後悔しない人生を送る。女優・深川麻衣が歩んできた5年間
あこがれの人、がんばってる人、共感できる人。それと、ただ単純に好きだなって思える人。そんな誰かの決断が、自分の決断をあと押ししてくれることってある。20~30代のマイナビウーマン読者と同世代の編集部・ライターが「今話を聞いてみたい!」と思う人物に会って、その人の生き方を切り取るインタビュー連載。
取材・文:高橋千里、撮影:洞澤佐智子、編集:田島佑香/マイナビウーマン編集部、ヘアメイク:白水真佑子、スタイリスト:原未来
白い花のような女性がいた。
人気アイドルグループ・乃木坂46の中でもひときわ笑顔が輝いていて、優しい人柄から“聖母”という愛称で親しまれた。彼女の名前は深川麻衣。
そんな彼女が乃木坂46を卒業したのは、2016年。25歳の時だった。
当時同じく25歳だった私は、たった1枚の握手券を握りしめて約4時間も行列に並んだ。話せた時間はたったの2秒。緊張の中「同じ25歳なんです」と小さく声を振り絞った私に、「25歳、一緒に頑張ろうね!」と向けてくれた満面の笑顔は今も忘れられない。
それから約5年後。今年30歳になる私たちが再会したのは、彼女が主演する映画『おもいで写眞』のインタビュー現場だった。
静岡からの上京。今でも思い出に残る場所
「映画の主演は『パンとバスと2度目のハツコイ』以来2回目です。今回私が演じた結子は、喜怒哀楽の中だと“怒”がキーポイントとなる女の子。感情の出し方含め、今までやったことがないような役なので、自分にとっても新たな挑戦でした」
映画『おもいで写眞』は、東京で夢に破れた主人公・音更結子(29歳)が、故郷の富山県に帰ってくるシーンから始まる。
「私も静岡から芸能の道に憧れて上京したので、結子とは境遇が似ているなと感じました。年齢と仕事と自分の理想があって、そこに追い付けていない焦りとか。そういう気持ちはすごく理解できました」
たった一人の家族だった祖母が亡くなり、その祖母の遺影がピンボケだったことに悔しい思いをした結子は、町役場で働く幼馴染から頼まれた「お年寄りの遺影写真を撮る」という仕事を引き受ける。
最初は「縁起でもない」とお年寄りから嫌がられることも多かったが、「思い出の場所で記念写真を撮る」という趣旨に変えたところ、たちまち町で話題の企画となった。
そんな“おもいで写眞”の撮影を通して垣間見える、それぞれの人生。もし深川さんが撮影するとしたら、どこで撮りたいと思うのだろうか。
聞くと、「地元の静岡で撮りたいです」と懐かしむような目で答えた。
「私の実家の周りって本当に田舎で、田んぼに囲まれていて。天気が良い日に、風に稲が揺れる様子とか、見慣れた景色だけどすごくきれいなんです。
小学生の頃、下校中に田んぼの縁を歩くというゲームをやっていた時に、落ちて泥だらけになった思い出もありますが……(笑)。
東京とは流れている空気が少し違うので、帰る度に安心します。その田んぼを背景にして“おもいで写眞”を撮りたいですね」
まっさらな“深川麻衣”としての挑戦
今回の映画主演で、また一つ女優としてのキャリアを重ねた彼女。今の“深川麻衣”を作った原点でもある「アイドルグループからの卒業」について振り返ってもらった。
「乃木坂46時代、いろんなジャンルの仕事をする中で、自分が特に楽しいなと感じたのが、ミュージックビデオや舞台でのお芝居。
グループ活動を始めて2〜3年目くらいに『お芝居の道に進んでみたいな』という気持ちが芽生えて、それがどんどん膨らんで、5年目で卒業を決めました。
いろんなお仕事をさせていただいたからこそ、自分のやりたいことに気付けたんです」
25歳での卒業。当時は乃木坂46が世間的にも注目され始めている頃だったこともあり、彼女の決断を応援する声ばかりではなかったという。
「『卒業はまだ早いんじゃないか』『グループにいながらでも(女優活動は)できるんじゃないか』と言われたこともありました。
だけど、乃木坂46の看板とか、そういう甘えられるものがない場所で挑戦してみたかった。周りのメンバーと比較されるのではなく、まっさらな“深川麻衣”としてもう1回スタートを切りたかったんです」
彼女の迷いは、何も芸能人としての特別な葛藤ではない。人生の岐路に立つ全ての女性たちが、このままのキャリアでいいのか悩み、決断しなければいけない時に迫られる。もちろん、私自身も例外ではない。
「グループにいながら経験を積む1年にするか、卒業して新しいことをする1年にするか。二択を迫られた時、私は後者を選びました。新しい環境って怖かったりもするけど、人生一度きりだし、後悔したくなかったんですよね」
そう話しをする彼女からは、強い意思が感じられた。
「二択を迫られた時、どちらを選ぶべきか人に相談することも多いですよね。だけどアドバイスは一つの意見として参考程度に捉えて、最後は自分で決めるのがいいんじゃないかな」
「人の意見に流されすぎると、あとで失敗した時に、自分で決めた時よりも後悔すると思います。逆に自分で選択すると、たとえ失敗しても『じゃあ次はこうしてみよう』というポジティブな気持ちにつなげていけるはずなので」
数年後に振り返った時、成長できているように
新たなスタートを切ってから、約5年。幅広い作品で女優・深川麻衣の活躍を目にすることが多かったが、必ずしも平坦な道ばかりではなかったはず。
彼女はどんな“坂”を登ってきたのだろうか。
「女優に転向してからすぐ『SKIP』という舞台に出たんです。初めての主演でしたが、そんなに舞台の経験がなくて。共演者は素晴らしい役者さんばかりだったのですが、自分にできないことが多すぎて落ち込みました」
そんな彼女にアドバイスをくれたのが、共演者の粟根まことさん。
「粟根さんに『どうやったらお芝居ってうまくなるんですかね?』とぽろっと相談したら、『1回で劇的に成長したと実感できることは絶対にない。何年か経った後に、成長したと気付くものだよ』と返してくださって。その言葉は今でも忘れられません」
それから数々の舞台、映画などへの出演を経て、少しずつできることが増えていったという。
「お芝居の仕事って、自分の引き出しから表現しなきゃいけないんです。最初の頃は引き出しがあまりにも少なかったので、自分と向き合うことを怖がらないようにしました。
自分がどういうものをすてきだと思って、どういうものが嫌なのか。心の中の声に耳を傾けることが仕事にもつながっていくので、そこは意識するようにしました。少しでも成長できているといいな、と思います」
今年で30歳。もう若くないけど、完璧な大人にもなりきれない。“自分の生き方”を改めて考え始めるこの年齢で、彼女はどんな未来像を描くのだろう。
「私はまだまだ自分のことで精一杯だけど、いつか“余裕のある女性”になりたいです。
今までお仕事の現場でご一緒した女性の先輩方を見ていると、もちろん100%の力で仕事に取り組んでいるけど、ちゃんと楽しんでもいる。自分だけじゃなくて周りも見て、気遣いができて、遊び心もある。そんな思いやりと余裕のある女性に、私もなれたらいいな」
こうして20分のインタビューは終わった。
5年前にたった2秒間言葉を交わしただけの彼女から、ここまで深い話を聞くことができるなんて。彼女の想いを文章に乗せて、私だけじゃなく、もっと多くの人に届けたいと思った。
5年後は一体どんな話が聞けるだろう。
別れ間際、笑顔でもう一度私に視線を向けてくれた彼女から「また一緒に頑張ろうね」という声が聞こえた気がした。
ワンピース:70,000円/WRYHT(untlim)
イヤリング:1,800円/GOLDY(ゴールディ)
シューズ:12,900円/A de Vivre(ア ドゥ ヴィーヴル)
◆問い合わせ先
untlim:03-5466-1662
GOLDY:0120-390-705
A de Vivre:06-6454-1266
※金額は税抜価格
映画『おもいで写眞』
メイクアップアーティストになる夢を諦め、東京から故郷の富山へと戻ってきた音更結子。たった一人の家族である祖母の遺影がピンボケ写真だったことを悔やみ、幼馴染の星野一郎から頼まれた“お年寄りの遺影写真を撮る”という仕事を引き受ける。
最初は「縁起でもない」とお年寄りから嫌がられる中、大切な場所で写真を撮る“おもいで写眞”に趣旨を変更したところ、たちまち人気を呼ぶ。
謎に包まれた夫婦や、過去の秘密を抱えた男性。思い出に嘘をつく人……。さまざまな人のおもいで写眞を撮る中で、怒って笑って、時に泣きながら成長していく結子の日々は、思いがけないドラマを奏でていく。
2021年1月29日(金)全国ロードショー!
※この記事は2021年01月26日に公開されたものです