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「あしからず」の意味と失礼にならない使い方

前田めぐる(ライティングコーチ・文章術講師)

「あしからず」という言葉を、一度は聞いたことがあると思います。言われた時、どんな印象を持ったでしょうか。丁寧? それとも上から目線? 組み合わせによって、受けるイメージが変わる言葉でもあります。そんな「あしからず」の意味や失礼にならない使い方について、ライティングコーチの前田めぐるさんに教えてもらいました。

「あしからず」は、使い方によっては不快な印象を与えかねない点で、難しい言葉の1つです。

丁寧な印象、素っ気ない印象など、他の言葉との組み合わせによってイメージが変わることもあります。

今回はそんな「あしからず」の意味や使い方、丁寧に伝える方法や言い換え表現を紹介します。

「あしからず」という言葉の意味

「あしからず」という言葉には、次のような意味があります。

あしからず【悪しからず】
相手の意向にそえないで申し訳ないという気持ちを表す語。悪く思わないでほしい。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)

このことから、「あしからず」には、「悪く思わないでほしい」という意味があることが分かります。

「あしからず」はどういう時に使うのか?(例文付き)

「あしからず」は、これから起きるかもしれないことやすでに起きたことに対して、「相手の意向に応えることができず申し訳ない、悪く思わないでほしい」という意味で使います。

ちなみに「意向」とは、「思惑、考え、志向」のことです。

では、「あしからず」はどういう時に使えるのか、例文と一緒に紹介します。

相手の要望を受け入れられない時

例文

・「当日のキャンセルによるご返金はいたしかねます。あしからず、ご了承ください」

相手の依頼に応えられない時

例文

・「お貸ししたいのはやまやまですが、あいにく貯金がありません。あしからず

相手の日程に合わせられない時

例文

「その日は、先約があり伺えません。どうか、あしからず

相手の予定変更(日程・内容・量・予算など)の依頼に合わせられない時

例文

「そちらの内容に変更となった場合、恐れ入りますが今回は見送らせていただければと思います。どうぞあしからずご了承ください」

「あしからず」を使う際の注意点

前段で紹介した内容からも分かる通り、「あしからず」は、自分から失礼なことや悪いことをしたわけではなく、あくまで相手の意向に添えず申し訳ないという気持ちで使います。

「あしからず」が使えない場面

例えば、次のような場面では使えません。

・約束していた日時の変更を自分から願い出る時
・待ち合わせの時間に遅れそうな時
・得意先への納品が間に合わない時
・納品する製品の品質に問題がある時

いずれも、自分側に問題がある場合なので、「悪く思わないでください」という意味の「あしからず」を使うには身勝手過ぎます。

失礼なことや悪いことをしてしまった場合には、相手が誰であっても「あしからず」は使わない方がいいでしょう。

目上の人に対しては使わない方が無難

国語的に、目上の人に全く使えないわけではありませんが、実はこの点が微妙で、簡単に線引きできないところです。

「悪く思わないでください」と一言で伝えられる言葉は珍しいので、使えるなら使いたいところです。

しかし、うがった見方をすれば、「悪く思わないでください」とあらかじめけん制しているのですから、「それを言うことで相手ががっかりしたり、感じが悪いと思ったりするかもしれない」と予測しているわけです。

「あしからず」という言葉をなんとなく失礼なニュアンスに感じる人がいるのも、この辺りに原因があります。

線引きが難しい場合は、お誘いや申し出を受けて、「悪く思わないでください」と言える相手はどんな人かを考えてみましょう。

人によって多少違いがあるでしょうが、後輩、部下、同僚、気心の知れた友人、といったところでしょう。目上の人でいえば、かなりフランクに話せる相手に限られるはずです。

また、ビジネスの基本は相手の意向に添うことだと考えれば、社内でのやりとりならともかく、社外の相手に対して返事をする場面では、慎重であるに越したことはありません。

少なくとも、普段から配慮を要する相手や、付き合いが浅くて気心の知れない目上の人などに対しては、「あしからず」以外の言葉を選ぶ方が無難だといえます。

「あしからず」を丁寧に伝える言い回し

そもそも「あしからず」という言葉自体が、「悪く思わないで」という素っ気ない意味なので、丁寧に接したい相手に対して無理に使う必要はありません。

それでもどうしても使いたい場合には、他の言葉と組み合わせて、丁寧な印象を与えることはできます。

下の4つの文章を、まずは(最初の文節)と《後の文節》の言葉を省いて、読んでみてください。

・「あいにく私の手には負えません。(どうぞ、)あしからず《ご了承ください》」
・「今回は、ご一緒できませんが、(どうか、)あしからず《ご了承ください》」
・「サイトに掲載のお品は完売いたしました。(何卒、)あしからず《ご容赦ください》」
・「その日はあいにく先約があります。(どうぞ、)あしからず《ご了承ください》」

口に出して読んでみて、ちょっとつっけんどんな印象があると感じたら、次に(最初の文節)の言葉を加えて読んでみてください。

それでも、「素っ気ないのでさらに丁寧にしたい」と考える場合には、《後の文節》を加えてみてください。

1つ目の文章でいうと、次のような流れです。

・「あいにく私の手には負えません。あしからず
⇒少し丁寧に:「あいにく私の手には負えません。どうぞ、あしからず
⇒さらに丁寧に:「あいにく私の手には負えません。どうぞ、あしからずご了承ください

相手の顔を思い浮かべながら、口に出してみて、しっくりくる表現を使うといいでしょう。

「あしからず」の言い換え表現

「悪く思わないでくださいね」という意味の「あしからず」は、反応を予測して相手にかける言葉。つまりは、クッション言葉と同じような役割もあるといえます。

そこで、「あしからず」では失礼かもしれないと感じたら、次のような言い換えを検討しましょう。

「せっかくですが」

せっかく相手が案を出してくれたのに、というような場合の表現です。

例文

・「せっかくですが、今回はあきらめます」

「恐縮ですが」

希望に添えず恐縮している場合の表現です。

例文

・「ご希望に添えず恐縮ですが、また懲りずにお声掛けいただければ幸いです」

「申し訳ありませんが」

相手の要望に応じられず、申し訳ない気持ちを表した表現です。

例文

・「申し訳ありませんが、その日も予定が詰まっています」

「お含みおきください」

「心に留めておいてください」という意味です。

・「ご入金確認後のご手配では、限定品の在庫が尽きる場合もありますことをお含みおきください

「あしからず」は軽やかに使ってこそ生きる言葉

今回、「あしからず」の前後に他の言葉を付け加える表現も紹介しました。

ただし、本来は「あしからず」のみで使えるような間柄において軽やかに使われる方が最も生き生きとして、粋な表現になると考えられます。

相手に対する印象はもちろんですが、「言葉が喜ぶ本来の使い方」も合わせて、その場にふさわしい表現を選ぶのが良いでしょう。

(前田めぐる)

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