット戦闘機にも利用されている
・軽量化できるので、今後クルマに活用される可能性・大
(関口 寿/ガリレオワークス)
※この記事は2014年09月25日に公開されたものです