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「叡智」と「叡知」の違いは? 意味や使い方、類語を紹介

前田めぐる(ライティングコーチ・文章術講師)

「叡智」とは「深い道理を悟る優れた知恵」という意味です。「叡知」「英知」といった表記もありますが、意味の違いはあるのでしょうか。ライティングコーチの前田めぐるさんに、「叡智」の詳しい使い方や類語、対義語を、例文と共に解説してもらいます。

「人類の叡智を結集してコロナに立ち向かう」「叡智の結晶」など、日頃から「叡智」という言葉をよく聞きますね。

「叡智」は「叡知」や「英知」とも書きますが、意味に違いはあるのでしょうか? 用法や類語、言い換え表現なども、詳しく見ていきましょう。

「叡智」の意味と読み方

「叡智」は「えいち」と読みます。辞書で引くと、次のような意味があります。

えいち【英知・叡知・叡智】
深遠な道理をさとりうるすぐれた才知。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)

辞書からは、「叡智」が単なる知恵だけではなく、深い知恵や悟りにつながる優れたものであることが分かります。

以上のことから「叡智」は、「物事の深遠な道理を見通し、悟り、わきまえることができる優れた知恵」という意味です。

「叡智」と「叡知」「英知」の違い

「英知・叡知・叡智」と3つの表記がありますが、細かい違いによって意味は変わるのでしょうか?

「英知・叡知・叡智」に大きな違いはない

「英」と「叡」、「知」と「智」について、それぞれの漢字の意味を調べてみましょう。

【英】エイ・ひい-でる・はなぶさ・はな
(1)草木のはな。はなぶさ。
(2)美しく、すぐれている。ひいでる。
(3)「英吉利(イギリス)」の略。

【叡】エイ・あき-らか
(1)ものごとを深く見通す。かしこい。あきらか。
(2)天子に関することがらをうやまっていうことば。

【知】チ・しる
(1)みとめる。感じとる。理解する。見分ける。おぼえる。しる。
(2)しらせる。しらせ。
(3)しりあい。また、よく理解してもてなす。
(4)おさめる。つかさどる。
(5)ものごとの本質を見ぬく力。ちえ。また賢い。

【智】チ・ちえ
(1)ものごとを理解し、わきまえる頭のはたらき。ちえ。
(2)かしこい(人)。ものしり。
(3)はかりごと。たくらみ。
(『例解新漢和辞典』三省堂)

広い意味では、「叡」「英」「智」「知」のいずれも、「かしこさ」に通じます。

また辞書では、「英知・叡知・叡智」と同列で書かれており、意味に大きな違いはありません。そのため、一般的には漢字の違いにこだわる必要はありません。

ただし、「えい」と読む場合の「英」、「ち」と読む場合の「知」は常用漢字です。一方、「叡」と「智」は常用漢字外です。

公文書では常用漢字を使うため、もし社用のビジネス文書が公文書に準じる用字を定めているなら、ビジネス文書を書く場合には「英知」を使うのが適切です。

「叡智」と「叡知」の細かい違い

「叡智」も「叡知」も「物事を深く見通してわきまえ、明らかにする知恵」という意味です。

漢字によって意味が大きく変わることはありませんが、それでもあえて使い分けたい場合は、漢字の意味を丁寧に見ていくと良いでしょう。

まずは、同じ「叡」の文字を持つ「叡知」と「叡智」の違いを見ていきます。

「智」は仏教語で、サンスクリット語「ジュニャーナ」の訳語でもあります。

この「ジュニャーナ」には「あらゆる事象に対して明確に是非・善悪・正邪を断定し分別し、ひいては煩悩を断ずる精神のはたらき」(『日常仏教語』中公新書)という意味があります。

以上のことから、「叡智」は「叡知」と違って「あらゆる事象をはっきりと分別し、煩悩も断ずるほどの高い精神の働き」というニュアンスを持ち合わせている、といえます。

例えば、「人類の叡智」「叡智の結晶」というような壮大なイメージを表現したい時に最も適しているでしょう。

「叡智」と「英知」の細かい違い

次は「叡智」「英知」の違いを見てみます。

「叡」と「英」の違いとして、「英」が一般的な賢さを意味するのに対し、「叡」は物事を深く見通す賢さというニュアンスがあります。

「英知」が「物事を理解し、優れた知恵」だとするなら、「叡智」は「物事を深く見通してわきまえ、明らかにする」という意味だと捉えられます。

つまり、「叡智」は「英知」よりも、本質を見抜く力に裏打ちされた知恵だといえます。

「叡智」はどんな時に使えるのか?(例文つき)

「叡智」という言葉がよく使われる場面を、以下に紹介します。

何らかの脅威に対して知恵を出し合う時

災害や病気などの脅威に対して、知恵を出し合うような場面で「叡智を結集」という表現を使います。

例文

・新型コロナ感染症の脅威に、世界は叡智を結集して立ち向かった。

人物を評価する時

深い知恵を持つ人物について評する場面で「叡智の人」という言葉を使います。

例文

・彼は、叡智の人だ。

知恵を結集して作ったものの素晴らしさを伝える時

人々が長年の知恵と努力で開発した新製品などを発表する場面で、「知恵と努力が形になった」という意味で「叡智の結晶」という言葉を使います。

例文

・M社が今度発表する次世代スマートフォンは、叡智の結晶

「叡智」の類語(例文つき)

「叡智」の類語と言い換え表現を以下に紹介します。

「悟性(ごせい)」

「知的な思考能力」という意味。特に「感性によって得たことを理解して、概念化できる能力」を表す言葉です。

例文

・彼の芸術を理解するほどの悟性が私には足りない。

「知恵」

「道理を理解して、物事を的確に処理する心の働き」を意味する言葉です。「おばあちゃんの知恵袋」という言葉があるように、現実的で身近な賢さを表したい時にぴったりです。

例文

・「三人寄れば文殊の知恵」というように、凡人でも3人集まれば、何とかなるものだ。

「才覚」

「知恵を素早く働かせる」という意味。「叡智」が物事を見通す深遠な力を表すのに対し、「才覚」は物事をとっさに素早く処理できる知恵の力を表す言葉です。

例文

・彼は、若い頃から商売の才覚がある。

「叡智」の対義語(例文つき)

「叡智」の対義語を以下に紹介します。

「無知」

「知恵がないこと」という意味です。

例文

・私はその時どんなに自分の無知を恥じたかしれない。

「凡愚(ぼんぐ)」

「平凡で愚かなこと」という意味です。

例文

凡愚の身を顧みず、このようなことを申し上げるのは甚だ失礼とは存じます。

「短慮(たんりょ)」

「思慮が足りない」という意味です。

例文

短慮を戒めて事に当たるよう、部下には常々言い聞かせております。

メディアに見る「叡智」と「英知」の表記

文中でも述べたように、公文書やメディアでは基本的に「英知」が使われますが、「叡智」が全く使われていないわけではありません。

むしろ「叡智(えいち)」と振り仮名が併記されている例がよくあります。振り仮名を振ってでも「叡智」と表記したい意図がそこにはあるのでしょうね。

また、将棋のタイトルにも「叡王(えいおう)」と使われています。比叡山の「叡」の字でもあるこの漢字は、先を見通す最高の知恵として「知の頂き」を表すのに十分な文字であるといえるでしょう。

(前田めぐる)

※画像はイメージです

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