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婿入り婚ってアリ!? 当事者の本音と実情

岡村奈奈(フリーランス・ウェディングプランナー)

藤野晶/dcp

現在、ほとんどの夫婦は女性が苗字を変えて夫の家に入る「嫁入り婚」を選択しています。しかし、男性が妻の苗字に変更する「婿入り婚」というスタイルもありますね。では、婿入り婚にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか? そこで「婿入り婚」を経験した人にアンケートを行い、婿入り結婚の実態について調べてみました。さらに、ウェディングプランナーの岡村奈奈さんに、婿入り婚の結婚式について聞いてみました。

婿入り婚とは

「婿入り婚」と聞くと、夫が妻の家に入り、妻の家族と同居するイメージですよね。そのようなスタイルもありますが、実際には、それを選んだ理由や生活のスタイルはさまざま。まずは「婿入り婚」「婿養子」について、ご紹介します。

婿入り婚とは

「婿入り婚」とは『広辞苑 第六版』によると「結婚生活が妻方で行われる形態。日本では古くは村内婚であったから、日常生活は別々で婚舎だけが妻方である通い婚が普通であった。招婿(しょうせい)婚。」(『広辞苑 第六版』P.2733より引用)とあります。通い婚には期限がある場合が多く、一般的には一定期間をすぎれば一家で夫の家に入ったようです。ただ、現在は村内婚や通い婚という概念はなくなり、一般的には妻の実家で妻の家族と同居、あるいはそれに近いスタイルの結婚生活のことを指すと考えるのが一般的です。

戸籍上の「婿入り婚」は、「夫婦で戸籍を新設し、妻が筆頭者となり、妻の姓を名乗る」ことです。夫婦がそれぞれの両親の戸籍から抜けて新しい戸籍をつくり、妻の姓を名乗ることを指し、親との同居などの条件は関係ありません。(※)

婿養子とのちがい

「婿入り婚」した夫は妻の家に入って「婿養子」になる、というイメージを持つ人もいます。しかし、婿養子になるには、夫が「妻の親の養子になる」ための手続きを踏まなければなりません。つまり、妻の両親の養子となり、戸籍筆頭者となって妻と婚姻関係を結ぶと、婿養子になるのです。婿養子になると、妻の実家の遺産を相続する権利も発生します。親との同居は条件に関係しませんが、「婿入り」よりも「(妻側の)家を継ぐ」というニュアンスが強くなります。(※)

婿入り婚について男性の本音は……

日本では女性が男性の家に嫁ぐ「嫁入り婚」の結婚スタイルが一般的ですが、女性側がひとりっ子の場合や姉妹だけの場合、「婿入り婚」や「婿養子」を選択することもあります。社会人男性に、もし彼女から「婿入り」してほしいと言われたらどうするか、アンケートを実施してみました。

彼女から「婿入りしてほしい」と言われたらどうする?

社会人男性100人に、「彼女や彼女の両親から、婿入りしてほしいと言われたらどうするか」を聞きました。

Q.彼女や彼女の両親から、婿入りしてほしいと言われたら、あなたならどうしますか?

・彼女のためなら、婿入りする(47.0%)
・婿入りはしたくない(53.0%)
(※1)有効回答数100件

 

ほぼ半分に意見がわかれました。そう思う理由はそれぞれ何でしょうか?

婿入りする派の意見

上の質問に「婿入りする」と答えた人に、その理由について聞いてみました。(※1)

別に問題ない

・「そこまで入れ込める彼女なら別に婿入りでも構わない」(男性/27歳/建設・土木/技術職)

・「婿入りに抵抗はないので」(男性/32歳/小売店/販売職・サービス系)

・「好きな彼女のためなら婿入りしてもいいと思う」(男性/30歳/情報・IT/技術職)

問題があるかもしれないけど受け入れる

・「長男なので本当は苦渋の決断です」(男性/32歳/自動車関連/事務系専門職)

・「相手の気持ちに応えられなければ男じゃないと思うので」(男性/27歳/情報・IT/技術職)

・「そういう選択肢があってもいいとは思うものの、私自身も兄弟がいないなどの事情があって実際は困難に直面するかも」(男性/34歳/金属・鉄鋼・化学/その他)

あまり婿入り自体に抵抗を感じていないといった声が多いようです。慣例や家という概念にとらわれず、好きな彼女のためならなんとかしたいといった、頼もしい意見も目立ちました。

婿入りしたくない派の意見

「婿入りはしたくない」と答えた人に、その理由を聞きました。(※1)

長男やひとりっ子だから

・「ひとり息子なので家系を途絶えさせるわけにはいかない」(男性/32歳/機械・精密機器/技術職)

・「長男なので苗字を残したい」(男性/37歳/情報・IT/事務系専門職)

・「自分が長男だから。長男でなければOK」(男性/38歳/不動産/営業職)

気をつかいそうだから

・「彼女の両親に気をつかってまで生活したくないなと思う」(男性/28歳/医療・福祉/専門職)

・「苗字が変わるのは構いませんが、そういうことを言う親って、いちいちしきたりにうるさそうなので、かかわりたくない」(男性/35歳/機械・精密機器/営業職)

・「相手の両親に気をつかわないといけなくなりそうだから」(男性/27歳/その他/その他)

長男やひとり息子の場合、婿入りが難しかったり、相手の家や親に気をつかって暮らしていくことを懸念したりする声が目立ちます。また、普段はあまり意識していなくても、自分が家を継いでいくものだと考えている人は多いようです。

男性の本音としては、婿入りには抵抗があるもの

アンケートによると、婿入りに抵抗があるという意見が半数近くありました。昔と現代とで結婚観が変わったといっても、婿入りや婿養子には躊躇する男性が多いのではないでしょうか。

婿入り結婚の実態

あまり多くないとはいえ、現実に婿入り結婚をしている夫婦もいます。既婚者にアンケートを行い、「婿入り結婚をした人の割合」とその理由を調べてみました。

婿入り結婚した人の割合

既婚者780人に「あなたの結婚は婿入り婚(婿取り婚)か」を聞きました。

Q.あなたの結婚は婿入り婚(婿取り婚)ですか?

婿入り婚(5.5%)
婿入り婚じゃない(94.5%)
(※2)有効回答数780件

 

「婿入り婚」と答えた人は5.5%でした。1割未満ですので、かなり数は少ないですね。その人たちは、なぜ婿入り婚を選んだのでしょうか?

婿入り婚を選んだ理由

上の質問に「婿入り婚」と答えた人に「どうして婿入り婚を選んだのか」を聞いてみました。(※2)

妻の家の都合

・「私と妹のどちらも結婚して苗字が変わると、今の自分の苗字が終わってしまうから。婿養子ではなく、夫の苗字を私の苗字にした」(女性/26歳/その他/その他)

・「妻が姉妹のみだったため婿入りになりました」(男性/27歳/情報・IT/技術職)

夫の家の都合

・「実の親と仲が悪く、継ぎたいと思わなかったため」(男性/34歳/医療・福祉/専門職)

・「夫の家族が崩壊しているから。お父さん・お母さん・兄弟とも連絡を取らない」(女性/31歳/小売店/秘書・アシスタント職)

配偶者が外国人だった

・「夫が外国人で両親等が日本に不在のため」(女性/27歳/自動車関連/営業職)

・「アメリカに住むので日本の名前は発音がしにくいので」(男性/35歳/その他/その他)

「妻の家の都合」「夫の家の都合」「配偶者が外国人だった」という回答が多くありました。もっとも多かったのは「妻の家の都合」。妻がひとりっ子だったり、男兄弟がいなかったりする場合、女性側の実家の家名を守るために婿入り婚となるケースが多いようですね。「夫の家の都合」はあまり多いケースではありませんが、事情があって男性側が自分の家名を継ぐことに積極的でない場合、婿入り婚を選択することがあるようです。そのほか「配偶者が外国人だった」というケースも。国際結婚やその後海外に移住するような場合、婿入り婚を選択したほうが、都合がいいこともあるのかもしれません。

婿入り結婚のメリット・デメリット

一般的にも少数派の「婿入り結婚」ですが、メリット・デメリットにはどのようなものがあるのでしょうか? 婿入り結婚をしている人に聞いてみました。

婿入り婚のメリット

「婿入り婚」を選択した既婚者に「婿入り婚のメリット」について聞きました。(※2)

妻が苗字を変更しないで済む

・「親が安心するのと、自分自身苗字が変わらないので仕事などで便利」(女性/33歳/ホテル・旅行・アミューズメント/クリエイティブ職)

・「自分が名前を変えなくていいから」(女性/27歳/その他/その他)

妻が義実家との付き合いで苦労しないで済む

・「義実家への集まりなど(正月や親戚などで集まる大きなイベント)の責任感や『行かなくては!』というプレッシャーは少なくなると思う」(女性/22歳/その他/その他)

・「おそらく家庭がうまくいくと思います。嫁姑問題とか」(男性/34歳/自動車関連/技術職)

妻や妻の実家に資産があることも?

・「相手は土地持ちなので将来家を購入する必要性がない」(男性/35歳/電機/技術職)

・「家がもらえる。立地がよく大変住みやすい」(男性/23歳/その他/販売職・サービス系)

「妻の苗字が変わらないで済む」「妻が義理実家との付き合いで苦労しないで済む」といった、妻にとってのメリットを挙げる人が目立ちました。一般的な「嫁入り婚」では「嫁姑問題」に悩む「お嫁さん」が多いといわれていますが、「婿入り婚」ではこの心配があまりありません。家族内がトラブルなく過ごせるのは大きなメリットですね。そのほか、少数意見でしたが「相手が土地持ち」「家がもらえる」といった男性もいました。将来のマイホームについて心配がいらないというのは男性にとっても大きなメリットだといえそうです。

婿入り婚のデメリット

「婿入り婚」を選択した既婚者に「婿入り婚のデメリット」を聞きました。(※2)

夫が肩身の狭い思いをする

・「婿入り婚だと妻側の家に入るので、気をつかうことがある」(男性/32歳/運輸・倉庫/その他)

・「自分の両親に気をつかってしまい、本音を言い出しにくいことがあるかと思う。ストレスがたまらないように、精神面のケアを兼ねた夫婦間のコミュニケーションが大切になります」(女性/34歳/その他/その他)

夫の苗字変更に伴う手続きが大変

・「夫は苗字の変更手続きがめちゃくちゃ大変そうだった!」(女性/31歳/学校・教育関連/その他)

・「手続きがいろいろと面倒くさいこと」(女性/29歳/その他/その他)

夫の両親の将来をどうするかが心配

・「お義父さん、お義母さんのことを将来どうするか考えないといけないこと」(女性/29歳/印刷・紙パルプ/営業職)

・「長男だから、義理の両親が亡くなったとき、ややこしくなりそうで今から怖い」(女性/31歳/小売店/秘書・アシスタント職)

「夫が肩身の狭い思いをする」「夫の苗字変更に伴う手続きが大変」「夫の両親の将来をどうするかが心配」などの回答がありました。多かったのは「夫が肩身の狭い思いをする」ということ。同居の場合には、夫は住み慣れた環境から離れたり、異なる習慣や人間関係の中で暮らすことになったりするため、悩むこともあるようです。また、夫の実家の近くに頼れる兄弟や親戚がいない場合には、両親の心配というのもあります。また「夫の苗字変更に伴う手続きが大変」という問題もあります。一般的に経験している男性が少ない手続きなので、余計に面倒に感じるかもしれませんね。

ちょっとちがう? 「婿入り婚」の結納や結婚式とは

「嫁入り婚」と「婿入り婚」では、結納や結婚式を行う際にちがいがあるのかも気になるところだと思います。それぞれのちがいについて、岡村さんに聞きました。

婿入り婚の結納について

一般なマニュアルは「嫁入り」でできているので、男性と女性が逆と考えるとわかりやすいでしょう。内容や手順は変わりませんが、座る位置や手順がすべて男女逆になり、結納品や結納金は女性側の家から男性側の家に贈ります。

嫁入り、婿入りに限らず、結納には地域性や経済的な背景に関係することが多いので、両家で話し合って決めます。特に、男性から女性に贈られる「婚約指輪」には憧れがあるカップルが多いので、婿入り婚であっても形式にとらわれず、男性から女性へ記念に贈られる場合も多いようです。

婿入り婚の結婚式について

結納と同様に、一般なマニュアルは「嫁入り」でできているので、男性と女性が逆と考えるとわかりやすいでしょう。内容や手順は変わりませんが、座る位置や手順がすべて男女逆になります。しかし、実際には、見慣れた嫁入りのようなスタイルで行われることが多く、謝辞など披露宴の一部で「婿入り」が表明されることが多いと思います。女性側の家業を継ぐ場合などは、一般的な結婚式よりも盛大にお披露目されることも目立ちます。

「婿入り婚」だけなら、それほど深刻に考えなくてもいいかも

現在の「婿入り婚」は、「夫婦で新設する戸籍の筆頭者を妻にして、夫婦で妻の姓を名乗る」というものです。女性側の家の苗字を繋ぐというようなことであれば、結婚生活の実態は、嫁入りとほとんど変わらないといってもいいのではないでしょうか。いわゆる「婿養子」は、妻の両親と養子縁組を結んでの結婚ですから、まったく異なるものです。しかしどちらにしても、夫が自分の親と会えなくなったり、それまでの家を捨てなければいけなかったりするわけではないので、悲しいことではありません。結婚を機に、自分が生まれ育った家系や親とのこと、将来のことをよく考えたり、話し合ったりすることは、円満で安定した家族関係を築くために大切なことなのではないでしょうか。

(岡村奈奈、藤野晶/dcp)

※画像はイメージです

※監修:グラディアトル法律事務所 刈谷龍太弁護士

(※1)マイナビウーマン調べ
(2014年10月にWebアンケート。有効回答数100件。22歳~39歳の社会人男性)

(※2)マイナビウーマン調べ
調査日時:2018年8月22日~8月23日
調査人数:780人(22~34歳の既婚女性390人、22~39歳の既婚男性390人)

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