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インポスター症候群とは? 要因や特徴チェックリスト&克服するヒント

笹氣健治(心理カウンセラー)

インポスター症候群とは、自分の達成を内面的に肯定できず、自己否定や過小評価をしてしまう傾向のこと。そこで今回は心理カウンセラーの笹氣健治さんに、インポスター症候群になる要因やチェックリスト、克服するためのヒントを教えてもらいました。

期待されることがプレッシャー。

「私なんかまだまだ」と常に思っている。

うまくいっていても、「いつかきっと失敗する」という不安がある。

異性から好意を寄せられても、「私はそんなに良い人ではない」と素直に受け止められない。

もしあなたがこういった傾向に当てはまるとしたら、もしかすると「インポスター症候群」かもしれません。今回はインポスター症候群について紹介します。

インポスター症候群とは?

実は筆者も、今回マイナビウーマン編集部から執筆の依頼を受けるまで、巷で「インポスター症候群」と言われるものがあることを知りませんでした。

また、日本の心理臨床の第一人者の1人でもある筆者のスーパーバイザーにも確認したところ、「聞いたことがない」と言われました。

調べたところ、国際的な精神疾患診断基準『DSM-5』(アメリカ精神医学会編)においてインポスター症候群に関する言及はありません。

つまり、インポスター症候群は精神医学で正式に扱われる症状ではなく、ローカルな分析ということです。

「インポスター症候群」と命名した心理学者のポーリン・R・クランス著『インポスター症候群』の日本語訳が絶版であったため、一般的に多くの人が物事を調べる際に用いるサイト、Wikipediaの解説を引用することにしました。

Wikipediaによると、インポスター症候群とは、「自分の達成を内面的に肯定できない傾向」のことであり、「社会的に成功した人たちの中に多く見られる」とあります。

インポスターとは、英語で「ペテン師」「詐欺師」の意味。

つまり、社会的に成功していて、周りからは優秀だと思われているにもかかわらず、「本当の自分はそんなに優秀な人間ではない。自分は周りをだましている詐欺師だ」といった感覚を持っている、ということです。

あなたは当てはまる? インポスター症候群の特徴(チェックリスト付き)

「私は成功者でも何でもない。だから、インポスター症候群とは関係ない」と思われるかもしれませんが、あなたも無関係ではないかもしれません。

例えば、以下の5つの特徴に思い当たる節はないでしょうか?

・周囲から期待されることがプレッシャーで、「期待している」と言われると、内心は「私には無理」と思って逃げ出したくなる

・優秀な成績を上げて「すごいね」「さすがだね」と褒められると素直に受け止められず、「たまたまうまくいっただけ」「私なんかまだまだ」「私より実力がある人はいっぱいいる」と思ってしまう

・「本当によく頑張ってるね」と言われても、「私だけじゃなく、みんなだって同じように努力してる」と思ってしまう。謙遜しているわけではなく、心底そう思っている

・仕事やプライベートがうまくいっている時でも、「いつかきっと失敗するに違いない」と思っている。「いつかボロが出て、本当は自分がダメな人間だということがばれてしまい、周りからがっかりされる」といったような漠然とした不安を常に抱えている

・異性から好意を寄せられた時、「私はそんなに良い人じゃないのに。本当の私を知ったら、きっとがっかりされる」と思ってしまう。「こんな私のことなんか誰も好きになるはずがない」と心のどこかで思っている

もし、1つでも当てはまるとしたら、あなたはきっと真面目で勤勉、努力家で向上心が強い人物である一方で、常に自分が何かに駆り立てられているような感覚があるのではないでしょうか?

仕事や自分磨きに手を抜かず、常に頑張り続ける。

でも、ふとした時に「疲れたな……」「私は何をやってるんだろう……」と感じて虚しい気持ちになってしまったり、「私には何もない」「私はつまらない人間だ」といった感情が湧き上がったりしてしまうことがあるかもしれません。

あるいは、ダメな自分が周りにばれないように、新しいことにチャレンジするのをためらう。

せっかく良い話をもらっても尻込みする自分がいて、自分で自分のことが嫌になる……なんてことも、あるかもしれませんね。

ここまで読んできて「もしかして私もインポスター症候群?」と思った人のために、これからいったいどうすればいいのか、順を追って説明していきたいと思います。

インポスター症候群になってしまう要因

インポスター症候群になってしまう要因について理解しておくことが役に立ちます。

なお、要因については、精神医学での正式な分析がないため、筆者の知識と経験から妥当だと考えたもの紹介します。

うまくいったことを素直に受け止められない

インポスター症候群に当てはまる人の一番の特徴は、自分自身を肯定的に捉えることができない点です。

何かうまくいったとしても、「でも、私には足りないところがある」「もっとうまくやっている人がいる」「今回はたまたまうまくいっただけ」といったように考えて、自分がうまくできたことを素直に受け止められません。

意地でも自分を肯定しないようにしているかのように、とにかく自分を肯定しないのです。

親から認められなかった幼少期

では、なぜ自分を肯定することができないのでしょうか?

その要因として考えられるのが、幼少期の体験です。

例えば、ある少女が親からよく怒られて育てられたとしましょう。

まだ子どもなのでうまくできないことがあって当然なのですが、親自身が優秀であったり、我が子への期待が大きかったりすると、何かミスするたびに、ついつい「あなたはダメな子ね」と言ってしまいます。

場合によっては、兄弟姉妹と比較して「ダメな子扱い」されることもあるかもしれません。

そうやって、幾度となくダメな子だと言われ続けて育つと、その子の心の中に「私ってダメな子なんだ」という自己認識が刷り込まれていきます。

小さな子どもにとって、親の言うことは絶対です。親から「あなたはダメな子ね」と言われれば、「そうなんだ。私はダメな子なんだ」と無自覚で受け止めてしまうのは仕方がないことだと言えます。

また、何かうまくできた時に「よくやったね」と褒められる代わりに、「もっと頑張れ」「次もうまくやれ」といったニュアンスのことを言われ続けた場合も、否定的な自己認識が刷り込まれることがあります。

「できて当たり前なんだ。これくらいで満足してはいけないんだ」と常に思うようになり、自分で自分を肯定的に捉えられなくなってしまうのです。

親が意図するかしないかにかかわらず、親の言動を元に、子どもは自分の考え方のパターンを生み出していきます。

自分自身を肯定的に捉えることができないのも、そうやって生み出されたパターンの1つだと言えます。そして、このようなパターンが、インポスター症候群につながっていくと考えられます。

褒められても「自己否定できる要素」を見つけようとしてしまう

自分自身を肯定的に捉えることができないために、どんなに良い成績を上げても、「私は成功するような人間ではない」と反射的に考えてしまう。

周りから褒められると、「私はみんなから褒められるような人間ではない」と、謙遜ではなく自分を卑下してしまう。

成功しても、褒められても、無意識のうちに自己否定できる要素を何とか見つけ出して、自分を肯定的に捉えないようにする、といったことが起きるのです。

自分を肯定的に捉えられないと、焦燥感・倦怠感などが生じやすくなり、精神衛生上良くありません。さらに言えば、親密な人間関係がなかなかつくれない、ということにもなります。

そこで最後に、インポスター症候群を克服するにはどうすればいいのかについて、簡単に解説したいと思います。

インポスター症候群を克服するヒント

インポスター症候群の人の課題は、自分自身を肯定的に捉えられるようになることです。

自分に関する否定的要素を探そうとせず、自分の良いところを素直に受け入れるようになることを目指すのです。

それができるようになるには具体的にどんなことをすればいいか、5つのステップでご紹介しますので、ぜひ1つずつ取り組んでみてください。

ステップ1:自分の考え方のパターンを自覚する

これまでは、自分自身を肯定的に捉えることを避けてきました。そのパターンを自分が持っていることを、まず自覚しましょう。

自分で自分のことが分かっていないと、自分を変えていくことができませんので、ここがスタートになります。

ステップ2:自分のパターンを否定しない

自分のパターンを自覚すると、「私は、私自身を肯定的に捉えることができない。これは良くないことだ」と、つい考えてしまうかもしれませんが、そうやって自分を評価することは、いったんやめておきましょう。

「肯定的に捉える」というのは、「これは良いことだ」と評価することではありません。「ありのままに受け止める」と言い換えた方が、分かりやすいかもしれません。

例えば、身長160センチの人が、自分は背が高いとか低いとか考えるのは、何かを基準にしたり誰かと比較したりしてのことであり、「私の身長は160センチである」と客観的事実として捉えるのと同じように、「私には私自身を肯定的に捉えないパターンがある」という事実を、事実として認識するのです。

自分のパターンを自覚できたとしても、それが良いとか悪いと評価することは、今はやめましょう。

ステップ3:「いつでも自分次第で自分を変えられる」という事実に気付く

「自分を肯定的に捉えられないパターンは、自分がまだ小さい子どもの頃に自ら生み出した」と前述しましたが、そのパターンを自分が選択し続けてきた、と考えることができます。

「今まで生きてきた中で、自分を肯定的に捉えるパターンを身に付けられる可能性があったかもしれないのに、それでもまだ同じパターンを選択しているのは、他ならない自分自身である」ということに気付きましょう。

そこに気が付くと、「いつでも自分次第で自分を変えられる」という事実にも気付けるはずです。変えられないのではなく、これまで自分を変えようとしていなかっただけ。

自分のパターンを変えるかどうかは自分次第、ということです。

ステップ4:できるところから少しずつ肯定する

これまで長い間、自分を肯定しないように生きてきたわけですから、無理して一気に変えようとはしないで、少しずつ肯定できるようになることを目指しましょう。

比較的簡単に肯定できそうなものとして、「自分自身の頑張りや努力」があります。

今まで自分なりに頑張ってきたのではないかと思いますが、どうでしょうか? 全く、少しも頑張ってこなかった、などとは思いませんよね?

もちろん、他人と比較する必要はありません。自分なりに頑張ってきたかどうか、でいいのです。自問自答してみたら、きっと「イエス」と答えるのではないでしょうか。

つまり、「自分なりに頑張ってきた」事実は認めることができた、ということです。これが、「自分をありのままに受け止める」ということであり、「自分を肯定的に捉える」ということです。

こうやって考えてみて、「少しは自分自身を肯定的に捉えてもいいのかもしれない」と思えたら、しめたもの。自己否定のパターンを少し変えることができた、そんな自分をまた肯定してみましょう。

お気付きかと思いますが、自分を肯定するのは、自分を甘やかすことでも、慢心することでもありません。事実をありのままに受け止めればいいだけのことです。

でも、今はまだ居心地の悪さを感じるかもしれません。そんな自分も肯定してみましょう。

「まだ慣れていないのだから、居心地の悪さを感じるのは当然のことだ」「私は成長のために小さいけど確実な一歩を踏み出せた」と、自分をねぎらってください。

このようにして、少しずつ自分自身を肯定することに慣れていきましょう。

ステップ5:「うまくできなくてもいい」と開き直る

インポスター症候群の人は、「周りの期待に応えるために成功し続けなければならない」という思い込みにとらわれています。

「期待に応えられないと、自分はダメ人間だということがばれてしまう」と恐れているのですが、この窮屈なプレッシャーから解放されるには、開き直ることが一番です。

「うまくできなくてもいい」「期待に応えられなくてもいい」と考えを切り替えることができれば、肩の荷が下りて楽な気持ちになれるはずです。

そして、「常に100点満点じゃなくてもいいんだ。結果よりも一生懸命やることが大事だ」と、心の中で日々繰り返し唱えてみてください。

すると、「私はなんて窮屈な考え方に縛られていたんだろう」と、いつか気付く時がくるかもしれません。

少しくらい手を抜いたって、それなりの結果が残せるくらいの実力を持ち合わせていると思います。もしも、思ったほどうまくできなかったとしても、その時はその時。挽回のチャンスは今後いくらでもあるでしょう。

「人生なるようになる。そう開き直ることができたら、私って最強だわ」と、肩の力を抜きながら、ふっと軽く笑い飛ばせるようになれたらすてきですね。

うまくできなくたって、自分らしい力が発揮できればそれで良い

筆者の解釈では、幼少期の体験などをきっかけに、うまくいったことを素直に認められなかったり、無意識のうちに自己否定できる要素を見つけ出そうとしたりすることが、インポスター症候群の要因だと考えます。

自分自身を肯定的に捉えられないでいると、チャンスが巡ってきても、つい尻込みしてしまい、次の活躍のステージに進めません。

そういう人は、「うまくできなくてもいいんだ」と開き直ると、楽な気持ちで自分らしく実力を発揮できるようになります。

自分を変えるかどうかは自分次第。過去の自分を変えて、新しい自分で生きてみるのもいいかもしれませんよ。

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(笹氣健治)

※画像はイメージです

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