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【#2】「産みたくない自分」と「妊産婦の健康を研究する自分」で揺れ動く聡美さんの場合・前編

#母にならない私たち

月岡ツキ

結婚するかしないか、子どもを産むか産まないか。女性に選択肢が増えたからこそ、悩んでしまう時代。本連載では、子どもを持たないことを選択した既婚女性に匿名インタビューを実施し、「どうして子どもを持たないことを選択したの?」「パートナーとどう話し合った?」「ぶっちゃけ、後悔してない?」……などなど、顔出しでは言えないような本音まで深掘りします。

結婚するかしないか、子どもを産むか産まないか。女性に選択肢が増えたからこそ、悩んでしまう時代。

本連載では、子どもを持たないことを選択した既婚女性に匿名インタビューを実施。「どうして子どもを持たないことを選択したの?」「パートナーとどう話し合った?」「ぶっちゃけ、後悔してない?」……などなど、顔出しでは言えないような本音まで深掘りします。聞き手は、自身もDINKs(仮)のライター・月岡ツキ。

松田聡美さん(仮名/33歳)は首都圏在住の研究者。とある研究機関で女性の妊娠・出産にまつわる研究をしている。

1歳年上で同じく研究者の夫とは3年前に結婚。夫婦ふたり、公私共に忙しくも楽しく暮らしているというが、聡美さんにはある悩みが。

「妊娠や出産に関する研究をしている身で、自分も既婚で適齢期なのに、子どもを持つことを躊躇ってしまいます」

自身の専門とする研究分野と、自分の人生における選択の矛盾。「女性研究者は子なしが多い」というアカデミアで、聡美さんが置かれている状況とは。

妊娠・出産について研究しているけれど、自分は……

私はとある研究機関に所属する研究者です。専門は女性のライフスタイルやヘルスケアに関することで、詳細は伏せますが、平たく言えば「どうしたらもっと女性が妊娠・出産しやすい社会になるか」、少子化対策に寄与するための研究をしています。

もともと関連する学問を勉強していて、27歳で博士まで取ったのですが、はじめから女性のライフスタイルに特化して勉強していたわけではありませんでした。現在の研究に行きついたのは、なりゆきというか、自分が勉強していた分野に関連していたのと、公的な研究費をいただけることになったからです。

実際に研究してみたら、研究対象である出産適齢期の女性と自分が属性的に近いこともあり、共感できる部分はあります。しかし私自身は妊娠・出産経験がないので、考えたり話したりすることはあくまで想像の範疇。周囲から「自分では産んでないのに、何言ってるんだろう」などと思われていないか、不安になることもあります。

そうは言っても、研究の世界は年長の男性ばかりなので、比較的若い女性である私には「当事者に近い女性としての意見」が求められがちです。会議にも「女性の意見が欲しいから」と頭数に入れられるのですが、女性だからといって女性に関する様々なトピックスの全ての当事者目線になれるわけではありません。

女性が全くいない会議はもっとダメだろうとは思いつつ、モヤモヤします。数少ない女性研究者の先輩を見ていると、1人で何役も様々な場に引っ張り出されていてとても大変そうで……自分も将来そうなるのかと思うと、ちょっと気が重いですね。

ちなみに、私の周りだけかもしれませんが、活躍されている女性研究者は子なしの方が多い印象です。男性研究者は子持ちの方が多いですが。

女性研究者に子なしが多い理由

私は博士過程まで行ったので働き始めるのが他の人より遅く、33歳の今、ようやく仕事にも慣れ、それなりにお給料ももらえるようになってきたところです。なのに、妊娠・出産でこの立場を手放すことには正直、二の足を踏んでしまいます。

というのも、研究職の場合、産休や育休を取った後に元のポストに戻れる保証があまりないんです。そもそも日本の研究職は5年程度の契約で研究機関に雇用されるケースがほとんどで、契約満了後に再契約してもらえるか、もしくは他の機関で雇ってもらえるかどうかは研究業績次第。一度どこかの機関に入ったら一生働けるような雇用形態ではありません。

夫も同業者で、もしいま私が妊娠して働けなくなったとしたら、夫の収入一本では間違いなく生活水準が下がってしまうでしょう。

産休や育休で1年間も席を空けてしまったら、その間の研究業績は当然ながらゼロなので、自ずと次に行くところがなくなります。一度離れてしまうと、研究職を続けていくのはかなり難しい。だから女性研究者は子なしが多いのかもしれません。

「夫婦でよく話し合って」と簡単に言うけれど

夫とは大学の研究室が同じだった縁で、交際・結婚に至りました。長い付き合いです。

彼も別の職場で5年契約の研究者として働いているので、経済的に安定しているとは言えませんが、同業なので仕事の相談をしやすいところはありがたいです。夫は私と違って楽観的で、違う視点からアドバイスをくれるところも好きです。

平日はお互い忙しくてすれ違い気味ですが、休みの日は一緒に映画を見たり料理をしたりして過ごすようにしています。料理は共通の趣味なので、2人でちょっと手の込んだものを作って食べたりして。そんな時間がとても楽しいんです。

でも、夫とは子どものことについて全く話し合えていません。私が子どもをどうするべきか悩んでいることも知らないでしょう。

彼は自分から「子どもが絶対欲しい」とか「どうするか話し合おう」などと意見を言ってくるタイプではないので、私が切り出さない限り話し合いにはならない。むしろ、ほかのご夫婦はいつ、どのように、そういう話をしているんでしょうか……。

そもそも夫婦の営みをもう長らくしていないので、「子どもについて話し合うって言ったって、してないんだから気にしなくていいじゃん」などと改めて言われたらと思うと、それはそれで嫌ですね。

セックスレスについては、私自身は別に問題視していないんです。なくても仲が良いならむしろその方がいいと思うくらい。楽ですし。

けれど、それについても夫婦で改まって話したことはなく……。夫がどう思っているかわからないことに、あえて自分から触れたくないのかもしれません。

話し合って、仮に「妊活しよう」となったとしても、結局私はキャリアや収入のことを考えてしまって、踏み切れない。もっとも、夫と話し合ったところで明確な意見が返ってくることもない気がします。

私が妊活したいと言えば、そうしようと言ってくれるでしょうし、子どもは要らないと言えば、きっとその方向で納得してくれる。よく言えば受容性がある、悪く言えば何も考えていない。何を言っても私の意見が通ることが目に見えているので、話し合いをする気にならないともいえます。

夫は優しいと言えば優しいですが、何かを決める際にいつも私の意見で決まるというのは、責任が全て私にかかっているようで、気が重くなってしまいます。

妊娠・出産にまつわる研究をしている身としては、家族計画について「ご夫婦でよく話し合った方がいい」と思うのですが、自分のこととなると、なかなかそうはいきませんね。

それに、私が夫に言えていない話はこれだけではありません。仕事柄、どうしても「子どもが欲しい」と思えない理由が、まだあるのです。

(後編につづく)

妊娠・出産について研究する自分と、親になりたいと思えない自分の間で揺れ動く聡美さん。後編の記事はこちらから。
https://woman.mynavi.jp/article/241025-2_12000673/

(取材・文:月岡ツキ、イラスト:いとうひでみ、編集:高橋千里)

※この記事は2024年10月24日に公開されたものです

月岡ツキ

1993年生まれ。大学卒業後、webメディア編集やネット番組企画制作に従事。現在は都内のベンチャー企業で働きつつ、ライター・コラムニストとしてエッセイやインタビュー執筆などを行う。 プライベートではコロナ禍を機に長野県にUターン移住し、東京と行き来する生活に。
執筆業では働き方、移住、2拠点生活などのテーマのほか、既婚・DINKs(仮)として子供を持たない生き方について発信している。
X:@olunnun
Instagram:@tsukky_dayo
note:https://note.com/getsumen/

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