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音速を超えた物体や周りの空気はどうなっているのか?

2012年10月、オーストリアのバウムガートナー氏が39,000mからのスカイダイビングに成功し、最高高度記録が塗り替えられた。パラシュートを開くまでの4分19秒間でマッハ1.24に達し、落下速度も史上最高だ。

生身の人間は音速を超えることができるのだろうか? 圧縮された空気が衝撃波を生み出し身体を粉砕しようとする。たとえ自分は無傷でも、衝撃波が作り出したソニックブームで、地上にダメージを与えることになりそうだ。

音の壁?空気の壁?

航空機やロケットに用いられるマッハは音速の何倍かを表す単位で、マッハ1なら音速と同じ、マッハ2は音の2倍を意味する。厳密には、

・マッハ0.8以下 … 亜(あ)音速

・マッハ0.8~1.2 … 遷(せん)音速

・マッハ1.2以上 … 超音速

と分類される。さらに、音速は空気の密度や温度によって変化し、海面上の標準大気ではおよそ340m/秒だが、高度10kmでは300m/秒程度に低下する。同じマッハ1なら高高度よりも海面すれすれの方が高速なのだ。

音速を超える際、物体に大きな力が加わるのはなぜか?これは空気が伸び縮みしやすいことが原因で、物体前面の空気が圧縮され大きな抵抗となる。飛行速度と比べて空気の流れが遅いため、横や後ろに流しきれずに、前面に溜まってしまう。

その空気のかたまりに、さらに高速の空気がぶつかるため衝撃波が発生するのだ。現代では常識と言える話ながらも、プロペラ機が主流の時代ははっきりした原因が分からず、高速になると機体が分解するなどの事故が起きたため、音の壁(サウンド・バリアー)が発生すると考えられていた。

1947年と少々古い資料だが、NASAの前身であるアメリカ航空諮問委員会(NACA)が、飛行機の速度と空気抵抗の関係を調べたデータがあった。それによるとマッハ0.7ぐらいまでは抵抗は約0.1で一定、0.75になると0.25近くに、0.8にまで達すると0.4ほどと、マッハ0.7を境に二次曲線的に跳ね上がる。

このグラフを見て、音速に近づくにつれ抵抗は無限大になると考え、音速は超えられないという説もあった。

伸び縮みしやすい空気の性質は、機体後方でもやっかいな現象を起こす。部分的に流れが速い場所が発生してしまうのだ。マッハ0.5を超えると、機体のまわりを流れる空気に、音速に近い部分ができやすくなり、これもまた衝撃波を生み出す。

衝撃波は気流を剥(はく)離させ、機体や尾翼が振動するバフェッティングを起こし、最悪の場合は飛行機を分解してしまう。超音速機が頑丈に作られ、翼が後退しているのも分解しないための工夫なのだ。

バウムガートナー氏は、宇宙服のような与圧服を着ていたため、ダメージを受けずに済んだようだが、衝撃波の影響を考えると手足を広げず、足か頭から一文字に進むのが良さそうだ。

音とともに去りぬ

身の安全もさることながら、周囲の心配もしなければならない。地上の建物の窓ガラスを割るほどの衝撃波・ソニックブームを生み出すからだ。

ソニックブームは、飛行物体の先頭で生じる衝撃波、尾翼で生じる衝撃波の2つが原因で、地上には2回の爆発音として伝わる。ヘリコプターやセスナはプロペラが回っている音が聞こえるのに対し、ソニックブームが爆発音と表現されるのは、正体が音速を超えた衝撃波だから、何の音かはっきり聞き取れないからだ。

衝撃波に加えて、エンジンの騒音も重大な問題となる。音速の飛行機は、過去に放った騒音とともに進むからだ。音の大きさは距離の2乗に反比例して小さくなるので、過去に放たれた音ほど小さくなるものの、飛行機の放つ「今の音」と「昔の音」が同時に到着するため、やかましさは数段アップする。

衝撃波で窓ガラスを割られ、おまけに騒音では迷惑すぎる。もしも音速超えを目指すなら、バウムガートナー氏と同様に自由落下で体験するのが、周りに迷惑かけずに済みそうだ。

まとめ

1976年に運用開始された超音速旅客機・コンコルドは、最高速度マッハ2.0を誇る高速巡航が売りだったものの、地上にもたらすソニックブームが原因で、人の住んでいない海上でしか超音速飛行が許可されなかった。

現在、低ソニックブームの航空機をJAXAが開発中と聞く。完成したら、日本の国内線に超音速機が登場するのか楽しみだ。

(関口 寿/ガリレオワークス)

※この記事は2014年01月05日に公開されたものです

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