【第10話】お揃いとわがまま。親子の関係値が一気に縮まった瞬間
恋愛・婚活コラムニストのやまとなでし子さんが、『海のはじまり』(フジテレビ系)を毎週考察&展開予想するコラムです。自分の子どもが7年間生きていることも、これまでをどう生きてきたかも知らなかった夏と、突然自分の人生に現れた海。2人の関係や、亡くなった彼女と娘との“母と子”の関係――。本作はさまざまな形の“親と子”のつながりを通して描かれる愛の物語。
※このコラムは『海のはじまり』10話までのネタバレを含んでいます。
2人の生活のための新たなハードル
海(泉谷星奈)と共に暮らすことを決めた夏(目黒蓮)。
しかしそこに立ちはだかる、海の転居、転校、改姓という問題。海の環境を少しでも変えないようにと、夏は自分が海の学校の近くへの転居や、そのための転職なども視野に入れて考え始めます。
会社の先輩からも「なれない仕事と育児を両立できるのか? 収入減らない保障は? 親が倒れたら子どもは二次災害だぞ」と、現実的で真っ当なアドバイスを受けるのですが、自分自身も当事者として親の離婚による環境の変化を経験している夏としては、「ママがいなくなって、海いろんなこと変わったのに、まだ海が変えなきゃダメなの?」と嘆く海の気持ちが分かりすぎてしまう……。
大人の都合に子どもを巻き込むわけにいかない、と夏は自分の環境を変化をさせる形で海との暮らしを検討します。
親子の絆が一歩深まった瞬間
津野(池松壮亮)に会いに図書館を尋ねた海は、「転校嫌だ。図書館に会いに来れなくなっちゃう。夏くんの言う通りにしたほうがいいの? 海のこと嫌いになっちゃう?」という本音を津野に漏らします。
「嫌なら嫌って言いまくっていんじゃない?」と津野は助言するものの、「夏くん困らない?」と躊躇する海。津野はたたみかけるように、「困らせたらいいよ。親なんだから。子どものことで困るのが生きがいなんだから。あと、絶対嫌いにならない」と後押しをします。
その晩、津野の言葉を信じて海は初めて夏にわがままを言うのです。
夏に電話をするや否や「夏くん! 海転校したくない! やだ!」といつになく感情的に言葉をぶつけます。
困らせても関係は壊れないと、夏との関係を信じたことで、2人の間にあった「遠慮」という壁がなくなり、その結果、顔色を伺うことなく忖度のない本音をぶつけることができ、親子としての関係がまた一歩深まったのでした。
「遊び来た」とアポなしで海が訪ねてきた時の、津野の喜びが溢れまくった「嘘〜〜」の一言も心温まりすぎましたね。誰に対しても一貫してクールで表情を崩さず対応する津野がこんなにも顔を崩して接することに、海への愛情をひしひしと感じます。
弥生が友達を提案した2つの理由
別れることになった夏と弥生(有村架純)。それを自分の口で海にも伝えるため、弥生は海を公園に呼び出し、お別れした事実や、母にはなれないことを伝えます。
「でも、海ちゃんも夏くんも変わらず好き。一緒に暮らしたり家族になることは無くなっただけ。海ちゃんのママにはなれないけど、友達にはなれる。友達になってくれる?」と、夏とのお別れと共に2人の関係も終わることはなく、新しいものに変わりました。
「(友達は)家族に話しにくいことを話したり、仲良くしたい時だけすればいい、いつでも相談できる」と言っていましたが、この提案は純粋に海が好きだという気持ちの他に、夏と海が新しい環境でいっぱいいっぱいにならぬよう、夏と海の緩衝材かつ、セーフティネットでありたい、という弥生らしい配慮からなのでしょう。だからあえて「家族に話しにくいことを」という伝え方をしたのでしょうね。
母親になることはなかったけれど、2人の絆は変わらず、いい関係がこれからも続いていくことが感じ取れる心温まるシーンでした。
海だけでなく、翔平と朱音の環境まで変えてしまうことを実感する夏
海がいなくなることが寂しくてたまらない祖父・翔平(利重剛)。
「水季(古川琴音)が牛乳こぼしちゃったから」と、つい水季の名前が出てしまうほど、水季がいなくなった寂しさもまだ残っているのに、今度は愛する孫の海も手元から離れてしまうとなれば……。
今や、海が学校から帰ってきて第一に駆け寄るのは夏の元。以前は翔平だったはずなのに。何も言わず居間から席を外す翔平の背中が切なすぎて……。
「お父さん言わなかっただけ。寂しいに決まってる。だからしっかりしてよねってこと。意地悪言えば奪うようなものなんだから」と、夏にはっぱをかける祖母・朱音(大竹しのぶ)。
水季さえちゃんと出産を夏に伝えてくれていたら、奪うような展開にはならなかったはずなので、夏が少しかわいそうではありますが。
海の環境を変えるだけでなく、翔平と朱音の環境までも変えてしまうのだと、夏の悩みはいっそう深まると共に、きちんと考えて納得できる答えを出さねばと思い悩むのでした。
弥生と水季の言葉が夏の向く方向を示してくれた
そんな夏でしたが、弥生と水季の言葉が彼の進む方向性をはっきりと決めてくれました。
「何かを選ぶって、他の何かを妥協するってことだと思うよ。仕事は生活につながるよ。これからの生活には海ちゃんがいる。大事なもの優先するためには必要なことだよ。水季さんも言ってたよ。誰も傷つけない選択はないし、でも自分だけが犠牲になればいいってことでもない」
その言葉で、夏の中で何が一番大切で、守らなきゃいけないのかがはっきりと見え、取捨選択をすべきものが明確になりました。水季の言葉が弥生の人生の道標となり、さらに夏の道までも示してくれたのでした。
父と母。2人とお揃いの最高の名前になることを決めた海
夏は海にきちんと説明をします。
やっぱり転校をしてほしいこと。したくないのであれば、海に大変な思いをさせるから、安心して生活できる自信がないとまだ一緒には暮らせない、ということ。
丁寧に噛み砕いて理由を説明し、海自身に選んでもらった答えは、転校をして、夏と暮らすことでした。
そして、肝心の名字の問題。「月岡になるのどう思う?」と、プロポーズを思わせるような海への提案。これには驚くほどの即答と断言で「大丈夫!」と宣言した海。
「水季と一緒じゃなくなってもいいの?」という問いに、「名前がママとお揃いだから大丈夫!」と、水と海のさんずいにお揃いの絆を感じていたのでした。
学校や家など、環境の変化を強いられることで、母とのつながりがどんどんと失われていることが不安なのでしょう。母の存在が感じられる名前は、海にとって大切な絆の一つになっていました。
「苗字は家族でお揃いができるんだって! だから海、夏くんと一緒のがいい!」と、父とのお揃い、母とのお揃い、それぞれが入った最高の名前になることを決めた海。
わがまま、苗字、2人での新生活と、少しずつ親子になっていく2人の次回が楽しみです。
(やまとなでし子)
※この記事は2024年09月16日に公開されたものです