偽装食品と代用食の違いって?
いつの世でも新聞をにぎわす「偽装食品」。賞味期限の改ざんや産地偽装などはかわいいもので、食品自体が偽装されているものもある。細切れの肉を固めた「ステーキ」、植物油を大量に混ぜた「ネギトロ」などが当たり前のように販売されているのは、じつに嘆かわしい。
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だまし目的とは対称的に、代用食として生まれたものも存在する。ナポレオンの命令で作られたマーガリンはバターの代わり、煮物でおいしい「がんもどき」も、肉を食べられないお坊さん用に生まれた、ある意味で「偽装食品」なのだ。
偽装と代用食は違う?
スーパーなどに並ぶ食品には、消費者が納得して購入できるよう、農林水産省が「栄養成分表示」を義務づけている。例えば、熱量(エネルギー)が何カロリーなのか、ナトリウム(または食塩)が何g含まれているか、など5項目の表示がされているのはご存じの通りである。
しかし、見ためでわからない食品も山のようにあるため、消費者庁は「景品表示法」を定め、インチキ商品が出回らないように取り締まっているのだ。
だが残念なことに偽装は絶えない。ステーキ肉も、本来は自然の状態で切り出された1枚肉が当たり前なのだが、肉の切れ端を固めた「成型肉」が使われたケースもある。ほかにも、牛脂を注射(=インジェクション)した「なんちゃって霜降り肉」も存在する。
それと知ったうえなら良いが、知らずに購入し、ただだまされているのは悔しい。
しかし、だますことが目的ではない「偽装」された食品もある。材料不足から生まれた「代用食」で、なかでも有名なのが朝食の定番・マーガリンだ。
マーガリンの発祥地はフランスで、戦時下にあったためバター不足に悩まされていた。これを深刻に受け止め、偽装バター作りを命じたのは、なんとナポレオン三世だ。公募によって科学者メージュ・ムーリエが考案した「合成バター」が採用され、国内に広まった。
本物は食べられなくても、似たもので国民が喜んでくれるのならば、と思ったに違いない。トランス脂肪酸を含んだコレステロール源として悪者扱いされているが、現在はさまざまな改良がくわえられ、バターよりもローカロリーなマーガリンも存在する。
思いやりから生まれた偽装食品?
代用=偽装の意味なら、精進料理の多くは偽装食品と言えるだろう。煮物でおいしい「がんもどき」も、りっぱな代用食品で、鳥の「がん」+なんちゃっての意味の「もどき」が名前の由来になっている。
これは、肉を食べられない仏門関係者向けに、「がん」の味を再現した食品なのである。現在は「がん」を食べることがあまりないため、豆腐料理として認識しているかもしれないが、もともとは精進料理なのである。
このほかにも同じ豆腐を使った料理では「うなぎもどき」も有名だ。高価でなかなか口にすることができなかった「うなぎ」を、庶民でも食べられるように作られたものである。日本だけでなく、古代中国でももどき料理は存在し、偽装とは別のジャンルとして確立されていた。
現代ではカニカマのように、kaniやsurimiの呼び名で海外でも通じるほど、食品としての地位を得ている食品もあるのだ。
まとめ
・マーガリンは、ナポレオン三世が作らせた、バターの代用食品
・煮物でおいしいがんもどきも、鳥のがんに似せた精進料理
・カニカマは、海外でも人気の「もどき」食品
消費者をだます「偽装食品」は、添加物などでうまいこと「それらしさ」を演出させた、ただのインチキ商品に過ぎない。
「もどき」は「偽装」とも呼べるが、ここには食べる相手のことを考え、高度な技術と知恵を駆使し、なにより「だます」のではなく「もどきですよ」と言い放つところがいさぎよい。悪意がベースの偽装がなくなる日を願うばかりだ。
(沼田 有希/ガリレオワークス)
※この記事は2014年07月13日に公開されたものです