太陽系最大級の海底火山「タム山塊」が噴火したら?
2013年9月、太陽系最大級の火山が発見された。どこか遠い天体の話かと思ったら、日本から1,600kmほどしか離れていない海底にあるというから、世の中は狭いものだ。
もしこの火山が噴火したらどうなるのか? 桜島の1万2千倍にも及ぶ体積だから、地球の破滅は確実かと思ったが、海水と水圧のおかげで新しいリゾート地が生まれるぐらいの意外な結果になりそうだ。
東京ドーム1億個の山
発見された火山はタム山塊(さんかい)と呼ばれ、日本から東へ1,600kmほど離れた太平洋の海底にある。およそ31万平方kmで、日本全土の97%、北海道3.7個分もの巨大な面積を誇るものの、高さは3,500m程度しかない。
数値だけではイメージがわかないので富士山と比較してみよう。国土交通省の資料によると、富士山の裾野面積は1,200平方km、標高は3.7kmなので、円すい型と仮定すると裾野の半径は約19.5kmとなり、斜面の勾配は約11度となる。
対してタム山塊は半径314kmに対し高さ3.5kmしかないので、傾斜は0.6度ほどにしかならない。太陽系最大級の名から、そびえたつ急しゅんな山を想像していたが、なだらかな登りが続く巨大な丘と呼んだ方が良さそうだ。
この火山が噴火したら、どれだけのエネルギーを吐き出すのだろうか? 1914年に起きた桜島の大正大噴火と比較してみよう。これも国土交通省の資料で確認すると、桜島はおもに北岳、中岳、南岳の3つから成り立ち、面積は77平方km、標高は最高峰である北岳の1,117mとされている。
山なのに桜島とはこれいかに?と思うのも当然で、かつては火山島だったのだが、この噴火で流れ出た溶岩によって大隅半島と陸続きになったため、島にみえないだけの話だ。
桜島も同様に円すいとして計算すると、体積は28.67立方kmで、東京ドームおよそ2万3千個に匹敵する。これをもとに、体積と噴火エネルギーが比例すると仮定して計算してみよう。大正大噴火の噴火エネルギーは10の18~19乗J(ジュール)、すなわち百京から千京Jと想定されている。
爆薬で知られるTNTに換算すると、破格の24億トン相当となる。同様にタム山塊の体積を求めると、東京ドームおよそ1億杯、桜島の約12,615倍、TNT換算では30兆トン分となる。
地震エネルギーであるマグニチュードに換算すると、タム山塊のエネルギーはおよそM12.2になるので、噴火せずおとなしくしていて欲しい。
新たなリゾート地の誕生?
タム山塊が噴火したら、大惨事が起きるのか? 噴火エネルギーだけをみれば確かにその可能性が高いが、火山爆発指数を考えると意外と小規模で納まるかも知れない。火山爆発指数はVEIと呼ばれ、噴出された物体の量で0から8に分類される。
平成25年・理科年表によると、0は非爆発的噴火と呼ばれ、噴煙は火口から100mほどしか上らないが、4の「大規模」は海面上25km程度まで吹き上がるレベルとされ、対流圏を超え成層圏にも影響を与えるとされている。
ただし、同じ規模の噴火でも、噴き出す量が少なければVEIは小さくなるので、地球に与える影響も当然小さくなる。矛盾に思えるかも知れないが、タム山塊の火口は深度2,000mの深海にあるため、地上に噴き出す物体が減るのだ。
深度2,000mではおよそ20気圧がかかり、噴出を妨げるフタのような役割を果たす。また、高温の噴火物もすぐに冷やされ、チューブのような枕(ちん)状溶岩に変わる。膨大な熱エネルギーで水蒸気爆発は避けられないだろうが、海面上に噴石や火山灰を吹きだすよりも、冷えた溶岩を積もらせながら島ができると考えるのが妥当だ。
ユネスコの世界遺産に登録されたアイスランドのスルツェイ島は、海底火山の噴火によってできた島だ。1963年から海底火山が火山島を形成し、その後は小さな噴火が間欠的に続くストロンボリ式噴火を繰り返し、1967年に活動を停止した。
VEIも3と小さく、新たな島が生まれたわりには穏やかだったのも、海の恩恵と言えるだろう。
まとめ
太陽系最大級の火山と聞きかなりビビったが、海底だけに噴火しても怖がらずに済みそうだ。
それよりも、新たな島の誕生に期待しよう。わずか1,600kmの距離を考えると、気軽にいけるリゾート地になるかも知れないから。
(関口 寿/ガリレオワークス)
※この記事は2014年01月26日に公開されたものです