「甲斐甲斐しい」の意味は? 語源や類語、使い方を解説(例文つき)
「甲斐甲斐しい(かいがいしい)」の意味は、骨身を惜しまずテキパキ働くこと。では、語源は何なのでしょうか? ライティングコーチの前田めぐるさんに、詳しい意味や語源を教えてもらいました。また例文も併せて類語や使い方も解説してもらいます。
「彼女は甲斐甲斐しいね」と聞くと、人に尽くす頑張り屋の女性を思い浮かべて「けなげだ」「大変そうだ」という意味に受け取る人も多いでしょう。
もちろん、「頑張り屋」という意味は当たっていますが、「甲斐甲斐しい」の最も核心的な意味は「骨身を惜しまずテキパキ働く」という意味です。
そこに悲壮感はなく、本来は、「働いただけの成果が上がる」という張り合いのある働き方を示す言葉です。語源も含めて、意味や使い方を考えてみましょう。
「甲斐甲斐しい(かいがいしい)」の意味と語源
まずは「甲斐甲斐しい」の意味と語源を紹介します。
意味は「骨身を惜しまずテキパキ働く」
「甲斐甲斐しい」を辞書で引くと、次のような意味があります。
かいがいしい【甲斐甲斐しい】
(1)かいのあるさまである。思いどおりのさまである。
(2)有能である。頼りがいがある。
(3)骨身をおしまず、てきぱきしている。はりがあって、いきおいがよい。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)
読みは「かいがいしい」で、「甲斐」は当て字です。
広辞苑によれば、「骨身を惜しまずてきぱきと働く様子」「有能で頼りがいのある様子」、さらには「思い通りの効果を得られている様子」などを意味する言葉です。
ただし、辞書によっては次のように、(3)の「骨身を惜しまず、てきぱき働く」という意味しか取り上げていないものもあります。
かいがいしい【甲斐甲斐しい】
骨身を惜しまずに、きびきびと立ち働くさま。
(『明鏡国語辞典 第3版』大修館書店)
このことから分かるように、「甲斐甲斐しい」が「有能で頼りがいのある様子」「思い通りの効果を得られている様子」の意味で使われることは、多くないといえるでしょう。
以上のことから、「甲斐甲斐しい」は、主に「きびきびと立ち働く様子や、仕事や誰かのために骨身を惜しまず働く様子」を意味する褒め言葉です。
「甲斐甲斐しい(かいがいしい)」の語源
「甲斐甲斐しい」は、古くは「かひがひし」とつづられていました。
平安時代の書物にも用例があることから、その時代にはすでに使われていた言葉だったことが読み取れます。
では、もとはどういう意味で使われていたのでしょうか?
「甲斐」の意味は「効果がある物事」
「甲斐甲斐しい」の「甲斐」について調べると、次のように書かれています。
かい【甲斐】
(1)ある行為に値するだけの効果。
(2)(動詞の連用形や名詞について、「がい」の形で)……するだけの価値。
……にふさわしい効果などの意を表す。
《書き方》「甲斐」は当て字。
『明鏡国語辞典 第3版』大修館書店)
つまり「甲斐」とは、「何かと同じ効果がある物事」という意味です。
この「甲斐」は、古語である「かふ(代ふ・替ふ)」に由来します。「かふ」の連用形「かひ」が名詞化した語が「甲斐」の語源です。
「代ふ」「替ふ」の漢字からも分かるように、「甲斐」はもともと「代ふこと・替ふことができる」、つまり「代わりとなることができる物事」という意味でした。
そこから転じて「同じ効果が期待できる物事」「効果のある物事」という今の意味になったとされています。
「甲斐」を重ねて形容詞化したものが「甲斐甲斐しい」
先ほど説明したように、「甲斐」とは、「同じ効果が期待できる物事」という意味です。
自分がしたことに効果がある、つまり甲斐があれば、張り合いが出て頑張れるというものです。その「甲斐」を重ねて形容詞化したものが「甲斐甲斐しい」です。
効果が出れば、張り合いがあり、やる気になり、また立ち働く……「甲斐甲斐しい」は、そんなきびきびした動作を表しています。
「甲斐甲斐しい(かいがいしい)」はどんな時に使えるのか?(例文つき)
「甲斐甲斐しい」という言葉は、次のような場面で使うことができます。
献身的に働くけなげなさまを表したい時
仕事や役目、また誰かのために粉骨砕身、働くさまを表します。「骨身を惜しまない、献身的な」というニュアンスを表したい時に使えます。
例文
・彼女は、高校から帰るとほぼ毎日祖母を介護していて、甲斐甲斐しい。
きびきび働く頼りがいのある様子を表したい時
手際が良く、効率的にテキパキと仕事をこなしていく有能な様子を表現したい時に使えます。
仕事だけでなく、家事や育児、介護などで立ち働く頼もしい人について、男女を問わず、褒め言葉として使えます。
例文
・○○さんは、前職の豊富な経験を生かし、その会社でもコンサルタントとして活躍している甲斐甲斐しい人です。
・彼は、仕事もできるが、料理や育児も器用にこなして実に甲斐甲斐しい。
てきぱき仕事をこなす様子を表したい時
「甲斐甲斐しい」は形容詞だけでなく、下記のように副詞としても使えます。
・その日の彼は、午前中に仕上げた企画書を持って、午後に取引先を訪問してプレゼンを成功させ、実に甲斐甲斐しく動き回った。
物事が思い通りにいき、やりがいが感じられた時
近年あまり見かけませんが、「甲斐甲斐しい」は、「やっただけの効果が思い通りに得られる」という「やりがい、働きがい」の「かい(甲斐)」に近い意味でも使えます。
前後に「甲斐」の語を入れるなど工夫し、誤解のない文脈にして使うと意味が伝わりやすいでしょう。
例文
・実に、甲斐甲斐しい! 1年間、Twitterで投稿を続けた甲斐あって、フォロワー数が1万人に届いた。
「甲斐甲斐しい(かいがいしい)」を使う時の注意点
冒頭でも書いたように、近年「甲斐甲斐しい」は、仕事や人のために骨身を惜しまずキビキビと動く献身的な人について使うことがほとんどです。
そのため、それ以外の意味で使うと誤解される恐れがあります。
例えば、ある部長の指示にしたがって、てきぱき働く女性本人に対して「有能で仕事ができる」という意味で、「○○さんは、甲斐甲斐しいね」と使ったとします。
その女性がもし「献身的に人に尽くす人」という意味しか知らなければ、「私は別に、部長のお世話係ではありません。仕事としてやっているだけです」と怒らせてしまう可能性がないとはいえません。
それを避けるには「○○さんは、バリバリ頑張っているね」と他の言葉で言い換えたり、「○○さんは、有能で甲斐甲斐しいね」と他の言葉を補ったりすると良いでしょう。
「甲斐甲斐しい(かいがいしい)」の類語(例文つき)
「甲斐甲斐しい」と似たような意味を持つ言葉を紹介します。
「まめまめしい」
漢字では「忠実忠実しい」と書きます。
「マメな人」と使われる時の「マメ」と同じく、「よく気がつき、こまめに立ち働くさま。まじめな様子」という意味があります。
「甲斐甲斐しい」のように「有能で頼れる」という意味は含まれていません。
男女を問わず、誰に対しても使えます。
例文
・彼は35歳、まめまめしい働き盛りだ。
「粉骨砕身(ふんこつさいしん)」
「骨身を惜しまず働くさま」という意味です。
労苦をいとわず献身的に働くニュアンスでは「甲斐甲斐しい」と同義語ですが、「期待通りの効果が出ている」「有能で頼れる」という意味までは含まれていません。
例文のように、自分の固い意志を示す時にも使えるほか、男女を問わず、誰についても使えます。
例文
・私はもし医師になれたら、粉骨砕身働く覚悟です。
「敏活(びんかつ)な」
「敏」は「機敏(きびん)」「敏捷(びんしょう)」にも使われ、「頭の働きが良く、素早く行動する」という意味を持つ漢字です。
「敏活な」とは、素早く行動するさまを意味する言葉です。
「甲斐甲斐しい」のように直接的に「頼れる」という意味は含んではいないものの、敏活な人ならもちろん頼られるでしょう。
男女を問わず、誰に対しても使えます。
例文
・いつもながら、彼女の敏活な事務作業は見事なものだ。
「甲斐甲斐しい(かいがいしい)」の対義語(例文つき)
続いて、「甲斐甲斐しい」と反対の意味を持つ言葉を紹介します。
「甲斐がない」
「やりがいがない。やっただけの効果が認められない」という意味です。
「甲斐甲斐しい」が「思っていた通り。期待していた効果が得られるさま」であるのに対し、正反対の意味です。
漢字表記の方が、意味が伝わりやすいでしょう。
例文
・あなたがそんな調子では、教育係を仰せつかった私も甲斐がないというものです。
「ふがいない」
多くはひらがな書きですが、漢字では「腑甲斐ない」「不甲斐ない」と書きます。
「甲斐甲斐しい」が「てきぱきと働き、頼もしい」という意味であるのに対し、「ふがいない」は「情けないほどだらしなく、意気地がない」という真逆の意味です。
主に、自分や身内について情けなく思う時や、身内のように応援していた人が歯がゆいほど期待外れに感じる時に使います。
例文
・なんという体たらくだろう。自分でもふがいなくて、泣きたくなる。
「だらしない」
「強い気持ちがなく、だらだらとけじめがないさま」を意味する言葉です。
仕事や家事はもちろん、生活全般についても使います。
「甲斐甲斐しい」が「てきぱきと立ち働く」のに対して、真逆の意味です。
例文
・だらしない生活から抜け出すためにも、早寝早起きから始めましょう。
本来「甲斐甲斐しい(かいがいしい)」の使い方に性差はない
「甲斐甲斐しい」という言葉を男性に使うのは、どんな場合でしょうか? これまでは「テキパキ仕事ができて頼もしい」「家事や育児に協力して頼もしい」という時が多かったように見受けられます。
また、女性に使うのは、どんな場合でしょうか? 「骨身を惜しまず人の世話をする」「夫や家族に尽くす」という時が多かったようです。
ただし、辞書ではそうした性差について限定しているわけではありません。
働き方や家族のあり方についても、今後ますます多様化が進むと考えられます。「甲斐甲斐しい」という言葉も男女の枠にとらわれずに使われるような社会になった時、真の多様性社会といえるのでしょう。
(前田めぐる)
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