もしもボールを地球一周させるなら「第二宇宙速度を超えないスピードで投げる」

投げたボールが地球を一周し自分の後頭部に当たる。マンガでは古典的なシーンだが、実現可能なのか？

【もしも人工肉を作るなら「脂肪もおいしさの決め手」】

もしも地球を一周するボールを投げたらどうなるのか？　大リーガーをしのぐ強肩、音速をはるかに超える火の玉をはじき返す石頭があっても、地球の大気がジャマになりそうだ。

マッハ23のストライク

水を入れたバケツを振り回し、逆さになってもこぼれない実験をした方は多いだろう。高速で回したバケツには遠心力が働き、内容物が底に押し付けられるからだ。コインに糸をつけ振り回しても同じように遠心力が働き、水平/垂直どちらに振り回してもきれいな円を描く。

振り回したコインは、糸から手を放すとまっすぐ飛んで行ってしまう。これも当たり前だが少し疑問が残る。今まで円を描いたのに、コインなぜ円軌道で飛ばないのだろうか。これはハンマー投げも同じで、回転した選手が手を放すとハンマーは曲がらずに飛ぶ。

逆回転しても結果は同じだ。

これは遠心力の逆の作用をする向心(こうしん)力によるもので、円軌道を描く物体には、進行方向/外向きに加え、軌道の中心に向うための向心力が必要だ。クルマはハンドルをきらないとカーブが曲がれないのと同様に、曲線軌道を描くためには物体は進行方向を変え続ける必要があり、これを向心力が担っている。

コインやハンマーが曲がらずに飛ぶのは、糸が放され向心力を失うからだ。

宇宙船や人工衛星も同様で、軌道を周回するためには進行方向だけでなく、遠心力、向心力の3つが必要で、天体の重力が向心力となるので周回できるのだ。天体の重力と質量が大きく、半径が小さいほど高速が求められ、ケプラーによって3つの速度が示されている。

・第一宇宙速度　…　地表に落ちずに地球を周回できる速度　…　秒速7.9km

・第二宇宙速度　…　地球の重力を振り切って宇宙に飛び出す速度　…　秒速11.2km

・第三宇宙速度　…　太陽系外に飛び出す速度　…　秒速16.7km

投げたボールが地球を一周し自分の後頭部に直撃するためには、地表に落ちず宇宙へ飛び出さない7.9～11.2km/秒が必要だ。7.9km/秒=時速28,440km=マッハ23.2だから、人知を超えた強肩が求められる。

ライフル銃・M16の初速が秒速1,000m(マッハ3弱)ほどとだから、投げたボールは兵器を超える。デッドボールは厳禁だ。

大気をなくせ！

赤道上は一周およそ4万kmとなり、第一宇宙速度で進むボールは約84.5分で出発地点に戻ってくる計算だが、問題が2つ残る。空気抵抗でボールが減速することと、ボールが燃え尽きずに残っているかだ。

速度の問題は初速を上げてカバーできるが、第二宇宙速度を超えると宇宙に飛び出してしまうので、秒速11.2kmが上限だ。そこで初速11.2km/秒、終端速度を7.9km/秒で投げられたとすると、およそ69.9分で地球を一周する。

肝心の減速率は1秒ごとに秒速0.78mと誤差程度しか許されないので、空気抵抗を考えるとかなり非現実的だ。

熱はどうか？ボールは進行方向の空気を圧縮するため断熱圧縮で熱を発する。高速になるほど顕著で、マッハ20ほどで再突入するスペースシャトルは、大気の希薄な高高度にも関わらず約1,400℃にも達するので、少なくともこの温度に耐えられるボールを作らなければならない。

平成25年版の理科年表によると、炭化タンタルの融点は3,880℃、タングステンでも3,407℃なので、これなら何とかなりそうだ。硬式野球のボールと同じサイズにすると体積は67.13立方cm、炭化タンタルなら1,292g、タングステンでも933gとなり、硬球の6.4～8.9倍重くなってしまうが、あとは腕力にものを言わせて初速11.2km(=マッハ32.9)で投げるだけだ。

あとはボールが溶けずに届くことを祈るだけだ。空気抵抗は速度の2乗に比例するので、スペースシャトルの2.7倍もの抵抗を受けるのだが、空気密度、抵抗、温度の関係をはっきり示す資料に出会えなかった。単純計算でも1,400℃×2.7倍=3,788℃となりタングステンはすでにNG、空気密度を考慮すると炭化タンタルでも危うい。

初速は腕力次第だが、まずは地球の大気を無くすことが先決のようだ。

まとめ

1908年に起きたツングースカ大爆発の原因は隕石だったと報じられた。氷が主成分だったため105年間も証拠が見つからなかったという。

氷のボールなら地球を一周できるのか？はまたの機会に検証しよう。

(関口　寿/ガリレオワークス)

※この記事は2014年02月07日に公開されたものです