「逝去」と「死去」の違いは? 意味や使い分け・言い換え表現を解説
「逝去」と「死去」の言葉には、どんな違いがあるか知っていますか? 今回はライティングコーチの前田めぐるさんに、「逝去」と「死去」の意味の違いや使い分け、言い換え表現を解説してもらいました。
「冠婚葬祭」の中で、3つ目の「葬」は、故人にとって人生最後の儀式です。
生きている限り、誰しもいつかは死が訪れます。仕事でお世話になった人が亡くなった時、身内を亡くした時――大切な人とのお別れの場面では、特に言葉にも配慮しつつ、心を込めてお見送りをしたいものですね。
今回は「逝去」という言葉について、解説します。
「逝去」の意味
「死去」と「逝去」。どちらも、人の死を意味する言葉ですが、微妙に違いがあります。
まず、「ご逝去されました」と使われる「逝去」について調べてみましょう。
せいきょ【逝去】
他人の死の尊敬語。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)
ここでいう他人とは、「身内以外」のことです。
「逝去」とは、身内以外の人が亡くなった時、敬意を込めて使う言葉。このままでも尊敬語ですが、通常は「ご」をつけて使います。
「逝去」と「死去」はどう違う? 使い分けは?(例文付き)
さて、次に「逝去」と「死去」はどう違うのか、調べてみましょう。
「逝去」は身内以外の人が亡くなった時の言い方
まずは「死去」の意味を確認しましょう。
しきょ【死去】
人が死ぬこと。死亡。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)
「逝去」と違い、「死去」という言葉には、敬意は含まれていないことが分かります。
以上のことから、「死去」は、人が死ぬという事実そのものを示しているのに対し、「逝去」は身内以外の故人の「死去」について敬意を込めた表現です。
つまり、「逝去」は「死去」の尊敬語で、身内の死については使いません。
話し手や書き手から見て目上の人が亡くなった場合に、次の例文のように使います。
知人の父親へのお悔やみの場合
・お父様のご逝去を心よりお悔やみ申し上げます
上司の家族の訃報を社員に伝える場合
・部長の奥様がご逝去されました。通夜・告別式は下記の通りです
「死去」は自分の家族や身内が亡くなった時の言い方
自分の家族や身内が亡くなった時には、「逝去」ではなく「死去」を使います。
また、社内の人物が亡くなった時にも、社外の相手に対して「死去」を使います。
ただし、実際には「死去」という言葉が直接的であるため、次のような婉曲的な表現が使われる場合がほとんどです。
・亡くなりました
・永眠いたしました
・他界いたしました
・息を引き取りました
・天に召されました
・瞑目(めいもく)いたしました
「逝去」の類語、言い換えは?
「逝去」の他にも、故人の死について敬意を込めた言い方があります。
また、身内の場合と目上の人の場合、両方に使える言葉もあります。
この機会にチェックしておきましょう。
「息を引き取られました」
「息が絶える」という意味です。
身内の死については「息を引き取りました」と使います。
闘病中であったり、誰かが看病していたりした人が亡くなった時によく使われる言い方です。
例文
・先ほど、先生の奥様からお電話があり、療養されていた病院で今朝方、息を引き取られたそうです
「お亡くなりになりました」
「亡くなる」は、故人への敬意を込めた言葉です。
尊敬語なので、身内に使うべきではないという声も聞かれますが、「死ぬ」の婉曲的な表現として、他人や身内に関係なく使われています。一般的に、自分よりも年長の故人に対して使います。
目上の人への尊敬表現としては「亡くなられました」も使います。「お亡くなりになられました」は二重敬語で誤りです。
例文
・豪雨災害で大勢の人がお亡くなりになりました
「他界なさいました」
「他界」は「あの世に行く」という意味です。
「他界されました」と使う場合には、「ご」は付けません。
また、身内の死については「他界いたしました」と使います。
例文
・闘病中でいらした○○さんが(ご)他界なさいました
「永眠なさいました」
「永久に眠る」という意味で、すでに敬意を含んでいる言葉なので「ご」がなくても使えます。
「永眠されました」とも使うことができますが、この場合には「ご」を付けません。
また、身内の死については「永眠いたしました」と使います。
例文
・このたび、Y社の〇〇会長が(ご)永眠なさいました
「召天(しょうてん)なさいました」
天上界に昇ることから、「死」を意味する言葉です。
本来はキリスト教信徒の死について使います。
身内の場合には「召天いたしました」と使います。
例文
・明け方、先生は召天されました
「身罷(みまか)られました」
身が現世からあの世へ罷り去る(まかりさる)ことで、転じて「死」を意味しています。
「罷」は「まか(る)、や(める)、ヒ」の読みがあり、「退出する」という意味です。
身内の場合には「身罷りました」と使います。
例文
・尊敬していた方なので、身罷られる前にお会いしてお礼を申し上げたかったと、今でも悔いることがあります
「崩御(ほうぎょ)」
高貴な方の死去について使います(天皇、三后)。
例文
・母は、昭和天皇ご崩御の日を今でも鮮明に覚えているそうです
「もしも」を想定するのは人として生き抜く上での大切な備え
「逝去」と「死去」の違いと使い分けは理解いただけたでしょうか?
特に会社勤めをしている人は、社葬の他にも、上司の身内の葬儀を手伝うことがあるかもしれません。
大勢の人が参列する場で慌てることのないよう、言葉の使い方を覚えておきましょう。
「もしも」を想像するのは不謹慎なことではなく、大切な人達を思うからこその心構えだといえます。
(前田めぐる)
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