【第4話】産む選択、産まない選択。置かれた環境で決意が真逆になった二人
恋愛・婚活コラムニストのやまとなでし子さんが、『海のはじまり』(フジテレビ系)を毎週考察&展開予想するコラムです。自分の子どもが7年間生きていることも、これまでをどう生きてきたかも知らなかった夏と、突然自分の人生に現れた海。2人の関係や、亡くなった彼女と娘との“母と子”の関係――。本作はさまざまな形の“親と子”のつながりを通して描かれる愛の物語。
※このコラムは『海のはじまり』4話までのネタバレを含んでいます。
コーヒーの注文に現れる弥生の気持ちの変化
突然現れた自分の子ども・海(泉谷星奈)と少しずつ距離を縮めていく夏(目黒蓮)。そんな夏に「海ちゃんのお父さんになってほしいし、私もお母さんになりたい」と急かし、海との関係をきちんと整理させようとする弥生(有村架純)。
それには、彼女の中絶の過去が関わっていました。
当時の彼氏との子どもを妊娠し、心の中では産む決意をしながら妊娠の事実だけを彼に伝えた弥生。しかし、彼から返ってきたのは、当然のように弥生も中絶を望んでいる前提での返答。
しかもこの彼、「もちろん中絶のお金は全額負担するし、それが責任であり優しさ」とばかりに話を進め、弥生の気持ちなど1度も確認しないのです。“俺ちゃんとしてる!”感をめちゃくちゃだしてる自覚のないクズ男。
弥生も本心を隠し、彼に合わせて中絶を望んでいるかのように返答することで、二人の方向性は決まってしまいました。
二人が話しあったカフェで、最初はカフェインレスコーヒーを注文していた弥生ですが、彼がいなくなった後、普通のコーヒーを注文している姿がまた胸に刺さりました。
本当は産みたかったのに、だから赤ちゃんのためにノンカフェインのコーヒーを注文していたのに……。彼の返答で産まないことを決意した現れが、カフェインの入ったコーヒーの注文に表れていました。でも結局そのコーヒーを一口も飲むことができなかったのは、やっぱり子どもへの未練があったからなのでしょう。
異様に繰り返された「普通」に隠された意味
弥生の元カレが弥生に放った「いい選択だと思う。キャリア築いて、お互いのいいタイミングで順序踏んで『普通』の家庭を築こうよ(意訳)」という言葉。
この『普通の』に大きな意味が隠れているように感じます。
普通の家庭ってなんでしょう。きっかけがデキ婚であろうと、家庭の形なんてその後の二人次第。彼にとって何が普通じゃなかったのでしょうか。
その後、自暴自棄になった弥生が、コーヒーを注文する時に「はい普通ので。普通の(ブレンドコーヒーをください)」と彼の言葉の「普通」に大きな疑問を抱いたのか、あえて普通を連呼していました。
また、弥生が実母に妊娠の事実を告げた時には、「私無理だからね! お金は出させなさいね!」と、弥生の母は弥生の心や体を心配することなく、自分に金銭や負担がかからないようにと自分の心配ばかりしていました。
弥生はもしかすると、なかなか辛い生い立ちの家庭で育っており、「普通の」温かい家庭を築きたいという夢を持っていたのかもしれません。だからこそ余計にこの中絶は辛いもので、やっと「普通の」自分の家庭を築けると思ったら一気に地獄に叩き落とされ、中絶だけではない、たくさんの悲しみを背負ったのかもしれません。
弥生と夏の悲しい共通点
偶然にも弥生と夏には共通点が生まれました。
それは、二人とも、パートナーに勝手に中絶することを決められてしまったという点。自分の気持ちを聞いてもらうこともなく、パートナーの意思によって彼らの意思は押し込められてしまいました。
「あそこで主張していたらもっと違っていたのだろうか」という後悔の残る二人。だからこそ、今、彼らにとって海という存在がより大きなものになるのでしょう。
そして、水季(古川琴音)が一人で決意をして夏に別れを告げたあの日、水季が夏についた大きなうそ「夏君より好きな人できちゃった。夏君より好きで、ずっと一緒にいたいんだよね」は海のことだったんですね。「夏のためのうそ」のように見えたあの言葉はうそではなかったのです。
夏への悪口は最高の褒め言葉
人に優しく平等で、フラットな考え方を持つ、優しさの塊のような弥生。
海と夏の関係に対してのみ、どうしてもいつもの弥生でいられなくなってしまいます。その理由である、過去の中絶の事実を夏にカミングアウトし、「いい親になって必要とされれば楽になれると思い込もうとしていた。自分のために親になりたかった」と打ち明けました。
菩薩のように夏に優しく寄り添う弥生でも、こんなに感情を狂わせてしまうなんて、あの過去の中絶は彼女にとって本当に辛い出来事であり、大きな後悔なのでしょう。
でもこの言葉をまっすぐに夏にぶつけられる弥生はやっぱり強いし優しい女性です。
辛い中絶の時には、当時の彼氏も母親も、誰も心から弥生の心配をせず、自分の気持ちを押し付けるだけで、寄り添ってもらえなかった弥生。「本当はもっと人に寄りかかりたい」と夏に言っていましたが、夏は弥生にとってやっと寄り添ってくれる人なのでしょう。
弥生の「月岡君さ、しつこく電話したりしないよね。決めきれない感じたまにイラッとするんだけど、でも一緒に迷えるのは助かる。寂しくない」という夏への言葉に、夏は「すごい悪口言われた気が……」と言っていましたが、これは夏への最高の褒め言葉なんでしょうね。
自分の気持ちを押し付けず、そっと寄り添いながら、二人の意思で物事を決められる関係の幸せを噛み締めているのでしょう。
対比のような、水季と弥生の置かれた環境
一方で水季の周囲は愛に溢れていました。妊娠に向き合おうとした夏、伝え方は感情的で不器用だけど、心の根っこでは水季を心配する母・朱音(大竹しのぶ)、そして、母と娘のバランスをとるように暖かく二人を見守りながら寄り添う父・翔平(利重剛)。
心から寄り添ってくれる人が誰もいなかった弥生とは正反対なほど、みんなが水季のことを考えてくれている。だからこそ、水季の中に隠れていた本当の気持ち「相手に似るなら産みたい」が引き出され、お父さんの「相手に似てほしいって思えるだなんて、それはもうねっ」「じゃあもうお母さんだよ。そう簡単に始めたりやめれたりするもんじゃない」に後押しされ、産むことを決意したのでしょう。
母・朱音が「子ども」ではなく「水季」が来てくれたことをどんなに喜んでいたのかが詰まっている母子手帳を、さりげなく水季に渡していた父・翔平。母の愛を改めて知ったことで、水季も海のためにあれだけの記録を母子手帳に残していたのでしょうね。愛がリレーのようにつながっていく場面でした。
自分の決意が、置かれた環境で真逆になってしまった水季と弥生
本来産むはずだった弥生が中絶をすることになり、中絶をするはずだった水季が出産をしているのですから、人生とはなんとも皮肉なものです。本人の意思とは裏腹に産む環境が整っていなかった弥生と、整っていた水季。環境が違ったら、その結論も違っていたのでしょう……。
次回は夏の夏休み。夏は海の家に泊まって海のリアルを知ることになります。朱音は、毎回言葉は強いですが、根っこは優しい。ぽっと出の突然の孫の父にあたるよく知らん若い男を家に数日泊めてやるだなんて、海と夏のためとはいえなかなかに勇気がいることです。
次回、みんなの関係にどんな進展があるのか楽しみです。
(やまとなでし子)
※この記事は2024年07月29日に公開されたものです