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5月病で疲れた心を軽くする。公認心理師が解説するディズニー/ピクサー作品の魅力とは?

南舞

新しい生活でのストレスや疲労によって、心身に影響を受けやすい5月。そのことからこの時期の不調のことを【5月病】と呼ばれたりしていますが、そんな時期だからこそ、ディズニー/ピクサーの映画作品を見て、気持ちをスッキリさせてあげるのはいかがでしょうか。

そこで、心の専門家である公認心理師の南舞(ミナミマイ)さんに、映画を見ることでの心理的効果や、心理学の視点で、5月病を吹き飛ばしてくれるようなおすすめ作品を紹介してもらいました。

映画を見ることの心理的な効用

映画を見ることによってストレスや疲労の緩和が期待できます。具体的にどのような心理的効用があるのかを、まず説明したいと思います。

ストレス対処に役立つ

心理学では、ストレスのもとになるものをうまく対処することを【ストレスコーピング】と言います。ストレスコーピングにはさまざまな種類がありますが、その中でも映画と関係しそうなのが、ストレス解消型コーピング。

ストレス解消型コーピングとは、ストレスを感じてしまった時に、一時的にストレスから離れ、自分が心地よく安心を感じると思うことをして、体の外にストレスを発散させる方法のことです。

ストレスフルな状況をすぐに解決することが難しかったとしても、お気に入りの映画を見ることで一時的にストレスを和らげることができるでしょう。

感情の浄化になる

心の浄化作用のことを心理学では【カタルシス効果】と言います。例えば、映画を見ていた時に『主人公が自分と同じ悩みを持っていて、共感して涙が出た』『現実では言えないことを代わりに言ってくれたようなセリフがあって、心がスカッとした』といった体験をしたことはありませんか?

それらはまさにカタルシス効果と言えるもの。目に見えない感情を扱うのはなかなか難しいものですが、映画というツールを使うことによって、比較的簡単に心の浄化を感じることができます。

公認心理師がすすめる、心が軽くなる映画3選

次に実際に私が見た映画作品の中で、5月病で元気が出ない時にぜひ見てほしいおすすめの作品を3つ紹介します。

『インサイド・ヘッド』

『インサイド・ヘッド』©Disney/Pixar ディズニープラスで配信中

『ヨロコビ(喜び)』『カナシミ(悲しみ)』『イカリ(怒り)』『ムカムカ』『ビビリ』の私たちが誰しも持っている5つの感情たちが繰り広げる冒険物語を描いた作品。

カナシミの暴走を必死で止めようとするヨロコビ。それがきっかけで、これまで積み上げてきた思い出たちが崩れていき、感情たちの主であるライリーは、何も感じない状態になってしまいました。

カナシミの存在をどこか否定したい感じであったヨロコビでしたが、ライリーの思い出たちを取り戻す冒険をする中で、『実はカナシミの存在も時には必要なのだ』と、カナシミの存在を少しずつ肯定していくのが印象的でした。

これは私たちにも言えることだと思うのですが、いつもポジティブな気持ちでいられるわけではなく、時にはネガティブな気持ちになることだってありますよね。しかし、ネガティブな気持ちは決して悪いだけのものではなく、同じ失敗をするのを防いでくれたり、次のステップに踏み出すための原動力になってくれたりします。

『こんな落ち込んでいる自分はダメだ』とか『あの子はいつも前向きなのに、それに比べて私は……』と、自分の中のネガティブな気持ちをなくそうとするのではなく、受け止めてあげるヒントになる作品になるのではないかと思います。

『ソウルフル・ワールド』

『ソウルフル・ワールド』©Disney/Pixar ディズニープラスで配信中

ジャズ・ミュージシャンを目指すジョーと、地上に生まれる前のソウル〈魂〉たちが集う不思議な世界で問題児とされるその名も“22番”。タイプの違う2人の掛け合いがハラハラしつつも、クスッと笑ってしまうような楽しい気分にさせてくれる一方で、『生きる意味とは何か』という哲学的な問いをされている感じがする作品でもあります。

私が日々クライエントさんとカウンセリングをする中で、『自分とは何か』『何のために生きるのか』といったことがテーマにあがる機会も少なくありません。まじめで一生懸命な方ほど、『生きる意味や目的を持っていなくてはいけない』という考えに縛られ、つらくなるように感じます。

しかし、人生とは本来こうでなければいけないとかこうあるべきといった正解はなく、それぞれにいろんな価値観があっていいものです。また、何かを成し遂げようとしなくても、私たちは一瞬一瞬を生きているだけですばらしいのだと。そんなことを再確認させてくれる作品だと思います。

周囲から浮かないように、学校や職場でうまく振る舞おうとして空回りしてしまったり、人生に目標や意味を見出せない自分に後ろめたさを感じてしまったりして落ち込んだ時に、ぜひ見てもらいたいです。

『ピーター・パン&ウェンディ』

『ピーター・パン&ウェンディ』©Disney ディズニープラスで配信中

アニメーションで見ていたピーター・パン新たな物語で描いた実写映画。大人になりたくない子どもたちがピーター・パンとともにくり広げる冒険の数々、ティンカー・ベルの魔法の粉によって自由に空を飛ぶ姿などがとても魅力的で、発表された当時はビデオが擦り切れそうになるくらい繰り返して見ていた記憶があります。こちらの作品は、これまでのピーター・パンのファンタジーな印象とは逆に、いい意味で現実的な一面も見られ、ピーター・パンに対してのこれまでのイメージが変わるような印象を受けました。

大人になることに葛藤を感じているウェンディ。心理学では、子供から大人の境目にいることを【モラトリアム】と呼びます。このモラトリアムの時期には、現実から目を背けようとしたり、あるいは人の意見に引っ張られる、方向性が定まらなかったりするなどの葛藤を覚えながら、『自分とはどういう存在なのか』というアイデンティティを見つけていくことが大切だとされています。ネバーランドでの冒険やさまざまな人との関わりを通して成長していくウェンディの姿は、かつてモラトリアムを乗り越えてきた私たち大人の姿と重なるものがあると感じました。

作品の中でウェンディが『大人になるっていうのは、何よりも大きな冒険なのかもしれない』と言う場面があるのですが、これは子どもに限ったことではなく、大人にも言えることなのではないでしょうか。

大人になるということは、心身ともに自立することや、社会の規範にのっとって立派に生きていかなければならないといった暗黙の了解のようなものがあると思います。しかし、実際の大人ってそんなに完璧な存在ではないですよね。

大人になっても誰かを頼ったり甘えたい気持ちはあるし、型にはめられたくなかったり、白黒つけられない矛盾した行動や言動をしたりすることだってあるはず。先の分からない人生という道のりを、大人だって冒険しながら進んでいる。だからからこそ、楽しい時もあれば失敗することや、憂うつになる時だってあります。

大人である今も『人生の冒険の途中』という見方をすれば、完成している必要はないし、うまくいかなくても途中休憩を挟み、そして、大変な時は手を差し伸べてくれる人の存在に頼りながら、また少しずつ頑張っていけばいい。そんなメッセージをもらえたような気がしました。何かと葛藤することが多い大人たちの背中を押してくれるような作品だと思います。

5月病で疲れた心にディズニー/ピクサー作品を

今年で創立100周年を迎えるウォルト・ディズニー・カンパニー。これまで発表されてきた数々の作品の中には、観る人の背中を押してくれるようなポジティブなメッセージが込められたものがたくさんあります。

何かとうつうつしやすいこの時期を乗り切るヒントをもらえるかもしれません。ディズニー/ピクサー作品を見ることで、心のセルフケアをしてみてくださいね。

(南舞)

<参考・引用文献>
丹野義彦・石垣琢磨・毛利伊吹・佐々木淳・杉山明子(2015)「臨床心理学」有斐閣
中島義明・安藤清志・子安増生・坂野雄二・繁枡算男・立花政夫・箱田裕司(1999)「心理学辞典」有斐閣

※この記事は2023年05月12日に公開されたものです

南舞

公認心理師 / 臨床心理士 / ヨガ講師
多感な中学生の時に心理カウンセラーを志す。大学、大学院でカウンセリングを学び、2015年に「臨床心理士」を、2018年には国家資格「公認心理師」を取得。学校や企業、子育て支援などさまざまな場所でカウンセラーとして活動。また、学生時代にカラダが自由になっていく感覚への心地良さ、ジャッジしない、周りと比べず自分と向き合っていくヨガの姿勢に、カウンセリングの考え方と近いものを感じ、ヨガの道へ。2020年より、働く女性のメンタルヘルスをサポートするためのヨガ×カウンセリングのサロンを主宰。ウェルビーイングを高めたり、もともとその人の中に備わっている強みを引き出したりしていくお手伝いをモットーとして日々活動中。

HP:https://www.mai-minami.com/
Instagram:https://www.instagram.com/maiminami831/

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