結婚、妊娠、出産とアラサーであれば一度は直面する、ライフステージと自分の現状との乖離はいつまでも、わたしたち「女」ならではの悩みだ。産むか産まないか、産めるのか産めないのか、産みたいのか産みたくないのか――。
それらは、まるで共通の悩みのようで、生理同様「誰もが同じように悩んでいる」訳ではない不平等さと認識の歪みを感じ得ない。
生理のない男性、痛みや重み、つらさのわからない同性。産み育てないことも幸福のひとつであると知っている大人になった私たち、無条件に愛情は注げるものだと思っている彼ら・彼女たち。その溝は一生埋まることがないだろう、と思う。
生き方はさまざまだ、幸せの基準は人それぞれだと、声を大にしてできる時代、そういった言葉であふれている時代のはずなのに。日本特有の「本音と建前」は、あまりにも仕事をしすぎていて、私たちはいつまでもどこかで息苦しい。
頭ではわかっている、口にもできるのに自信を持てない私たちの、モヤットボールを受け止める、まるで答え合わせのような文章がそこにはあった。
【この本を読んで分かること】
・「女であること」は「同じ悩みであること」ではない
・子供を産んだ人、産まない人、見えていなかったお互いの「ほんとうのところ」
・「産まない人生(仮)」と「私の幸せ」の例
■「悩む必要はない」ほんとうに?
『産む気もないのに生理かよ! 』には、おそらく女性なら一度は感じたことがある「産む側の性別である」ことの理不尽さ、不条理さ、風当たりのきつさだけでなく社会的な見え方などが綴られている。
SNSでは今日も「女は」「男は」「これだから」と強く、懐疑的で、攻撃的な、嘆きが飛び交っている。
子供を持たない選択をした共働き夫婦のことをDINKsといい、2022年に行われた厚生労働省の「2022年国民生活基礎調査の概況(※)」では、過去1986年に比べて倍増していることがニュースにもなった。結婚のスタイルも多様化し、仕事や趣味にお金や時間を自由に使う現代で「子供を持たない」選択肢、いわゆるDINKs も増加傾向だ。
だけど、それを明言できる、口にできる人は多くない。言えたとしても、笑って誤魔化し、少しのおちゃらけ要素を加え、明るく消化する。
本の中で、『結婚する時、家を買う時、車を買う時、就職ですらも「お子さんは?」「子供が生まれた後」と、子供がいるor子供を欲しがっている前提で社会は構築されている』といった話がある。
「子供がいない」「子供を(今のところは)考えていない」ことだってなんら、悩む必要はない選択肢の一つのはずなのに、いつまでも自信を持てないのは、多くの人たちの中に「夫婦になったから次は子供」「女性は子供が欲しいはず」といった固定観念があるからなのではと、痛感させられた。
■魔法でもなんでもいい、早く男女同じ悩みにしてくれ
出産を考えていないのであれば、生理はとても理不尽だ。頭痛・腹痛・倦怠感、暴飲暴食やネガティヴ思考が顔を出し、暴れ馬の方がうまく収められるのではないかと思うほどホルモンに左右される。動けなくなるほどの痛みに、オムツのように付け替えるナプキン、白い服を着れない期間に、漏れが気になって寝れない夜……。
どれもこれも「なんで男にはないんだよ、クソッ」と、思わず口が悪くなるような不快さだ。そしてそれは、妊娠出産も同じ。
あの痛みも、子供が体に宿り変化していく体型への恐怖感も、キャリアを心配しなければいけないことも、全部全部、女性だけだ。さまざまな科学が発達した現代で、人類だけが進化していないと感じてしまう。未経験の私ですら、だ。
■「子供を持つ選択」も「持たない選択」も、ファッションじゃない。
著者の月岡さんは、ポッドキャスト『となりの芝生はソーブルー』で知られるDINKs(仮)のつっきー。話上手な彼女の繰り出す、具体例や「産まない」ことへのモヤモヤの正体、すでに産んだ側の友人たちとの「産む」ことへの境界線への違いは、ノンストップで読み切ってしまいたい、という気持ちを掻き立て引き込まれていくものだった。
私たちは常に何かを選択して生きているけれど、それに自信を持てたことはいくつあるのか、数えてみれば案外少ないかもしれない。「わかってもらえないだろう」とどこかで諦めながら選択していくことは、思っているよりも多いように思う。「子供を持たない選択」は好きに取り外しができ組み合わせができる、ファッションではない。
きっといろいろある。子供を持っている人には持っている人の、私たちと会う時には見えない、SNSでアップしている一枚の写真や10秒足らずの動画ではわからないことがたくさんある。
こぼれた離乳食、手を振り払う強い力、悪意のない行動……。子供を持たない、という選択をしている人の葛藤がわからないように、彼女たちの心のうちはわからないのだと改めて感じる。
だからこそ「わからない」「見えていないこと」にも、気付く瞬間が必要だったりするのだ。
■分かり合えない、理解し合えない、そしてそれはきっとこれからも。
老後2000万円問題は記憶に新しい。独身税が導入されるとかされないとか言われている。私たちが自分一人で生きていくのだってハードだと感じる世の中だ。だけど結婚、子どもを望まないことに対して「いいじゃん」の言葉の裏で、社会的な閉塞感は感じざるを得ない。
なんとかなるよ! ほど心強い言葉はない。一方で、なんとかなるよ! ほど心もとない言葉もないのだ。
今私たちが必要なのは「それを選択した私、そして選択しなかったあなたとも、少なくとも同じ熱量で同じことに向き合えなくても、友人でありたい」と思えるだけの関係性。そして、誰もが「前提」としている固定観念が少しでも和らぐ柔軟な思考だろう。
30代目前、あるいは30代を迎えた女性の前に広がる多様な選択肢。「女性」であることを恨む瞬間はいくつもある。そんな時に読んでほしい。そしてできればこのエッセイは、女性だけでなく男性にも、「わかり合えないことを前提」に、読んでほしいと思う。
◇書誌概要
作品名:産む気もないのに生理かよ!
著者:月岡ツキ
発売日:2024年12月5日(木)
価格:1,760円
発刊:飛鳥新社
作品ページ:
※参考『2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況』
(mayan)