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「暗黒物質」って何があるの?それともないの?

「暗黒物質」「ダークマター」という言葉を聞いたことがないでしょうか。「あるけれども見えないもの」だそうで(笑)、いったいこれは何なのでしょうか。ちょっとカッコいい言葉ですので何のことだか知りたくありませんか?

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物理学の素養が全くないバカな筆者が、『と学会』運営委員にして日本最強のデバンカー、そして科学ジャーナリストの皆神龍太郎さんにお話を伺いました。

――「暗黒物質」について教えてください。

皆神先生 また難しいお題を持ってきましたね(笑)。

――まず、アホの子みたいな質問なのですが、「ダークマター」といわれているものと「暗黒物質」といわれているものは同じものですか?

皆神先生 日本語か英語かの差だけで、同じものです(笑)。「ダーク」という名称が付いているのは、それが「見えない」という特性を持っているからです。

「見えない」の意味は、

●関係しない
●相互作用しない
●反応しない

といったことです。これは、つまり「私たちには直接観測できない物質」ということです。

――ちょっと待ってください。観測できないのに、なぜ「何かある」と分かるのですか?

皆神先生 よく分からなくなるのは、そこのところですよね。それは、直接的には観測できなくても、間接的にならば存在を確認できるからなんですよ。間接的な「観測」結果と「理論」計算の結果がどうにも合わないので、そこに何かあるに違いない、ということになったのです。

例えば、銀河系ってクルクル回転しているわけなんですが、回っても星々が飛び散らないでいられるのは、その中にある物質の重力によって引き留められているからなんです。

でも、その回転速度を子細に観測すると、銀河系内に見えている物質の量だけだと、どうしても回転の速さの観測値と計算値が合わないんです。だから、どこかに見えない物質が大量に隠れていて、銀河を引っ張っているはず、となるわけです。

従来の理論では俎上(そじょう)に載らない、私たちの知らない「何か」がそこにある、と考えないとつじつまが合わないのです。だから「直接観測はできないけれど、そこに何かがあるはず」となるわけなんです。

――なるほど。

皆神先生 先ほど「相互作用しない」とは言いましたが、その例外なのが互いに引っ張り合う「重力」なんです。

「質量を持っているものは必ず重力相互作用を持つ」

というのが物理学の大前提です。ですから、見えないけれど、重力の作用を及ぼす何かがそこにある、と考えられるわけです。

――それが暗黒物質なのですか?

皆神先生 その重力作用を及ぼしている、何だか分からない正体不明なものを、「暗黒物質」と名付けてみた、というほうが正確かもしれません。そのルーツは結構古くて、1930年代に、「ひょっとしたら重力の相互作用以外ほとんど何も相互作用をしない物質が宇宙にあるのではないか」という考え方が提出されました。

――それが今になって「本当では!?」となっているのですか。

皆神先生 観測技術がどんどん発達していますから。より正確な観測結果と理論のギャップをどうやって埋めるのか、その説明をつけなくてはならなくなったわけですよ。「こういう物質があると仮定するとうまく説明できるよね」というわけです。

――その「暗黒物質」の正体は何なのでしょうか。

皆神先生 正体については、大きく二つの仮説がありました。それは「我々がすでに知っている既知の物質」だという説と、「いまだ知られざる未知の素粒子」だという説です。

既知の物質説は「MACHO」(マッチョ:Massive Astrophysical Compact Halo Objectの略)が候補の一つ。これは、とても暗いため観測が非常に難しい(また不可能な)天体などのことです。

もう一方の素粒子論的なアプローチは「WIMP」(ウィンプ:Weakly Interacting Massive Particles)が候補です。簡単に言うと、我々の知らない未知の素粒子がそこに存在している、と考える説です。

つまり、「既知の物質だけど観測できないもの」「未知の物質で観測できないもの」という二つが候補に考えられているのですが、現在は、未知の素粒子説の方が有力となっています。

――観測できないけれど「ある」というのは不思議な感じがしますね。

皆神先生 例えば水素とかヘリウムとか、私たちがよく知っている物質は、実は宇宙全体の構成要素のたった4%ぐらいしかないといわれています。

それに対して暗黒物質は23%もあるんです。でも、この暗黒物質と通常の物資を足しても、まだ3割にも満たないわけです。ならば、残りの7割はいったい何なの、ということになるわけですが、それは、今回はお話できなかった「暗黒エネルギー」と呼ばれる、さらに未知なる正体不明のエネルギーが占めていると考えられているんです。

――そんなに観測できないものがあるということですか。

皆神先生 面白いのは、この暗黒物質の話が「量子宇宙論」にもつながっているということです。「宇宙」という極大の世界を観測していると、それがそのまま極微の「素粒子」の話につながり、極大の世界と極小の世界が直接リンクして、ビッグバン直後の、この世界の成り立ちを説明するということになってくるのです。

面白いとは思いませんか? 世界中の物理学者が「暗黒物質」について解明しようとしていますが、それは、「私たちから隠された何か」の存在を明らかにすることなのです。

――ありがとうございました。

物理学の素養の全くないバカな筆者にもわくわくするようなお話でした。暗黒物質の正体が解明されると、私たちのいる宇宙の秘密がまた一つ明らかになるようです。

(高橋モータース@dcp)

※この記事は2014年09月03日に公開されたものです

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