宇宙は過去を見せてくれるタイムマシン―129億光年の彼方に存在する天体「ヒミコ」
過去にも未来にも自由自在に行くことができる夢の乗り物タイムマシン。このタイムマシンを使えば、時空間移動も簡単にできてしまいそうです。
でも実はそんなものが無くても、過去を見ることは意外と簡単にできるかもしれません。
「過去」を見る意外な方法とは?
それでは、タイムマシンを使わずに過去を見るにはどうしたらいいでしょう?
…その答えは「遠く」を見ることです。
例えば、太陽から届いている光は、およそ8分前に太陽から放たれたものです。光は一瞬で無限の距離を進んでいるように感じますが、実際には1秒間におよそ30万km(地球7周半の距離)しか進むことができません。
このように光が進むスピードは有限であり、その光が1年間に進むことができる距離を1光年と言います。つまり、私たちがいるこの地球から1光年離れたところにある天体を見たとき、今見えているその姿は1年前のものということになるわけです。
例えば、オリオン座の左上に赤く輝く1等星「ベテルギウス」は、およそ700光年離れたところにある天体ですから、今私たちが見ているその姿は700年前(=西暦1300年頃の鎌倉時代)のものです。
ひょっとすると、ベテルギウスはすでに爆発してしまった後で、もうこの宇宙には存在しないのでは…とも言われていますが、もしそうだとしても私たちがそれに気付くことができるのは爆発から700年もたってからということになります。
宇宙を観測するとき、遠くを見ることは過去を見ていることと同じだと言われますが、このようにより遠くを見ることで、より昔のことが分かるわけです。
昔の地球を見るには?
それでは、この話を応用して過去の地球の姿を見るにはどうしたらいいでしょうか?
たしかに皆さんは今地球にいますので、その過去の姿を見ることはできません。けれども、もし太陽の位置から地球を見たら、その姿はおよそ8分前の姿ということになります。
ちょっぴりフシギな感じがしませんか?
宇宙の歴史を語る「ヒミコ」
今から2000年ほど前、この日本には「邪馬台国(やまたいこく)」と呼ばれる国があったと言われています。その国を治めていた人物こそ女王「卑弥呼(ひみこ)」でした。
そして、その卑弥呼と同じ名前の天体が宇宙にも存在します。それは地球からおよそ129億光年の彼方に存在する天体「ヒミコ」です。
宇宙はその誕生とされる時点から138億年ほど経ったと考えられているため、地球から今現在見ることのできるヒミコの姿は、宇宙誕生からわずか(?)9億年後の宇宙の姿を示していることになります。
邪馬台国の女王・卑弥呼が古代日本を代表する王であったように、ヒミコは古代宇宙を代表する天体であるわけです。
ヒミコの謎を解き明かす
すばる望遠鏡によって2009年に発見されたヒミコですが、つい最近まで卑弥呼と同じようにその真の姿は謎に満ちていました。というのも、129億光年という気の遠くなるような距離にあり、その観測がほとんどできていなかったためです。
しかし、2013年の11月になって、ついにその正体が明らかになってきました。
それによると、ヒミコは3つの星の集まり(星団)とそれらを取り巻く水素ガスの雲から構成される銀河の子供(原始銀河)である可能性が高まったのです。
また、太陽の400億倍ほどの質量を持つと言われるヒミコは、同じ時期にできた他の天体と比べてはるかに大きいものです。
宇宙誕生から短い期間で、どのようにしてこんな巨大な天体が作られたのか…。この問題は、現代の宇宙論では解けない謎となっていますが、この成り立ちを調べることで、初期の宇宙がどのような状態だったのかがハッキリするかもしれません。
まとめ
遠くの天体から放たれる光は、長い年月をかけてようやく地球に辿り着きます。そのため、遠くを見ることができれば、過去を見ることができるわけです。
129億光年の彼方から届くヒミコの光によって、いつか古代宇宙の様子が解明される日がやって来るかもしれませんね。
(文/TERA)
著者プロフィール
TERA。小さい頃から自然科学に関心があり、それが高じて科学館の展示の解説員を務めた経験も持つ。現在は、天文に関するアプリケーションの作成や、科学系を中心としたコラムを執筆している。
※この記事は2014年01月28日に公開されたものです