お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。

もしも水面を歩くなら「150km/時で走る」

夏真っ盛りとなり、海もプールも連日大賑わいだ。子供のころ、浮き輪やゴムボートの上にどれだけ立っていられるか競うのが定番だったが、今でもそんな遊びは流行っているのだろうか。

【黒目を10%ほど大きくすると魅力的に見える理由】

忍者は水の上を歩くというが本当なのか? 水に浮かせたシートの上を走る、浮力の大きい下駄をはくなどは、バラエティ番組でよく見かける方法だが失敗率が高い。確実に水の上を渡るなら、スピードにものを言わせたハイドロプレーニング現象を利用するのが良さそうだ。

沈まないと浮かない?

人間が水上を歩くためには、比重と重心を考慮しなければならない。個人差があるものの比重はおおむね0.9~1.1程度なので、浮力によって浮く人もいる。ただし、浮力は押しのけられた水の体積に比例するので、水に沈んだ部分がない限り発生しない。

比重0.9は氷とほぼ同じ状態なので、全体の11分の10が水中に、浮いている部分は11分の1程度に過ぎない。つまり、比重の小さい人が垂直に立った状態で水に入っても、水面に出るのは顔ぐらいとなり、とてもではないが歩くと呼べる状態にはならないのだ。

それでは発泡スチロールなどで作った「浮く靴」をはいたらどうなるのか?軽さ/強度/値段から、スタイロフォームの名で知られる住宅用の断熱材で作ってみることにしよう。比重は0.03で水よりも圧倒的に軽く、しかも発泡スチロールよりも砕けにくいので、強度も期待できる。

水の上を歩くためには体重66.5kg+フロートの重さ分の浮力が必要で、何cm沈むかによってフロートの面積が決まる。

沈む深さと面積、フロートを円形にした場合の半径を計算すると、

・3cm … 22,852平方cm … 85.3cm

・5cm … 13,711平方cm … 66.1cm

・10cm … 6,856平方cm … 46.7cm

沈みが大きいほどフロートの面積は小さくできるのだが、10cmも沈むのでは沼地のように歩きにくい。慣れれば5cmぐらいはOKだろうか、それでも片足に直径130cmのフロートをはくことになり、長い足と柔軟な股関節が要求される。

バランス感覚に長けた人なら、フロートをはいて立っていられるかも知れないが、人間の重心は非常に高い位置にあるため歩くのは至難のわざだ。頭や胴体が重いのが理由で、直立不動の姿勢でも地面から身長のおよそ55%、歩行時は62%、腕を振って走ろうものなら67%とどんどん高くなってしまう。

1歩振りだすたびに片足で支えることになるから、ニンニンニン!と走るには体操選手並みの平衡感覚と身体能力が必要だ。

時速150kmで走れ!

確実に水上を渡るなら、ハイドロプレーニング現象がお勧めだ。これは雨の日の高速道路で起きやすく、タイヤが水に浮いてしまいハンドルもブレーキも効かなくなる危険な現象だ。タイヤメーカーの資料では、タイヤの溝が浅く、スピードが速いほど起きやすいとされ、すり減って溝が浅いタイヤは時速80kmでほとんど浮いた状態に、溝の深い新品タイヤでも100km/時を超えると起きやすいという。

つまりスピードが速ければ、接地面に関わらず浮いてしまうことを意味しているのだ。

それでは充分に加速してから水上に出れば、沈まずに渡ることが可能なのか? 答えはYesで、80km/時以上に加速していれば、池や湖を沈まずに渡ることができる。海外TV番組で、実際にバギーや4輪駆動車で検証したところ、どちらも数十mを無事渡りきれた。

クルマよりもタイヤが細いバイクでも、時速130kmなら90mも進むことができたのだ。

この原理を人間に当てはめるなら、陸上で130km/時以上に加速しておけば、成功の可能性大だ。足の幅を考慮するなら、バイクよりも速い150km/時ぐらいが目標だろうか。ただし、タイヤの回転も浮力発生に一役買っているので、水上でも走り続けなければならない。

つまづいたり水面が乱れると、あっという間に沈没することになる。いくら水面とはいえ、150km/時で転げ回ったら痛いでは済まないので、試すなら無風の日がお勧めだ。

まとめ

忍者がはいたと言われる水蜘蛛(みずぐも)は、直径60cmほどの円形の木の板で、水上を歩くイメージが強いものの、本当は泥の上を歩くための道具だそうだ。

たとえ忍者でも水上歩行はムリだったのだから、シミュレーションもさほど間違っていないだろう。そう思いほっとすると同時に、夢が一つ失われたようで寂しい気分だ。

(関口 寿/ガリレオワークス)

※この記事は2014年02月05日に公開されたものです

SHARE