※本コラムは『人事の人見』第10話までのネタバレを含みます。
■人見くんの処世術、指原莉乃さんと完全一致?
なんだか、日曜劇場っぽくなってきた『人事の人見』。里井常務(小日向文世)が、「あの方に退場してもらいます」と宣言した途端に、“あの方”こと小笠原社長(小野武彦)が大炎上! 地元商工会の講演で、「我々の時代はね、サービス残業も休日返上も当たり前だった! 今の社員たちは自己犠牲の精神がまるで分かってない!」と時代錯誤な発言をしてしまったのです。この時の動画がSNSで拡散されると、社外からは叩かれ、社内では退職希望者が続出。もう、逃げ場がない感じになってしまいました。
30年間もワンマン経営を続けてきた小笠原社長は、ほかの人の意見に耳を貸すことをしません。例えば、里井常務が「考えを改めてください。そうでなければ、社長を退くべきです」と抗議したら、「俺の方針についてこられないのなら、辞めればいい!」と言い出したり……。
たしかに、小笠原社長の気持ちも分からなくはないですよ。わたしも、学生時代は部活の後輩たちに対して「甘いなぁ」「わたしたちの頃は、もっと厳しかったのに」とか思ったことあったし。でも、会社経営となると話が違いますよね。ちゃんと新しい意見を取り入れて、みんなが働きやすい環境を作るのも、仕事の一環だと思うんです。
ただ、こんなに物分かりが悪い(?)小笠原社長にも気に入られてしまうのが、人見くん(松田元太)のすごさ。人たらしもここまでくると、もはや恐ろしいです。小笠原社長のことを「おがっさん」と呼び、フランクに意見していく。
そういえば、指原莉乃さんがテレビで処世術について話していたことがあったんですけど、その時に「偉い方とはフランクに、ちょっと偉い方には丁寧に話した方がいい」とおっしゃっていて。人見くん、まさしくこの処世術を実行してる! トップの立場にいる人は、普段から気を遣われることが多いから、ズバズバ来てくれる若者を「面白い」と感じることが多いらしいんです。
あと、人見くんはあくまで“僕はあなたの味方ですよ”というスタンスを見せつけるのがうまい! 例えば、小笠原社長が「社員が何を考えているのか分からない」と愚痴をこぼした時に、人見くんは「社員は社長の前では本音を言わないかもしれないから、正体を隠してこっそりみんなの話を聞いてみればいいんじゃないですか?」とアドバイスをしていました。「そしたら、みんなの気持ちが分かって、よりよい経営ができるかもしれませんよ!」とあくまで“小笠原社長側”に立って話していたからこそ、小笠原社長も反発せずにスッと受け入れることができたと思うんです。
それにしても、小笠原社長が自分の後継者に人見くんを指名したのは、まったくの想定外でした。「社長を退任することになるんだろうな〜」とは思っていましたが、てっきり里井常務が受け継ぐものだと! でも、小笠原社長が、今の時代、今の価値観に対応しきれていない自分を認めた上で、「わたしは身を引くことにします」と宣言した時、ちょっぴりウルッときちゃいました。
あそこで、小笠原社長の後ろ姿を映すのはズル演出すぎるって! 泣くしかないって! 『人事の人見』は来週が最終回。あと1話しか残されていないなかで、人見社長編がスタートということは……! シーズン2も期待しちゃっていいやつですか!?
■時代遅れおじさんにも“時代を変える側”だった過去がある
第10話は、小笠原社長のいい意味での裏の顔が明らかになった回でもありました。おそらく小笠原社長は、かつての『日の出鉛筆』が大好きだったんですよね。「遅くまで悪いね」と言ったら、「小笠原部長のためならどうってことないですよ!」「その代わり、終わったら飲みに連れて行ってくださいね?」と返してくれる部下たちがいる。今は、積極的に残業をしたがる社員もいなければ、上司との飲みニケーションを息抜きにする部下もいなくなってしまった。だからこそ、“家族感”が薄まってしまったなと寂しくなっちゃったのかも。
また、小笠原社長にはシングルファーザーとして娘を育てながら、働いていた部下がいたそうです。しかし、その部下が亡くなってしまった。その時、まだ中学3年生だった娘さんは路頭に迷いかけたのですが、小笠原社長が「生活のことも進路のことも気にしなくていい」と声をかけ、冠婚葬祭の面倒もすべて見てくれたらしいんです。今まで、時代遅れおじさんとしか思っていなかったけれど、そんないい人な一面があったとは。やっぱり、人は一面だけで判断しちゃダメだなと改めて思いました。
さらに、小笠原社長も“時代を変える側”だった過去があったんですよね。『日の出鉛筆』は、もともと鉛筆専業メーカーだったらしいんです。でも、シャーペンが普及してから、「時代に追いついていかなければならない」と考えた小笠原社長は、先代の社長に「文房具全体を売った方がいい」と直訴。大喧嘩になったようですが、必死に説得したと話していました。その結果、『日の出鉛筆』は鉛筆専業メーカーから、総合文具メーカーに。時代の変化にちゃんと対応したからこそ、『日の出鉛筆』は今もなお愛されているんですよね。
それにしても、人見くんが「おがっさんも、困っている社員のひとり」という捉え方をしていたのには、感動しちゃいました。そういう視点、なかったなぁって。本当に人見くんは、よく人を見ている!
ただ、ビジネスマナーも事務能力もなく、社会常識に欠ける部分がある人見くん。今までは、平社員だから自由にすることができたけれど、責任あるポジションに立ってしまったら、生きづらくなってしまうのでは? とちょっと心配になります。一体、どうなるのでしょうか。最終回の展開、まったく予想がつかないので楽しみです!
(菜本かな)