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2021年06月11日 15:01 更新

産後に親指付け根側の手首に激痛! 腱鞘炎の治し方と予防法【理学療法士監修】

授乳中、手首に走る激痛、それは「腱鞘炎」かもしれません。妊娠中や産後は、実は腱鞘炎になりやすい時期。痛みを治すには安静が必要ですが、産後は授乳や抱っこなどで安静にすることは難しいもの。産後の腱鞘炎の治療や予防法などを紹介します。

産後に発症する腱鞘炎の特徴

赤ちゃんにミルクを与える女性

実は、産後に「腱鞘炎」を発症する人は少なくありません。産後に発症する腱鞘炎の主な原因や特徴をまとめました。

抱っこで手首を痛めやすい

腱鞘炎は、その名の通り、「腱鞘(けんしょう)」という組織に炎症が起こることをいいます。腱鞘とは、骨と筋肉を結び付ける「腱」が骨から離れないように留めている、筒状をした組織のことです。

この腱鞘が、何らかの原因で厚くなったり硬くなったりすることで腱とこすれるようになって炎症が起こり、痛みや腫れを生じるのが「腱鞘炎」です。

腱鞘炎は妊娠・出産期や更年期の女性に起こりやすい傾向があり、ある調査では35.2%の女性が産後、手や手首に痛みを感じた経験があると答えています[*1]。産後まもない時期は赤ちゃんの抱っこや授乳など、腱鞘炎のリスクになる動きが多いもの。

赤ちゃんの抱き方に慣れない中、首が据わらない新生児の頭をしっかり支えて抱き上げたり、下ろしたりする動作が、授乳、沐浴、おむつ交換などで頻回に生じます。そうした際、抱き方に慣れていないと、「手首が手のひら側や親指側に過度に曲がった状態」で赤ちゃんを手で掴むように抱っこしてしまうことも多いため、結果的に親指の外側の筋の使いすぎとなって、腱鞘炎になると考えられます。

なお、腱鞘炎にはいくつか種類がありますが、産後の女性に起こりやすいのは手首の親指側付近が痛んだり腫れたりする「ドケルバン病」という種類の腱鞘炎です。以後、この記事ではドケルバン病=腱鞘炎として説明していきます。

産後はホルモンの急激な変化による影響も

産後の腱鞘炎は、慣れない抱っこの繰り返し以外に、「産後のホルモンバランスの変化」も原因のひとつといわれています。

産後の女性の体では、妊娠中に増加した「エストロゲン」と「プロゲステロン」という2つの女性ホルモンが、出産を境に一気に減少に転じます。ここで急に減少した女性ホルモンの分泌は産後、体の回復とともに徐々に回復していきます。しかし、出産~産後のホルモン分泌の変化はあまりに急激なため、筋肉や周辺の組織に影響を与えます。

通常であれば「エストロゲン」に含まれる、炎症を修復する働きにより、仮に腱鞘に炎症が生じても、ひどくなる前にそれを修復することが可能です。ですが産後のように、一気にエストロゲンが低下している状態ではこの働きが弱くなっており、炎症が悪化して腱鞘炎になりやすい傾向が高まると考えられています。

産後に発症した腱鞘炎はいつ治る?

さきほども紹介した調査によると、手や手首に痛みを感じている人の割合は、産後1ヶ月で14.3%、2ヶ月で28.6%、その後、産後3~8ヶ月までは30~40%台でした。この調査ではそれ以降について調査していませんが、産後、腱鞘炎を発症する時期は「育児開始から10ヶ月ごろまでの長期間」にわたることもあるとしています。

なお、この調査では、腱鞘炎になったあと数ヶ月で痛みがなくなった人が多かったそうですが、なかには「半年以上、痛みが持続し慢性化した」人もいました。ちなみに、これらの人には「受診しての治療を受けていない」「複数の子供がいる」という傾向がみられたそうです[*1]。

産後に発症した腱鞘炎の治し方

医療機関を受診する女性
Lazy dummy

産後、腱鞘炎になったら、まずしてほしいことから紹介します。

まずは整形外科でよく調べてもらおう

腱鞘炎を放っておいたり、正しい対処をしなかったりすると、症状が悪化して動きがスムーズでなくなったり、一層症状が強くなったりといった悪循環が生じる可能性があります。

とくに、「痛みが2週間以上続いている」「ひどい痛みや腫れがある」「患部を動かさなくても強い痛みがある」「市販薬を1週間ほど使用してもよくならない」といった場合は、整形外科を受診してくわしく調べてもらいましょう。

産後の関節の痛みは「関節リウマチ」によることも

産後、手に痛みが出るのは珍しいことではありませんが、実は痛みの原因は腱鞘炎に限りません。産後の女性のなかには「関節リウマチ」を発症する人もいます。

関節リウマチは、関節にある「滑膜」という組織が異常増殖することによって起こるもので、30代以上の約1%がこの病気になると言われています。女性は男性に比べて関節リウマチにかかる人が「約3倍」多いのも特徴です[*2]。

産後の手の痛みの多くは、腱鞘炎など、あまり心配のいらない原因によるものですが、ときに別の病気により起こることもあるので、手首の痛みで困っていたら、一度整形外科でくわしく検査してもらったほうが安心です。

炎症を抑えるステロイド薬の注射などで治療する

整形外科を受診して腱鞘炎であることがわかったら、なるべく患部を動かさないで済むよう手首用のサポーターや湿布、痛み止めなどが処方されるでしょう。

また、患部にステロイド剤を注射し、炎症や痛み、腫れを抑えることもあります。

なお、こうした注射に使用する薬や飲み薬の中には、母乳を介した赤ちゃんへの移行をよく考えて使用すべき種類もあるので、医療機関を受診する際は、母乳育児中の人は「授乳中」であることをしっかりと伝えたうえで、治療してもらいましょう。

腱鞘炎のホームケア

手首に痛みがある女性

腱鞘炎かも、と思ったら悪化しないうちにまずは受診することをお勧めしますが、痛みや腫れがそれほど強くない場合は、短期間であればセルフケアで様子をみることもできます。

痛む部分を湿布で冷やす

炎症を起こし、痛みがある部分を冷湿布で冷やすことで、痛みの改善につながることがあります。

湿布には鎮痛薬が含まれているので、これを使うことで授乳中の赤ちゃんに何か影響しないか心配になるかもしれませんが、湿布薬による赤ちゃんへの影響は低いと考えられます。

同じ薬でも湿布薬や軟膏といった外用薬の場合、ママの血中に吸収される薬効成分の量は、飲み薬と比べて、とても少ないことがわかっています。また、血液から母乳に移行する量はさらに少なくなることから、腱鞘炎の痛みをやわらげるための湿布薬は、授乳中でも使用可能なことが多いでしょう。

ただし、薬局で市販の冷湿布を購入する場合は薬剤師さんに相談し、授乳中にも使える製品かどうかを確認してから購入するようにしてください。

できるだけ安静にする

多くの腱鞘炎は、炎症の起きている部分をなるべく使わず、安静にすることができればよくなるはずのものです。産後の子育て中に手首や親指を使わずにいるのは難しいことですが、家族やサポートしてくれる人がいる時はできるだけ頼るようにして、患部になるべく負担をかけないようにしましょう。

授乳終了により良くなることも

なお、産後に発症した腱鞘炎は、母乳育児が終わるとよくなると考えられることが多いようです。実際、授乳中止後2~6週で改善したという報告もあります。ただし、授乳の仕方と腱鞘炎が治る時期に関連はなかったとする報告もあります[*1]。

母乳は赤ちゃんの成長にとってとても重要なもので、腱鞘炎のために母乳育児を中止したほうが良いかどうかは、ママの手の状態や赤ちゃんの月齢・健康状態をみて総合的に判断する必要があります。また、授乳姿勢の工夫で手首への負担が少し軽くなる場合もあります。

授乳方法については、母乳外来などで専門の助産師に実際に状況をみてもらいアドバイスをもらったり、手首にあまり負担をかけない方法を教えてもらうこともできます。くわしくは下記の記事を参照してください。

サポーターやテーピングで痛みを軽減する

サポーターやテーピングなどで患部を固定したり支えたりすることも、痛みの軽減に役立つことがあります。テーピング用のテープや腱鞘炎用のサポーターは、ドラッグストアや通販サイトなどで購入が可能です。

テーピングよりも、装着するだけである程度の固定が可能となるサポーターのほうが、子育て中のママには使い勝手がよいかもしれません。親指をしっかりと固定できる、サポート力のあるものを選ぶとよいでしょう。

腱鞘炎を予防するポイント

赤ちゃんにミルクを与えるパパ

最後に、腱鞘炎を予防するポイントを紹介します。

手首になるべく負担をかけない抱っこの仕方をする

まだ首の据わらない赤ちゃんを抱っこする際、慣れないと手首で赤ちゃんの頭を支えてしまうことがあります。この抱き方は手首に余計な力が入り、腱鞘炎を発症させたり、悪化させたりすることにつながりかねません。以下の点に気を付けて抱っこするのがおすすめです。

手首に負担をかけない抱っこのポイント

・肘は90°にして手のひらを上向きにする

・頭ちゃんの頭は手首ではなく、前腕(手首~肘まで)の「肘に近い部分」で支える

・手首の力はできるだけ抜くように意識する

楽に授乳できる添い乳

添い乳とは、「ママと赤ちゃんが体を横たえたまま授乳を行う」姿勢のこと。横になった状態で授乳をするので、長時間の抱っこによる腰痛や腱鞘炎の予防・緩和に役立ちます。

ただし、添い乳は正しい姿勢で行わないと、赤ちゃんが窒息するリスクが高まることがあり、注意が必要です。

添い乳の正しい姿勢

(1)ママと赤ちゃんが向かい合うように横向きになり、下側のおっぱいの乳首と赤ちゃんの口の位置を合わせます。

(2)おっぱいの付け根のほうをつかみ、赤ちゃんの口に乳首が入るよう誘導し、乳首をくわえさせてあげましょう。赤ちゃんが少し上を向くような角度になるのがベストです。


赤ちゃんの首がまだ据わっていない場合は、赤ちゃん自らが乳首を捕らえるのは困難です。ママの下側の腕を赤ちゃんの頭の下に入れて腕枕をし、赤ちゃんの背中を引き寄せてあげると乳頭をくわえやすくなるはずです。また、ママの頭の位置が高いほうが、添い乳しやすくなります。頭の下には枕やバスタオルを入れて、高さを調整するとよいでしょう。

添い乳についてくわしくは下記の記事を参照してください。

赤ちゃんのお世話は皆で分担

そのほか、日々の赤ちゃんのお世話はママ以外の家族とできるだけ分担し、負担が集中しないようにすることも腱鞘炎予防のポイントといえます。ママにかかる負担が軽減され、結果として腱鞘炎の予防につながることがあるからです。赤ちゃんのお世話は待ったなしとはいえ、産後はまだまだママの体調が不安定な時期。ママも時には意識して体を休めるようにしてくださいね。

まとめ

手首が気になる女性

産後は、赤ちゃんの抱っこやお世話で手首や親指にかかる負担が大きくなることや、ホルモン分泌の急激な変化などの影響で、腱鞘炎になりやすい時期。ちょっと痛みを感じたり、違和感があったりする場合はなるべく無理をせず、患部を冷やしたり、安静にしたりして、症状を悪化させないようにしましょう。痛みや腫れがひどかったり続く場合は、すみやかに最寄りの整形外科に相談を。
産後すぐはどうしても無理しがちな時期ですが、ママひとりで大変さを抱え込むのは禁物です。分担できるところは家族などに頼りながら、くれぐれも無理をしすぎないでくださいね。

(文:山本尚恵/監修:近藤可那 先生)

※画像はイメージです

※この記事は、マイナビウーマン子育て編集部の企画編集により制作し、理学療法士の監修を経た上で掲載しました

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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