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もしも水素と酸素から水を作るなら「500ml:11万4千円」

仮に水が無くなってしまっても生活できるのだろうか?膨大な排熱と爆発の恐怖に耐えながら水素を燃やして水を作れば、高価な一滴を味わうことができそうだ。

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暑すぎる水作り

もっとも軽い元素である水素は元素記号Hで表され、大気中では2つの原子が結びつきH2の形で存在する。これに酸素が結びつくとH2Oとなり水になる。酸素も大気中ではO2の状態なので、実際は2個の水素分子(=H×4)が1つの酸素分子(=O×2)と結びつき、2つの水分子ができあがる。

この方法ならCO2も発生しないので、環境に影響せずに水が作れる。

物質が酸素と結びつくことは酸化とも呼ばれ、金属がさびるのもこの現象だ。ただし水素や炭素のように燃えやすい物質の場合は燃焼と呼ばれる。ものを燃やすには酸素が必要、ではなく、酸素と結びつくことを燃えると表現するのが妥当だろう。

水素は危険なイメージが強いのは低い引火点のおかげで、-157℃でも火がつくため人間が活動できる環境ならおよそどこでも燃焼する。建物や容器に充満して爆発事故が起きるため火薬のような印象を持つかも知れないが、溶接機のように量をコントロールすれば炎となり爆発はしない。

つまりきちんと管理すれば、安全に水を作り出せるのだ。

ものが燃えれば熱を放つのが相場で、水素も例外ではない。身近な物質1gが燃えたときに発する燃焼熱(キロ・カロリー)を比較すると、

・水素 … 33.9kcal/g

・プロパン … 12.0 kcal/g

・ブタン … 11.8 kcal/g

で、中華料理店で定番の火力の強いプロパンや、ガスライターに使われるブタンと比べ、水素は1gあたり3倍もの熱を発する。成人が一日に必要とする食事2,000kcalに当てはめると、たった60gで足りる計算だ。

すごいぞ水素。ぜひとも非常食になってくれ。

問題は熱の処理だ。1calは1gの水の温度を1℃上げるエネルギーに等しいので、水素1gを燃焼させ、その熱がロスなく利用できたとすると、20℃・423cc水を沸騰させることができる。300リットルのお風呂なら、約177gの水素で20℃から40℃に沸かせるパワーを持っている。

肝心の水は、どれぐらい作れるのだろうか? 原子の重さを比べると酸素は水素の16倍ほどあるので、水素原子(H)を1とすれば水分子(H2O)は18となり、大気中の水素分子(H2)の9倍の重さの水が作れることになる。

成人が一日に必要な水は2.5リットル、つまり2.5kgなので約278gを燃やせば手に入るのだが、発熱量はお風呂1.56杯分に相当する。4人家族なら毎日6回も風呂焚きをするのと同じだから、暑さに耐えられるかが焦点となる。

かえって水不足を増長させているような気がするのは私だけだろうか。

高価すぎる水

コストも忘れてはいけない。大気中の水素を取り出すのは家庭では困難なので、水素は購入することにしよう。工業用の水素ボンベは150気圧もかかっているので、むやみにバルブを開けると水素ボンベ・ロケットとなってしまい、爆発以前に危険すぎる。

そこで理科実験用のスプレー缶サイズの水素を利用することにしよう。ネットで調べると、5.8リットル、純度95%で、1,000円(税込)が相場だ。

5.8リットル×純度95%だから、純然たる水素は5.5リットルほどになる。途中式は省略するが、5.5リットルなら1気圧の状態でおよそ0.49gの水素分子に相当するので、作れる水は9倍の4.4gだ。標準的なペットボトルに合わせて500ml(およそ500g)を作るには、この水素ボンベなら114本必要となり、お代はしめて11万4千円也。

有名なシャンパン・ドンペリが750mlで10万円ぐらいだろうか、同じ量に揃えると17万オーバー、一日に必要な2.5リットルならおよそ57万円となり、銀座の高級クラブで派手に遊んだような気分になってきた。

高価すぎて飲むのももったいない。水素からの水作りは、究極のムダの美学のようだ。

(関口 寿/ガリレオワークス)

※この記事は2014年02月07日に公開されたものです

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