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みんな間違えている? 「破天荒」の本来の意味を例文つきで紹介

前田めぐる(ライティングコーチ・文章術講師)

「破天荒」の意味を「豪快で大胆」と思っている人は多いかもしれません。しかし、「破天荒」には本来そのような意味はありません。今回はライティングコーチの前田めぐるさんに、「破天荒」の本当の意味や由来、類語について例文と共に解説してもらいます。

「破天荒」とは、作物の実らない土地を切り開くこと。転じて、「それまで誰もできなかったことを成し遂げる」という意味です。

ところが、多くの場合、本来の意味とは異なり「豪快で大胆な様子」という意味にとらえられているようです。意味や語源をひもとき、適切な使い方を考えてみましょう。

「破天荒」の意味と由来

「破天荒」は、「はてんこう」と読みます。まずは「破天荒」の意味と由来を確認しましょう。

意味は「今まで誰もしなかったことをする」

「破天荒」という言葉は、辞書には次のように書かれています。

はてんこう【破天荒】
(「天荒」は天地未開の時の混沌たるさまで、これを破りひらく意)
今まで誰もしなかったことをすること。未曾有。前代未聞。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)

「破天荒」とは作物の実らない未開の地を切り開くように、「今まで誰もしなかったことをすること」を意味する言葉です。

転じて、「これまでにはなかったこと。未曽有(みぞう)のこと」という意味でも使われます。

「破天荒」の由来

「破天荒」は、中国・宗時代の説話集『北夢瑣言(ほくぼうさげん)』にある唐王朝の故事に由来する言葉です。

最初に「天荒からの受験者」という呼称ができた

当時は、中国の各地で官吏登用のための予備試験が行われ、それに合格した人だけが都での本試験に送り込まれていました。

ところが、荊州(現在の湖北省・湖南省)から送り込まれる受験者たちは、なかなか合格しません。

そのため、荊州の受験者は「天荒(=作物が実らない地)からの受験者」と呼ばれていたそうです。

「天荒を破る偉業」から「破天荒」が生まれた

しかし、その後初めて荊州から劉蛻(りゅうぜい)という合格者が出ました。荊州の長官は大変喜び、「天荒を破る」偉業を果たしたとして、大金の褒美を与えました。

このように、「ずっと合格者がなかった地域(天荒)から初めて試験を突破した者が出た」ことに由来して「今まで誰もしなかったことをすること」という意味の「破天荒」という言葉が生まれました。

6割以上が「破天荒」を本来と違う意味で解釈

文化庁が平成20年度に行った「国語に関する世論調査」では、「破天荒」の意味が選択形式で質問されました。

結果として、「破天荒」の意味として「豪快で大胆な様子」を選んだ人の割合は64.2%を占めました。一方、本来の意味である「誰も成し得なかったことをすること」を選んだ人は、16.9%に留まりました。

調査結果からは、回答者の半数以上が、本来の意味と異なる意味で「破天荒」という言葉を捉えていることが読み取れます。

この背景にはまず、「誰も成し得なかったことを行うには、ある種の大胆さや豪快さが必要だろう」という私たちの思い込みもあるでしょう。

また、「破」「荒」という漢字が大胆で型破りな印象を与えることも、意味を勘違いしてしまう理由の1つと推測されます。

そのためか、現代の日本では「破天荒な人生」「破天荒な作家」というように、「破天荒」が「豪快で大胆な」という意味で使われることがよくあります。

しかし、それが本来の意味と違うことは知識として知っておきましょう。

「破天荒」はどんな時に使えるのか?(例文つき)

ここからは、どんな時に「破天荒」が使えるかを、場面ごとに紹介します。

「誰も成し得なかった」という意味で使う時

それまで誰も行うことができなかった事業や取り組みなどについて、「破天荒な事業」「破天荒な試み」と表すことができます。

またある地域や集団の中で、前例のないことが起きた時にも使えます。

例文

・少数精鋭のM社は、その規模だからこそのメリットを生かし、大企業では難しい破天荒な事業を手掛けている。

・この春、わが校から創立来初めての東大合格者が出たことは破天荒で、実に喜ばしい。

新たな変化が起こった時

それまでになかった、新たな目まぐるしい変化について「破天荒な変化」などと使うこともできます。

例文

・その小さな村にとって、SNSで村民の10倍ものフォロワーを得て、数千万円ものふるさと納税額を得たことは、破天荒な変化だ。

「これまでなかったこと」という意味で使う時

この場合は、人物ではなく事柄について「破天荒な○○」と使います。

例文

・B店では起死回生を狙って、消費税10%還元という破天荒なセールで話題をさらった。

「破天荒」の類語(例文つき)

「破天荒」の類語や言い換え表現について以下に紹介します。

「未曾有(みぞう)」

「今までに一度もなかったこと」という意味では「破天荒」と同じです。主に事柄について使います。

例文

・この土地でそれほど凶悪な犯罪が起こるとは、まさに未曾有の大事件です。

「前代未聞(ぜんだいみもん)」

「これまで一度も聞いたことがないこと」という意味で、「破天荒」にかなり近い言葉です。極めて珍しいことや、甚だ驚くべきことなどに使います。

例文

・その年の○○地方での稲作は、前代未聞の凶作だったそうです。

「前人未到(踏)(ぜんじんみとう)」

「今まで誰も到達していない」という意味で、「破天荒」とほぼ同じ意味です。「今まで誰も踏み入れたことがない」という意味の場合には「未踏」の字を使います。

例文

前人未到の記録を成し遂げた彼は、高校時代から精神力の鍛え方が他の生徒とは違っていたらしい。

・その冒険家は長い月日をかけ、ついに前人未踏の地にたどり着いた。

「空前絶後(くうぜんぜつご)」

「過去に例がなく、将来にもあり得ないと思われる珍しいこと」という意味。過去だけでなく、将来にも言及する点が、「破天荒」との違いです。

例文

・その映画は、アニメ映画史上、空前絶後の興行成績を記録した大ヒット作となった。

「前例がない」

「過去に例がないこと」という意味。良い意味である「破天荒」と違い、文脈によって、良い意味と悪い意味の両方に使えます。

例文

・この小さな町から国会議員を輩出するとは、前例がないことだ。

誤解を生まないためには言い換え表現も活用する

この記事では、「破天荒」という言葉を正しい意味で使う場合の例文を紹介しました。

しかし、本来とは違う意味に捉えている人が6割以上にのぼり、メディアや書籍などでも「破天荒な生活」「破天荒な人生」というふうに、「豪快で大胆」という意味で使われていることも多いようです。

「豪快で大胆」という意味の「破天荒」は、半ば市民権を得ているような状況ですね。

このような場合、自分が「破天荒」という言葉を正しく使っても、相手が間違った意味に捉えてしまうとコミュニケーション自体が成り立たないことがあります。

そんな時は、類語や言い換え表現を選ぶ方が誤解を生みません。意味が過渡期にある言葉には、気をつけたいですね。

(前田めぐる)

※画像はイメージです

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