「ナラティブ」とは? 意味や活用例を分かりやすく解説
ナラティブとは、「物語、語り」などの意味。ビジネスや看護・医療現場などではナラティブを活用したアプローチ方法が実践されています。今回は、心理カウンセラーの高見綾さんが、ナラティブの意味と活用方法を分かりやすく解説します。
日本語では「物語」と訳されることの多い「ナラティブ」。あまり聞き慣れない人もいるかもしれませんが、人間関係において相手を理解していくために役立つ概念です。
今回は、ナラティブの意味について分かりやすく解説します。具体的にどのように活用するかも併せて紹介しますので、参考にしてみてください。
「ナラティブ」とはどういう意味?
ナラティブは、的確に当てはまる日本語がないため理解しにくい概念ですが、一般的には「物語、語り」と訳される言葉です。
さまざまな体験を通して形づくられる体験者自身の物語のことを指し、言葉だけではなく、語る際の身振り手振り、感情なども含まれるとされています。
1960年代にフランスを中心にナラティブという概念が生まれました。以降、多くの専門家により研究されていますが、その概念は幅広くさまざまな定義がなされています。
ナラティブは元々、医療や臨床心理の現場で活用されてきましたが、現代では教育現場やビジネスシーンなどでも注目されています。
ナラティブの具体例
例えば、モヤモヤした気持ちになった時、その体験を誰かに語ることによって気づきが生まれ、「そうか! こういったことが嫌で自分はモヤモヤしてたんだ」と腑に落ちることがありますよね。
自分が経験した事柄に何らかの意味や解釈をつけることができた時、この体験は物語、つまりナラティブとなります。
「ストーリー型」「ナラティブ型」とは
マーケティングなどのシーンでは、「ストーリー型」「ナラティブ型」という言葉が使われています。
従来のマーケティング手法はストーリー型が中心で、販売側が自社ブランドの理念や世界観(=ストーリー)を打ち出して、それをブランドの付加価値として商品を販売していました。
ですが、SNSなどの普及により顧客自身が情報を発信できる時代になり、ブランドが一方的に付加価値をつくりだすマーケティング手法を改善する動きが出てきました。
それによって注目されているのがナラティブ型。例えば、自動車メーカーが「あなたと車の物語」というような広告を展開することによって、顧客は「このメーカーの車を選べば自分の未来はこんな感じになるだろう」と想像を膨らませます。
このように、顧客側が主人公となるような物語を体験させていき、ブランドと顧客が一方通行ではないコミュニケーションを展開していく手法をナラティブ型と呼んでいます。
ナラティブアプローチとは何か
ナラティブアプローチとは、相談者自身が語る物語を出発点として問題を解決するきっかけを見出す手法です。
たとえ相談者の話に偏りがあったとしても、本人にとっての真実の物語として対話を重ねていき、新たなストーリーを再構築していくことがポイントです。
まだ研究途中のアプローチであり、確立した定義や方法論はない状況ですが、医療や臨床心理、キャリアコンサルティングなど、さまざまな人的支援の場で活用されつつあります。
ナラティブアプローチの活用例
ナラティブアプローチの活用例には以下のようなものがあります。
(1)医療・看護の現場
「ナラティブ・ベースド・メディシン(NBM)」といって、患者の病の経験や病状の捉え方を医療者が聞くことで、患者1人ひとりに合わせた治療を行う取り組みがあります。
(2)ビジネスシーン
職場で感じる「周りの人と分かり合えない」「息苦しい」「やりたいことができない」といった課題を解決するために、現場にナラティブアプローチを取り入れるのも有効です。
(3)臨床心理の現場
臨床心理の現場では、クライアント(相談者)が自分自身について語ることで過去に新しい意味をつけ、問題を乗り越える心理療法(ナラティブセラピー)が取り入れられています。
ナラティブアプローチのやり方
ナラティブアプローチを普段のコミュニケーションに取り入れることで、一方通行ではないやりとりができるようになります。
では、ナラティブアプローチは具体的にどのように行うのでしょうか。方法を解説していきます。
(1)語り手の物語を聞く
語り手自身の話を最後まで聞くことが最初のステップです。
思考の偏りやネガティブな思い込みが含まれていることもありますが、語り手が現状をどう解釈しているかが分かります。
理解できない箇所があっても否定しないで、「なぜこの人はこのように捉えるのだろう?」と理由に興味を持つことが非常に重要です。
(2)問題を外在化する
悩みを抱えている時は、「自分が悪い」というように、問題と自分をイコールだと捉えてしまうことが多いです。
すると自分を否定して悩みが深くなってしまうので、自分と問題を切り離して(=外在化)、問題を客観的に捉えられるようにします。
問題に名前をつけるなどして、自分と問題との間に距離をつくることができると、心に余裕が生まれ、別の見方ができるようになるのです。
(3)反省的な質問をする
問題が生まれている原因を、語り手自身の過去が関係していないか、考え方に偏りがないか、相手の立場に立ったら物事がどのように見えるのかなど、さまざまな角度から掘り下げていきます。
このような問い掛けをすることで、語り手は複数の視点を手に入れることができます。
(4)例外的な物語を見つける
問い掛けを続けていくと、当初の物語とは違って、ポジティブなストーリーが見つかることがあります。
例えば、迷惑を掛けたくないから人には頼れないと思い込んでいたのに、ある時親身になって助けてくれた人は全然迷惑そうではなかったなどのケースです。
例外的な話をさらに語ってもらうことで、物語を強化していきます。
(5)オルタナティブストーリーを構築する
例外的な物語を基に、建設的なストーリーを新しく構築していきます。当初語られた内容とは違う、新たな気づきが加わったストーリーになります。
語り手自身が言語化していくことで納得できる物語になるのです。
対等のコミュニケーションを
さまざまな体験を通して形づくられる体験者自身の物語をナラティブと言います。
ビジネスや恋愛がうまくいくためには、一方通行のコミュニケーションではなく、対等のコミュニケーションがポイントとなります。
相手が主体の物語を理解することで、関係性が円滑になるはずです。ナラティブの概念を上手に活用していきたいですね。
(高見綾)
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