バナナの皮はどのくらい滑りやすいのか?「雪や氷に匹敵する」
落ちていたバナナの皮を踏んで転ぶ。古典的な映画やドラマで数多く採用されているこのシーンこそ、ギャグの神髄と呼ぶべきだ。
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バナナの皮ぐらいで転ぶはずがない!と思っていたが、驚くことにスキーよりも滑りやすい。新鮮なバナナの皮をきれいにならべておけば、お約束の転倒シーンが再現できそうだ。
雪より滑るバナナ
バナナで転ぶネタの起源は、喜劇王・チャップリンの「アルコール先生海水浴の巻」で世に広まったとする説が強い。セリフを使わないサイレント映画だけに、説明不要の一発ギャグが豊富に盛り込まれ、バナナで転ぶシーンは当時も人気を博したに違いない。
物体同士がこすれ合うと摩擦が起きるのはご存じの通りで、この大きさは0から1の摩擦係数であらわされる。例えば100kgの物体を真上に持ち上げるには100kg分の力、つまり100kgf(キログラム重)が必要だが、滑らせた場合はもっと少ない力で移動できる。
水平方向に動かす力=重量×摩擦係数となるので、重くて持ち上がらないタンスも、床の上を滑らせれば簡単に動かすことができる。値が小さいほど滑りやすく、軽い力で物体を移動できるのだ。
機械工学便覧から、身近な物質の摩擦係数をあげると、
・鉄vs鉄 … 0.52
・レンガvsレンガ … 0.6~0.7
・ゴムvsゴム … 0.5
・鉄vs氷 … 0.027
・スキーvs雪(0℃) … 0.08
となり、雪の上でスキーをはいた状態なら、体重100kgの巨漢も8kg分の力で動かすことができる。
バナナの皮の摩擦係数はどのくらいなのか?そんな研究結果があるはずもないと思っていたところ、予想に反して大マジメなデータが存在した。日本トライボロジー学会の資料によると、床材リノリウムと靴底の間に挟んだバナナの皮の摩擦係数は、
・バナナなし … 0.357
・古いバナナ … 0.076~0.158
・新鮮なバナナ … 0.045~0.101
で、条件の良いバナナを選べばスキーより滑りやすいことが分かった。
ありがとうチャップリン。長年憧れ続けていたあのシーンが再現できそうだ。
滑って転んで大成功
バナナの皮はなぜ滑るのか? これは実と触れている内側によるもので、多量の糖分が含まれたヌルヌルが滑りやすさを生み出しているからだ。バナナの鮮度によって摩擦係数が異なるのも水分の差で、古くなると水分が減り、皮の内側のヌルヌル効果が低下してしまうためだ。
また、何回も踏むと摩擦が増えてしまうとのデータもあり、これも理由は同じだ。
確実に転ぶためには、靴底が床に触れてしまわないよう、なるべく広い面積に皮を敷き詰める必要がある。一般的には皮を3~4分割して食べ、残った皮は一端がつながった「タコさんウィンナー」状態になっているが、これでは靴底がヌルヌルに触れない部分が生まれてしまい効果が薄れてしまう。
きちんと切り離して面を揃え、きれいに敷き詰めておこう。
みごとに転ぶため3カ条は、
・新鮮なバナナを用意する
・靴底よりも広い面積に皮を敷き詰める
・一度踏んだ皮は再利用しない
で、これで雪や氷に匹敵する摩擦係数0.045の世界が味わる。
滑る場所を大股で歩くと転びやすいのは、重心が大きく移動するのが原因だから、逆に利用すればさらに転びやすくなる。歩幅を広く少し速足で歩きつつ、バナナに気づかないように振る舞うのがポイントだ。
いざバナナを踏む瞬間は、靴底が均等に触れるようにして、一気に全体重を預け、ステン!と転べば一件落着だ。
まとめ
古典ギャグに科学的根拠があると知り、胸のつかえが取れた。
本物のバナナで作ったバナナボートはボブスレー並みの速度が出るのだろうか。新たな疑問が生まれてしまった。
(関口 寿/ガリレオワークス)
※この記事は2014年01月31日に公開されたものです