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「お話を伺う」は二重敬語? 意味や類語、使い方を解説

前田めぐる(ライティングコーチ・文章術講師)

「お話を伺う」と「お話をお伺いする」、どちらが正しい表現なのか迷ったことはありませんか? 今回は、ライティングコーチの前田めぐるさんに、「お話を伺う」の二重敬語にならない正しい使い方や意味、類語について解説してもらいます。

「お話を伺います」は、ビジネスでもプライベートでもよく聞かれる言い回しです。同じように「お話をお伺いします」もよく耳にします。どちらが、より正しい表現だと思いますか?

また「伺う」には「お聞きする」以外に「お尋ねする」「参上する」という意味もあり、使い方によっては意味が混乱することも。一見シンプルながらも、実は手強いフレーズなのです。

そこで今回は「お話を伺う」の使い方について解説します。

「お話を伺う」の意味

「お話を伺う」の意味について、まず「お話」と「伺う」を分けて考えましょう。

「お話」は、名詞である「話」に「お」をつけた尊敬語です。

「伺う」の意味は、辞書には次のように書かれています。

うかがう【伺う】
(1)(神仏または目上に対して)託宣または指図などをいただきたいと申し出る。
(2)「聞く」「尋ねる」「問う」の謙譲語。お尋ねする。
また、目上の人の話などを聞く。拝聴する。
(3)(自動詞として)「訪問する」の謙譲語。参上する。
(4)(自動詞として、「御機嫌を伺う」の意から)
大勢の人の相手をしてお話しする。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)

辞書によれば、「伺う」とは「聞く」「訪ねる」「尋ねる」をへりくだって言った謙譲語です。

以上のことから、今回のテーマである「お話を伺う」とは、目上の人や周囲の人の「お話をお聞きする」という意味です。

「お話を伺う」はどんな時に使えるのか?(例文つき)

「お話を伺う」は、目上の相手やお客さま、取引先などの話を聞く時に、よく使う表現です。

「お話を伺います」だけで、十分な敬意を示すことができるため、ビジネス、プライベートのさまざまな場面で使えます。

例文とともに、いくつかの場面を紹介します。

意見や感想などを聞きたい時

相手に対して意見や感想を求めるときは、以下のように表現できます。

例文

・この件について、部長のお話を伺えたらありがたいと思っております。

お客さまのご意見やクレームを聞く時

「伺う」を「相手の話を聞く」という意味で使う時は、以下のように表現します。

例文

・こちらの窓口で、お話を伺います

電話や窓口でお客さまを待たせている時

待たせている相手に対して、「もう他の誰かがあなたの要件を聞いているか」と確認するときにも「伺う」が使えます。

例文

・お待たせしております。誰かお客さまのお話を伺っておりますか

講演などを聴いた後で講師にあいさつする時

「相手の話を聞いた」という意味で「伺う」を使う時は、以下のように表現します。

例文

・貴重なお話を伺うことができて、大変ためになりました。

腑に落ちないことや疑問があり、詳しく話を聞きたい時

相手に対して質問をしたり、話を聞いたりしたい時は、以下のように表現します。

例文

・警察のものですが、少々お話を伺えますか

「お話を伺う」「お話をお伺いします」は二重敬語?

「お話を伺う」も「お話をお伺いします」もよく見る表現ですが、これらは二重敬語なのでしょうか?

「お話を伺う」は二重敬語ではない

時々、「『お話を伺う』は二重敬語ですか?」と聞かれます。

結論から言うと、二重敬語ではありません

そもそも、二重敬語の定義は、「1つの語に対して同じ種類の敬語を二重に使った言葉」です。

例えば、「お話をお聞きになられる」は二重敬語です。「聞く」という言葉に「お〜になる」と「〜られる」の2つの尊敬語を使っているからです。

一方、「お話を伺う」の「お話」は「話」に「お」をつけた尊敬語、「伺う」は「聞く」の謙譲語です。

これは「1つの語に対して同じ種類の敬語を二重に使った言葉」という二重敬語の定義には当てはまりません。

つまり、「お話を伺う」は二重敬語ではなく、適切な敬語表現です。

「お伺いします」は二重敬語

「伺う」はすでに謙譲の意味を含む謙譲語であり、本来「お○○する」という形を取る必要はありません。

また、「お○○する」という形を取る言葉も謙譲語であり、「お伺いします」は謙譲語を2つ使った二重敬語ということになります。

しかし、「伺う」は「頂く」「拝見する」など他の謙譲語と違って「お○○する」を加えても違和感が持たれにくいこともあるせいか、現在かなり頻繁に使われています。

さらに、文化庁が発表している『敬語の指針』にも「習慣として定着している二重敬語の例」として、「お伺いする」「お伺いいたす」「お伺い申し上げる」が例示されています。

このことから、「お伺いする」は、現在は慣用的な二重敬語として容認されている言い回しだと考えて良いでしょう。

もちろん、本来は二重敬語にあたるため、「お伺いします」ではなく「伺います」を正しい表現として覚えておくに越したことはありません。

「お話を伺う」を使う上での注意点

「お話を伺う」を使う際、「伺う」を重ねてしまいがちです。例えば「貴社に伺って、お話を伺います」というフレーズ。

「貴社に伺って、お話を伺います」の1つ目の「伺う」は「参上する」、2つ目の「伺う」は「お聞きする」という意味です。

このように、同じ言葉を別の意味で複数回使うことは、論旨を混乱させ、ミスリードにつながります

誤解を避けるためにも、どちらかの「伺う」を別の言葉に置き換える方が良いでしょう。例えば、次のような言い換えが考えられます。

・「貴社に伺って、お話をお聞きします

・「貴社に参上して、お話を伺います

「お話を伺う」の類語(例文つき)

「お話を伺う」と同じ意味を持つ表現を紹介します。

相手のいる場所に行って話を聞く時など、類語を使って言い換えることで、「伺って、お話を伺う」のような重複した言い回しを避けることができます。

「お話をお聞きする」

「お話を伺う」と全く同じ意味です。耳から入る響きも、柔らかい印象です。

例文

・何かご心配事でしょうか? 私が、お話をお聞きしましょうか

「お話を拝聴する」

「お話を伺う」と全く同じ意味です。漢語である「拝聴」は、耳で聞くより、目で読む方が伝わりやすい言葉です。

例文

・本日は、先生のお話を大変興味深く拝聴しました。ありがとうございました。

「お話を承る」

「お話を伺う」「拝聴する」と同じ意味ですが、「指示や命令を受けてその通りにする」という意味もあります。

命令や注文を受けるつもりがない時に使ってしまうと、誤解を与える場合があるので気をつけましょう。

例文

・お客さま係の○○です。あちらのお部屋でお話を承ります

容認されつつある二重敬語はどう使うべき?

「お伺いします」は非常によく聞く言い回しなので、二重敬語であることを意外に感じた人もいるかもしれません。

こうした「習慣的に容認されている二重敬語」については、どのように接するべきでしょうか?

「相手に失礼にならないように」という危惧から敬語が過剰になりすぎる昨今。

誤用表現の容認が広まりすぎると、文法が混乱して美しい日本語を短命にする恐れはないかと気掛かりです。

かといって、他人が使っている際に、誤用を追求して角を立てる必要もないでしょう。

「定着している誤用については、他人を責め立てず、しかし自身は積極的には使わず」というスタンスを取るようにしてはいかがでしょうか。

(前田めぐる)

※画像はイメージです

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